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彼女の名はラーブル・メルキドナ

 「ニンゲン?」

 ベッドの上で腰かけている女性が首をかしげる。

 ガナードは目をこすり、再度確かめる。

 やはり人間だ。農民の服を来ているが、顔で分かる。猿のようなケモノ肌ではなく、色白とした綺麗な肌。毛は後ろに団子の用にまとめられた髪と眉毛といったような毛しかない。目はまるで綺麗な川のような水色。

 「ニンゲンって、何ですか?」

 女性が首をかしげる。

 「え?」

 「私はラーブル・メルキドナです。『ニンゲン』という名前ではありません」

 「そ、そうですね」

 腑に落ちないガナードであった。このモヤモヤを解消するため、試しにこう問いかけた。

 「所で、あなたは何族ですか?」

 「私はサル族のチンパンジーと言われてます」

 「言われてます?」

 「はい。お父様もサル族のチンパンジーで、そう私に教えてくれました」

 「お父さんてことは、ラーブルさんは『この世界で』生まれたわけですか?」

 「? おかしなことを聞きますね。私はヴィーヴィレッジで生まれたんですよ」

 「ヴィーヴィレッジ?」

 「ここから北にある村です。皆、無事だといいのですが」

 眉をひそめ、窓を見つめ心配げな顔をする。

 今の話を聞く限り、彼女、ラーブルは『異世界からきた』と言うわけじゃあなさそうだ。 以前、マコト達はガナードの誤解を解くために女神さまに前にいた世界の事を教えられた。その時の反応からすると、人間という生き物はいなかったと思われる。

 実際、人間だということを彼女が秘密にしている可能性があるかもしれないが、そう決定づける証拠がない。

 ガナードは詮索することをやめ、話しを戻す。

 「そういえば、マコトから私に会いたいと聞いたのですが」

 「ああ!そうでした!」

 手をポンと合わせ、ハッとする。

 「ちゃんとリリィ様をウルフェン様に会わせたんですか?リリィ様、あんなに怖がっていたから、心配で心配で」

 「それなら安心してください。ちゃんとウルフェン様に会えましたよ」

 「よかった。今はどうしてるんですか?」

 「ウルフェンに引き渡して、その後は知らないですね」

 「そうですか。でも、その話しからするとリリィ様は無事なようですね」

 ラーブルは安堵の笑みを浮かべ、ほっと一息つく。

 「そういえば、どうしてラーブルさんは捕まってたんですか?」

 「私のことはラーブルでいいですよ。畏まらなくて大丈夫です」

 「分かりました」

 「えっと、捕まってた理由ですね。私、不思議な力が使えるんです。それをコーチピック様に目を付けられ、捕まってしまいました」

 「不思議な力?」

 「何ていえばいいんでしょう?その、『止める』事ができるのです」

 「とめる?」

 「はい。止めれるんです。そうですね・・・何かないかな?」

 ラーブルが立ち上がり、何かを探し始める。

 ゴォォォン

 突然、轟音がなり、要塞が少し揺れる。

 「なんだ!?」

 ガナードの頭の中に、ある考えが横切る。

 (邪魔者を一カ所に集め、まとめて消す)

 先程の作戦室でアレックスが話していた可能性。

 この轟音はその侵略の始まりなのか?だとすると、ここにいるのはマズイ!

 「逃げるぞ」

 ガナードはラーブルの手を掴み、引き寄せる。

 「どうしたんです?」

 「帝国がここを潰しに来た!」

 「帝国が?窓を見ましたけど、帝国の人たちは誰もいませんよ?」

 「なに?」

 ガナードは窓に近づき、外を見る。

 外には湖の周りで駐屯している兵士だけがいて、先程の轟音で少し混乱しているのが見える。それ以外、何もなかった。

 「なんだったんだ?今の音・・・」

 ゴォォォォ

 また轟音が響き渡る。

 今の音でどこで鳴っているか分かった。

 今いる所の何階か上で鳴っているようだ。

 「少し見てくる」

 「私もいいですか?」

 「危ないから来ないほうがいい」

 「大丈夫です!いざとなれば、私の力も使いますので!」

 「いや、そうは言ってもだな」

 「コーチピック様に目をつけられた力ですよ?大丈夫です!」

 グイグイと距離を詰め、ガナードを説得する。

 「・・・わかった。ただし、危なくなったら逃げること。いい?」

 「はい!」

 


