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ウェザー・ウィッチ

 ウルフェン達は転送魔法を使えるイヌ族を中心に4つの班に分かれ、城へと向かい始めた。

 ガナード達は要塞にあった馬車を数台貰い、ネッコ―国へと向かっていた。

 誰も話さない緊張で張り詰めた空気の中、第1部隊の10人とガナードは馬車の中で揺らいでいた。

 馬車には厚手の布の天井で覆われ、中はやや薄暗く感じる。その中でややすし詰め状態になおり、鎧で武装した兵士が何とも言えぬ不気味さを覚えた。

 ガナード達は最初に敵とぶつかる。足止めとはいえ、大多数の兵士を足止めしなくてはいけない。

 「怖いか?」

 一人の兵士がガナードに声をかけた。

 「え?あ、ああ。やっぱり、怖い・・・と思う」

 「そうか。この時は緊張するものだ。けど、その緊張は悪いものではない。むしろ、その緊張を克服し、敵に挑め。それを忘れ、敵に突っ込む事は死を意味するぞ」

 「死・・・」

 ガナードはあの鉱山の日のことを思い出した。

 緊張も恐れも無く、ただやけくそになり、死んでても助けようとしたあの日。内臓までズタボロにもかかわらず生き残った。

 あの日、マジールの治療とマコトの魔法のおかげで生き残ったが、今に思えば、限度があるのではないのかと疑問を覚えたが、今はそれをそっと胸にしまった。

 「まあ、こんな大層なことを言うが、隊長の受け売りだ」

 笑顔で彼は言う。

 「大隊長とはどこで会ったんだ?」

 「大隊長?」

 「白騎士。もとい、グリフィス隊長のことさ」

 「ああ。なるほど」

 「で?どこで会ったんだ?」

 周りの兵士も気になりだし、自然と注目の的になった。

 「鉱山で会ったんだ」

 「鉱山と言ったら、少し前にそこを仕切ってる部隊が全滅したとか聞いたな。そこで会ったのか?」

 「ああ。というか、そこの部隊を全滅させたの、自分達なんです」

 「なに!?」

 目を大きく開き、ガナードを見つめる。

 周りの兵士も少しどよめく。

 「あの部隊相手によく無事でいたな。陰湿で残虐な事で有名な部隊だぞ?」

 「まあ、死にかけはしたけど、何とか勝ったし、何なら町の人も解放した」

 「そう!それだ!解放した町民はどこにいるんだ?」

 「避難させたけど、元の町の名前何て言ったっけ?やたら長くてダサい感じはしたんだけどな・・・」

 「とりあえず、みんな無事なんだな?」

 「ええ。安全と生活は保証できる環境にいますので」

 「凄いな。君は一体何者なんだ?」

 「うーん。何者って聞かれたもなぁ・・・」

 ガナードは腕を組み、考えているとあることに気づく。

 「ん?あれは?」

 道の先にある、山の向こうにチラリと城が見えた。

 そのことに周りの兵士も気付き始める。

 「君の王の城ではないのか?」

 「その、実をいうと、ネッコ―国の人じゃないんだ」

 「え?ネッコ―国側じゃなければ、ドゥージー王国なのか?」

 「女神側って言うのが妥当なのかな?」

 「女神側?」

 兵士は首を傾げ、周りにの兵士に答えを求める。

 「ま、まあ、超越者だかなんか知らないが、変な魔法を使うやつがこの戦場にいるんだ。女神側の勢力も出て来ても不思議じゃないか」

 半ばあきらめかけてるように言う。

 ガナードは顔を兵士から、城があった先の山を見ているとあることに気づく。

 先程まで快晴だった空が、城のあったほうにだけ炭のように黒い雲が集まるのが見えた。

 それは城を覆うくらいにまで大きくなると、中で雷が反射し、そこから下はボヤがかかったように空間が霞む。

 まるでゲリラ豪雨。

 前の世界で、ゲリラ豪雨が発生する原因はアスファルトと冷房によるものとテレビで聞いたことがあったが、そんなもの、この世界にはない。

 天気が・・・変わる。

 「まさか!」

 ガナードは馬車の荷台から身を乗り出し、ミールが乗ってる 馬車を探す。