 ガナードとラーブルは階段を駆け上り、音のする方へと向かった。

 駆け上るにつれて音源に近づいている。音源は見張りがいる屋上からだ。

 2人は屋上に着くと、すぐにその音源の正体が目に入った。

 「オラァ!」

 「ムゥン!」

 ガウェインと鎧を脱いだグリフィスがクロスカウンターを交わし、互いの顔に拳が叩き込まれる。それと同時に2人は体を床で跳ねらせながら吹っ飛ぶ。

 「何してんの!?」

 遂にやりやがった!やっぱり付いていくべきだったと後悔する。

 ガナードは近くいたガウェインに近づこうとするが、ガウェインはすぐに起き上がり、床を蹴り、グリフィスとの距離を詰める。グリフィスも同じく距離を詰める。

 2人は格闘戦を再びはじめ、見張りの兵士はそれを黙ってみている。

 ガウェインは中国拳法、グリフィスは米陸軍格闘術。

 グリフィスはボクシングのように殴りかかる。それをガウェインは柔らかい手つきで受け流し、後ろに回り込み、後頭部に一撃を入れようとするが、翼を大きく広げられ防がれる。ガウェインは後ろに宙返りし、その翼をすれすれで避け回避する。着地すると、毛が何本か切れ落ちる。グリフィスは後ろに回り込まれる際に2撃ほど受けた攻撃をこらえながら翼を閉じ、ガウェインを見据え、構えなおす。

 2人の異種格闘技にガナードは思わず見とれてしまったが、ハッと意識を戻す。

 「何で黙って見てる!?」

 ガナードは近くにいた兵士に聞く。

 「それが、あの2人に手を出すなと言われたので、そうしてるのです」

 「手を出すな?」

 「はい」

 兵士も困った様子で2人の戦いを見届けていた。

 「そうだ!『止める』!」

 ガナードはラーブルの存在を思い出す。

 「ラーブル!さっき言ってた力で、あの2人を止めてくれ!」

 「私の力ですか?いいですよ!」

 ラーブルは張り切り、両手を前に出す。

 「フンッ!」

 腕に力を籠める。

 だが、何も出ない。

 「え?」

 ガナードは魔法のような物が出ると期待したが、文字通り何も出ない。

 2人の方に顔を向ける。

 「あれ?」

 先程まで激しい格闘戦を繰り広げていた2人が攻撃を入れる寸前で動きを止めていた。

 止められた2人も目だけを動かし、何が起きているのか理解できずにいる。

 「止めました!」

 ラーブルがドヤ顔で報告する。

 「あ、ああ。そのまま止めてくれ」

 ガナードは2人のところに行き、グリフィスを引きずり、距離を離した。

 ラーブルはそれに合わせ、片手を動かす。

 「解除してくれ!」

 「わかりました!」

 ラーブルが手を戻すと、止められた2人は動けるようになり、先程の攻撃を空ぶらせる。

 「グリフィス!これから大きな戦いがあるっていうのに、何で戦っている!?」

 ガナードはグリフィスの前に出て言う。

 「今、私達は親善試合をしているんだ!邪魔しないでくれ!」

 「そうだ!邪魔するな!」

 真剣な眼差しで2人がガナードに言う。

 「親善試合!?あれが!?」

 「「そうだッ!!」」

 「殺し合いの間違いだろ!」

 「「どこがだ!?」」

 2人はため息を吐き、肩を落とす。

 「あーあ。萎えた」

 ガウェインは頭の後ろに手を回し、捻くれた子供のような態度を取る。

 「まったくだ」

 グリフィスは腕を組み、拗ねる。

 「ちょっと待って。『親善試合』って事は、2人は仲直りというか、関係は良くなったのか?」

 「そうだ。だから、こうして仲直りの試合をしていたんだ」

 グリフィスが答える。

 「グリフィス!飯にしないか?」

 ガウェインが『白騎士』ではなく、『グリフィス』と呼んだ。

 「ああ、そうしよう」

 2人は高い壁を跳び下り消え去った。

 「俺が・・・悪いのか?」

 ガナードは自分を指さし、周りに聞く。

 「どうしたのですか?」

 ラーブルが聞き返す。

 「さっきの2人、物凄く仲が悪かったのに、急にフレンドリーになってるんだよ」

 「そんなに仲が悪かったの?」

 「一触即発を体現したかのような関係」

 「えぇ・・・それほど仲が悪いのですか」

 「ああ。だから2人の格闘戦を見た瞬間、『ああ、遂にやっちまった』って思ったんだ」

 「でも、仲良かったですよ?」

 「そうなんだよ。何があったか知らないけど、なんやかんやで仲が良かったな」

 「じゃあ、仲直りできたならそれでいいですね」

 「まあ。そうなんだけど」

 結果はいいけど、過程を知らないため腑に落ちないガナードであった。

 「私達もご飯を食べに行きませんか?」

 ガナードの手を取り、言う。

 「そうだな。そうするか」

 「では、行きましょう」

 ラーブルが手を引き、ガナードは肩の力を抜いて、引かれるがままにひかれた。


 時間をガウェインとグリフィスの2人が、ガナード達の前から消えたところまで遡る。 

 2人は一切会話することなく、会議室に戻り、何故か席に着かず、扉の前で睨み合う。

 会議室の空気が重くなっていく。

 「お掃除をし―失礼しました」

 モップを持った清掃員が扉を開け入ろうとしたが、2人を見た瞬間扉を閉め、逃げるように会議室の前を後にした。

 しばらく沈黙が続いた後、また誰かが扉を開ける。

 「あれ?白騎士にガウェインおじさん」

 リリィが扉をから顔を覗かせう。

 「ここで何してるの?」

 「今、大事な話しをしてるんだ。お兄ちゃんの所に戻りな」

 ガウェインが言う。

 「黙って見つめ合うのが話し合い?」

 リリィが2人の顔を交互に見やりながら聞く。

 彼女の質問に2人は何も答えず、ただ、黙っていた。

 「喧嘩してるの?」

 「「・・・」」

 確かに喧嘩はしている。そうしてる場合じゃない事も理解できてる。

 「仲間なのにどうして喧嘩してるの?」

 「「・・・」」

 そう。こいつは『仲間』。だが、こいつに背中を預けるのは出来ない!

 「ごめんなさいが出来る内にごめんなさいしよ!」

 「・・・ッ!」

 ガウェインは目を丸くし、リリィの顔を見つめる。

 「ふぅ・・・」

 グリフィスはため息一つ吐く。

 「リリィ。ここに何しに来たかは知らないが、今は2人にしてくれ」

 「白騎士!いや、グリフィス!」

 ガウェインが唐突にグリフィスの前に両膝を付き、両手で包み込むように彼の片手を握る。

 「悪かった!許してくれ!」

 「な、なに!?」

 突然の行動と謝罪にグリフィスは戸惑うが、ガウェインはお構いなしに続ける。

 「その、お前たちを見てると頭に血が上って、考えられなくなるんだ。言いたいことは分かってくれるだろ?全て許してくれとは言わない。許さなくてもいい。けど、ライオネル達を助けたいんだ!そのためなら何でもする!だから、許してくれ。いや!許してください!」

 ガウェインは深く頭を下げる。

 

 「白騎士さんは謝らないの?」

 リリィが白騎士の顔を見上げ見つめる。

 グリフィスは彼女のまっすぐな瞳を見つめているうちに、嫌気がさした。ガウェインと喧嘩している自分に。頭では分かっても行動できない自分に。彼女のような純粋さが消えたことに。

 グリフィスは片膝を付け、

 「いいや、虎王様。私のほうが謝らなくてはならない。思えば、敵である私がこうも図々しく居るのもおかしいし、協力を仰ぐのに首だけというのは考えが甘かった。誠に申し訳ない」