 「あれだ!」

 馬車から跳び下り、ネコのように足と手を使い着地する。

 「おい!どうした!?」

 突然の行動に心配した兵士が呼びかける。

 「用事が出来た!終わったらすぐに戻る!」

 ガナードはミールのいる先頭の馬車へと走り出し、その上に飛び乗った。

 「ミール!」

 そう呼びかけながら中を覗く。

 その声に反応し振り返ったのはラーブルと手綱を握るグリフィスの2人だけで、ガウェインとミールはゲリラ豪雨に釘付けになってガナードの声は届かなかった。

 「どうしたんですか?突然こちらに来て」

 「ごめん。今はミールに用事があるんだ」

 馬車の屋根から中に入り込む。

 「大丈夫か?ミール」

 肩をつかみ、自分に意識を向かせる。

 「ガナード・・・」

 ミールの目は泳ぎ、ガナードの顔と城の方角を何度も交互に見やりながら、

 「エスティナが、あそこにエスティナが!」

 動揺を隠しきれず、城の方向へ指をさし、今にも1人で突撃していくような焦りを手を通じて伝わる。

 「ああ、分かってる。けど、今は作戦に集中しよう」

 「集中できるわけないでしょ!妹が!探してた妹があそこに居るの!」

 ミールは手を振り払い、馬車から飛び出そうとした瞬間、グリフィスにローブを捕まれ、無理矢理中に引き戻される。

 「落ち着け!焦る気持ちは分かるが、お前ひとりでどうこう出来るわけないだろ!」

 グリフィスが睨み、圧をかける。

 「うるさい!私1人でも行く!退け!」

 グリフィスの圧に屈することなく、再び飛び出ようとするミール。それをガナードが羽交い締めで止める。

 「放して!放しなさいよ!」

 ミールはガナードの腕の中で暴れ、抵抗する。

 「俺が取り返す!」

 「え?」

 ガナードがそういうと、彼女は暴れるのをやめ、彼の顔を見つめる。

 「出来るわけないでしょ!戦場のど真ん中に突っ込んで、足止めするのがあんたの任務でしょ!連れて戻ってくる暇がないじゃない!」

 「ウッ!」

 改めて言われると、確かにその通りで言い返せない。

 「そ、それでも!取り返す!約束する!」

 「なんで?なんで、そこまでするの?あたしにそこまでする義理なんてないでしょ!」

 「『義理』なら・・・ある!」

 「はぁ!?」

 余りにも訳が分からず、ミールは首をかしげる。

 「あの時、鉱山で俺は助けられた。ミールが来なかったら俺は死んでいた。だから、この恩を返す義理はある!」

 「あれは・・・あれは私のせいで起きたことでしょ!?義理も恩もない!」

 「例えそうだとしても、無視は出来ない」

 ガナードはそっと羽交い締めを解く。

 「だから、ミールはグリフィス達のサポートをしてくれ。取り返したら、第1部隊のところへ戻って、作戦通りにポータルで撤退する。それができるのは、ミール。お前だけなんだ」

 「・・・」

 ミールは俯き、黙ったまま座る。

 「・・・ミール」

 「・・・絶対に」

 顔を上げ、ガナードを睨みつける。

 「絶対に取り返してきてよね。しくじったら、あんたのこと。一生許さないから」

 「わかった。絶対に、取り返す」

 「・・・終わったか?」

 一連のやり取りを見ていたグリフィスは伺った。

 「え?あ、ああ。見苦しいところ見られたな」

 今のやり取りを見られた2人は恥ずかしくなり、そっぽを向く。

 「というか、グリフィス!あれ、どういうことだよ!」

 ガナードは城のあるほうへと指さす。

 「まだ数日位は猶予があるだろ?なんであいつらは攻撃してるんだ!」

 「理由は定かではない。食料が尽きるのが早かった。だが、その情報を掴む手段を握る方法は無いに等しい」

 「じゃあ、なんで攻撃に踏み切ったんだ?」

 「・・・思い当たる節が1つある」

 その言葉にガウェインが鋭く反応する。

 「なんだ!言え!」

 「こんなことをするような奴は、幹部のあいつしかいない——」

 


 ネッコ―国 ライオネル城周囲に展開してるデスボナ帝国駐屯地司令本部

 テントの中でふんぞり返って深く椅子に腰かける者と、その左右に立っている者が2人。

 「あーーーーーーーーーーあ!兵糧攻めって、マジでかったりィなぁ」

 椅子に腰かける獣人が大きなあくびをしながら愚痴る。

 彼はデスボナ帝国の幹部の1人、イタチ族ラーテルの『グヌトゥフス』。この作戦を取り仕切っている内の一人。

 「あーー!つまんねぇ!・・・え?やっぱそうだよなぁ!つまんねぇ!つまんねぇ!つまんねぇ!」

 子供が駄々をこねるように椅子の上で暴れる。

 「そう言わないでくださいよ。ライオネルと戦うのはそれだけリスキーですから」

 隣にいる獣人が少し弱気な声でそう諭す。

 グヌトゥフスの身の回りのサポートをしている、トリ族ミツオシエの『ベルベル』。

 「あなたも何か言ってくださいよ」

 立っているもう1人に言う。

 「・・・私も、いささかこの作戦には不服だ」

 ジッと城を見据え、物静かに言う。

 彼もデスボナ帝国幹部の1人、ヒツジ族アイベックスの『キエノフ』。

 「えぇ・・・あなたもですか・・・」

 ベルベルは呆れ、肩を落とす。

 一方のグヌトゥフスは『しかたねぇ』と言い、立ち上がる。

 「今から『秘密兵器』を使う」

 「まさか、能力を?」

 「ちげぇよ。まあ、待ってな」

 グヌトゥフスはテントから離れる。

 「秘密兵器について、何か聞かされたか?」

 キエノフがそう聞くが、ベルベルは首を横に振るだけだった。

 「てーてーてーてー」

 テントの外でグヌトゥフスが下手なファンファーレを歌うのが聞こえる。

 「ジャーン!」

 小脇に布でグルグル巻きにした何かを抱えたグヌトゥフスは、テントの入口を開き、外にあるものをお披露目する。

 テントの外にあったのは鉄格子でできた檻。そして、その中には枷をつけられた黒猫の獣人が隅っこでビクビクと体を震わせていた。

 「ウソ!ちょっと!マズいですよ!」

 血相を変えたベルベルが慌ててテントから出て、檻の中にいる獣人をマジマジと見る。

 「やっぱり、『ウェザー・ウィッチ』じゃないですか!連れてきて大丈夫なんですか!?」

 「いいや、ダメなうえに、始末書で済むか済まないかギリギリなところだ」

 焦るベルベルに対し、グヌトゥフスは表情一つ変えずキッパリという。

 「隊長!何してるんすかぁ!」

 「ゲヘへへへへへ」

 怒るベルベルを面白おかしく下品に笑うグヌトゥフス。

 「もー。今度は何の処罰が下るのやら・・・」

 頭を抱え、その辺をウロウロし始める。

 「して、グヌトゥフス」

 「あ?」

 キエノフが黒猫に指さす。

 「これを如何様にするのだ?」

 「決まってんだろ!」

 檻を開け、黒猫を無理矢理中から出す。

 「おら、これをもて」

 グヌトゥフスは布を解き、中から黒い杖を取り出す。その杖は約2メートル半あり、杖の取っ手となる部分以外は、槍でもないのに返しが全体的に付いている。

 黒猫は恐る恐るそれを手にする。

 「な、なんの、て、天気に、しますか?」

 今にも消えてしまいそうな掠れた声で黒猫は聞いた。

 「そうだな・・・取り敢えず、雨と雷、それと暴風で」

 「わかり、ました」

 「あ、あの城だけでな」

 グヌトゥフスはライオネル城へと指をさす。

 「は、はい」