 グリフィスも深く頭を下げる。

 「ほら!仲直りできた!エライエライ!」

 リリィは背伸びをしつつ、2人の頭を撫でる。

 いい年した2人は正直、複雑な気持ちになるが、笑顔で撫でる彼女を見るとそんな気持ちはどこかへ消えた。

 「リリィお嬢様!どこへ行かれたのですか?」

 護衛騎士団の一人が会議室に入る。

 兵の目の前には小さい女の子が大の男二人の頭を撫でている。しかも、男二人は満更でもないと言わんばかりの表情を浮かべている。

 「なにを・・・なされてるのですか?」

 兵の存在に気付いたグリフィスとガウェインは慌てて立ち上がり、互いに顔を逸らし咳払いをする。

 「ほ、ほら、リリィ。お迎えが来たぞ」

 「あまり一人で動くなよ。ウルフェン兄ちゃんが困るぞ」

 「はーい。2人もケンカしないでね」

 「ケンカ?」

 兵が2人の顔を交互に見やる。

 「気にしないでくれ。何でもないから」

 「そうだ。気にするな」

 「そうですか。では、行きましょう。リリィお嬢様」

 兵はリリィの背中に手を添え、会議室を共に後にした。

 足音が遠くなっていくのを確認すると、グリフィスが口を開いた。

 「突然どうした?いきなり謝られるこっちの身にもなってくれ」

 「その・・・いや、何でもない」

 「そう言われて流せると思うのか?」

 ガウェインは深く息をし、話し始めた。

 「俺は、オースタインが死んでから少し自暴自棄になっていた。あいつは誰よりも民を思っていた。自分だけじゃなく、ネッコ―国にも。けど、そんなあいつが民の手で殺された。それを俺は見ていただけで、何もできなかった」

 自分の手に視線を落とし、強く握りしめる。

 「そしてそこにお前たちの侵略。そこでも俺はドゥージー王国が滅びるのを見てるしかなかった。悔しかった。何もできず、ただ苦しんでいるのを見ることしか出来なかった俺はただ自分に嘆いていた。だがな、オースタインは『まだ』生きていた!」

 「生きていた?」

 「ああ、生きていたんだ!確かにあいつは死んださ。『肉体』はな。でも、あいつの『意思』はまだ生きていたんだ!」

 「その意思ってのは、もしかして、リリィのことか?」

 「ああ。リリィに言われたあの『どっちも謝れ』って言葉、オースタインにそっくりだった。初めて会った時も、あいつにそう言われてライオネルと仲直りしたんだ」

 どこか楽し気に話すガウェイン。それだけオースタインの存在は大切だったと確信のようなものをグリフィスは感じ取った。

 それと同時に、リリィの目を見た時のことを思い出した。なぜ、自分はあそこまで引き込まれたのだろう?それ程のカリスマ性があるということなのか?

 「そして、思った」

 ガウェインの目つきが鋭くなる。

 「もう、これ以上友や民が目の前で消えていくのを見ていくのはもうごめんだ。その為なら、プライドも王位も捨てて戦う。そう決意したんだ」

 「なるほどな」

 「だから、次の作戦。どうか-」

 ガウェインが両膝を付け、頭を下げようとした瞬間、

 「もういい。わかった」

 グリフィスが彼の肩に手を乗せ、止める。

 「あなたの気持ちは十分伝わった。それに、喧嘩しててもしてなくても作戦は遂行するつもりでいたさ」

 「・・・ホント、俺は王様の器じゃないな」

 ガウェインが顔半分を手で隠し、顔を横に振る。

 「だが、この戦で負けたらオースタインに顔向けできないぞ?」

 「それもそうだな」

 ガウェインはゆっくり立ち上がり、グリフィスもそれに続く。

 「ん?待てよ」

 グリフィスが口ばしに手を添える。

 「どうした?」

 「いや、さっきの話からすると、ドゥージー王国に単身乗り込みしてきた理由が分からないんだ。それも、自暴自棄でやったことなのか?」

 「気付いてなかったのか?いや、そう言うってことは作戦が成功したってことなんだよな」

 「作戦?」

 「ドゥージー王国にも『鎧』があっただろ?それを回収したのさ。俺はその陽動」

 「なるほどな」

 「そこでだが、あの時の続きをしないか?」

 ガウェインが拳を作り、グリフィスの胸に軽く当てる。

 「あの時ってのは、私と戦ったあの時か?いきなりどうした?」

 「いや、思い出したらもう一度勝負したいと思ってな、体を慣らすついでに」

 「ふむ。そうすると武器が必要だな」

 「いいや、拳で十分だ」

 「拳か。久々だな。だが、私はともかく、あなたが怪我をしたらー」

 「その時はガナードの仲間のシバ族に治させるさ」

 「そうだな。場所はどうする?」

 「塀の屋上があったから、そこでやる」

 「よし。じゃあ、行くか」

 「手加減はするなよ?」

 「ああ、遠慮はしないさ」


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