 黒猫は杖を構え、呪文を唱えることなく2、3回グルグルと円を描くように振る。

 すると、どこからともなく黒い雲が現れ、ライオネル城へと集まる。

 集まったのを目視した黒猫は杖を地面に突き刺すように突いた。すると、雲の中でゴロゴロと雷が鳴り、滝のように雨が降り始め、風がどこからともなく吹き始め、竜巻になる。

 城外で見張りをしていた兵士は突然の嵐に驚き、慌てて城の中に戻る。

 「よしよし。いいぞ~」

 グヌトゥフスは手と手をすり合わせ、満面の笑みを浮かべる。

 「おい!攻める準備をしろ!攻城戦に持ち込むぞ!」

 グヌトゥフスはウキウキしながらテントにある自分の武器を取りに行った。

 だが、それもつかの間だった。

 「待て!様子がおかしいぞ!」

 キエノフは雲の中央を睨むように見る。

 その言葉にグヌトゥフスは振り返り、雲を見つめる。

 黒い雲は突然、何かに吸い込まれるように消え、残ったのは黒い点だった。

 雲が消えると、その点も消え、何事もなかったように城から見張り兵が出てきた。

 「なんだ?今の?」

 「あれが噂の鎧の力か?」

 「あれがか!」

 グヌトゥフスの目が輝き、感銘の声を漏らす。

 「何の鎧だ!なぁ、何の鎧だ!」

 「ふ~む。少なくとも、武器の鎧ではないな」

 「そんなの見ればわかる!俺が聞いてるのは、どっちの鎧だって聞いてるんだ!」

 「それは私もわからん。ライオネル城を攻めた部隊と超越者はみな死んだんだ。国民に尋問しても分からないの一点張り。情報源は無いに等しい」

 「あーも!使えねぇ!」

 頭を掻きむしり、イライラを何とか抑えようとする。

 「しかし、あれは何なんだ?あんな魔法、あったか?」

 「知らねぇよ。俺は暫く横になってるから、何かあったら起こせよ」

 そう言い残し、グヌトゥフスはテントの中に戻った。

 「あ、あの!」

 「ん?」

 黒猫がそわそわしながらキエノフに声をかける。

 「こ、これ、返します」

 顔を俯かせ、手をブルブルと震わせながら、ゆっくり杖を差し出す。

 それをキエノフは受け取らず、黙って杖と彼女を交互に見やる。

 「なぜ、お前は逃げない?」

 「え?」

 突然の質問に、彼女は思わず顔を上げる。

 「その杖の力があれば、この拠点を潰し、逃げることは可能だ。だが、何故それをやらず、ただ、黙って従う?」

 「逃げても・・・私に帰るところなんてない」

 「ふむ。それは、故郷を焼かれたとかか?」

 「故郷は焼かれてないけど、無いと一緒」

 「家族は?」

 「・・・いない」

 少し間があったことにキエノフは疑問に思ったが、自分には関係のないと言いきかせ、気に留めず、杖を受け取る。

 「最後に、名前を聞いてもいいかな?」

 「何故です?」

 「ウェザー・ウィッチと言うのは、いささか可哀そうだと思ってな。名前くらい呼んでもよかろう?」

 「私は・・・『エスティナ・マルーシャル』です」

 「エスティナか。私はキエノフだ。縁が合ったら、またこうして話そう」

 「ありがとう、ございます」

 エスティナは命令された訳でもないのに、自ら檻の中へと戻った。

 (マルーシャル。傭兵時代の時、どこかで聞いたのだが・・・)

 「ふーむ」

 顎髭をなぞりながら記憶を巡らせるが、キエノフは思い出せず、そのままその場を去った。


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