合流
要塞の中の牢屋でミール達は牢屋に閉じ込められていた。日も差さないジメジメとした個室に、申し訳程度のドッポン便所に、ボロボロのシールがかかっているベッド。
3人の手には枷がかけられ、武器を取り上げられているが、ミールに関しては魔法を使われると厄介なため、足にも枷をかけられ、口は猿ぐつわを食わえさせられてる。
廊下から足音が近づいているのが聞こえる。
鍵を持った兵士がミール達のいる牢屋の前で止まる。
「王子から釈放の命が下った。3人とも変な気を起こすんじゃないぞ」
兵士は牢屋を開け、中に入り、3人の枷を外していった。その間、3人は抵抗せず、黙って枷を外させた。
「あー!口がいかれるかと思った!」
ミールが口を何度も開けたり閉じたりしている。
カテジナとシャニィは枷を付けられていた所を撫でる。
「出口はこっちだ。ついてこい」
兵士が牢屋から出て、3人を待つ。
「その前に、白騎士さまと会いたいのですが、よろしくて?」
カテジナが兵士の腕に巻き付きながら聞く。
「か、構いませんが。その、くっつくのをやめてくれませんか?」
顔をカテジナから背け、誘惑に耐えながら答える。
「あら、ごめんなさい」
「い、いえ」
カテジナは離れ、兵士から一歩下がる。
「で、では、こちらに」
兵士は歩き始め、それに3人は付いていった。
「ねえ。私達と一緒にいたクマ族知らない?」
ミールが兵士に尋ねる。
「あのクマ族は、シバの僧侶と共に尋問されている。が、虎王に解放され、王と共にいる」
「虎王?どうしてここに?」
「それは私らもわからん」
「なにそれ?でも、無事なのね?」
「ああ」
「それと、私の武器も返してくれるのよね?」
「返すとも。ただし、この要塞を出てからだ」
「今でもいいじゃん。あと、あの杖、大切なものなのだから、傷つけたら、ここ吹っ飛ばすからね!」
「なに?」
兵士は足を止め、ゆっくり振り返り、ミールを睨みつける。
「今のはあんたが悪い」
カテジナがそう叱責する。
「・・・わかった。悪かったわよ。今のは、言葉の綾よ。あんたたちが大切に保管してるなら、問題ないんだから」
「杖なら大丈夫だ。ちゃんと保管してある」
「ならいいのよ。早く進んで」
「ミール」
あまり悪びれないミールにカテジナが強く言う。
「・・・案内してください」
場所は変わり、グリフィスは一室を借り、自分の部隊、総勢3,40人に会議室での事を伝えていた。ガナードは入口の前でガウェインを待っていた。
本来は作戦会議をしたいところだが、肝心のガウェインが警戒心むき出しなうえ、喧嘩腰である。だから、それをどう払拭するかを部下と相談していた。ガナードはガウェインが来た時、その足止め要員として立たされていた。
「白騎士殿はあちらの部屋にいます」
「案内ありがとう」
廊下から声が聞こえ、ガナードはそこに顔を向ける。
そこにはカテジナ達がいて、向こうもガナードの存在に気付いた。
「ミール!」
ガナードは部屋の前から離れ、ミールに歩み寄る。
「ちゃんとやったの?」
「ああ。それに、これを見てみてくれ!」
ガナードは右腕を突き出し、炎を纏合わせた。
「ちょ!何してんの!?」
ミールは驚き、一歩身を引く。
「手をかざしてみて」
ミールはドン引きしながらも手をかざし、ガナードの炎が本物かどうか確かめる。
カテジナとシャニィも興味を示す。
「あったかい。本物だ・・・てか、熱くないの!」
「ああ。それに、この炎、何故か俺の服は燃えないんだよな。サマルーンの服は燃えたのに。何か特別な素材で出来てるのか?」
「それは分からない。それより、その炎。詠唱しないで出したよね?」
「ああ。やっぱり、魔法ってのは詠唱しないと出ないものなのか?」
「そうよ!熟練者でも出せるけど、その分疲労や魔力が尽きるのが早くなるの。てか、本渡したでしょ!」
「渡されたその日に召集がかかっただろ?読む暇がなかった」
「そういえば、そうだった」
「まあ、この炎がどういう炎かは後日詮索するか」
ガナードは腕を振り、炎を消した。
「ところで、白騎士はどこなの?」
カテジナが聞く。
「白騎士は今、あの部屋で部下と話し合ってる」
「じゃあ、これから本格的に動くわけだね?」
「いや、それが―」
ガナードは会議室で出た話しをカテジナ達に伝えた。
「厳しい状況だねぇ」
全てを聞き、カテジナが最初にそう一言はなった。
「虎王が鎧を身に着ければ形勢を変えられるようなことを言ってたけど、その鎧の伝説は本当なのか?」
顎に手を当て、ガナードはそう尋ねる。
「気持ちはわかるさ。でも、今回の帝国の侵略でその鎧の存在は本物だと言うのはネッコ―国を見れば分かる」
「確かに。最初の侵略を防げてるしな」
「まあ、今は鎧の力を信じるしかないのかね?」
「結構ギリギリの状況で、それに頼るってのも・・・賭けだな」
「この状況じゃあそうなるのも仕方ないさ。あたしらも出来る限りは協力はする」
カテジナはガナードの肩をポンポンと優しく叩く。
「話しは終わったか?」
後ろから話しかけられる。
振り返ると、そこにはガウェインが立っていた。その後ろにはマコトとヴァルもいた。
「これは虎王様」
カテジナ達は跪こうとしたが、ガウェインは『そのままでいい』と止めた。
「あいつはどこだ?」
辺りを見回しながらガナードに聞く。
「あいつって、白騎士のことで?」
「そうだ。もう一度、話したいと思ってな」
「今、取り込んでるのでまた後でってのは?」
「いや、そんな時間はない。今すぐ白騎士と話したいことがある。案内を―」
「ガナード!居るか?」
部屋から扉を開け、グリフィスが顔を出す。
その声にガウェインが振り返り、グリフィスはガウェインの存在に気付く。
ガナードは『あちゃ~』と言わんばかりに頭に手を当てる。
「「ちょうどいい所に」」
不思議と2人の声がハモり、ガナードの腹痛を誘発させる。
「白騎士、2人で話しがしたい」
「私もだ」
グリフィスは部屋からでて、ガウェインの前に立つ。
「俺を挟んだほうがいいんじゃあ?」
ガナードが2人の間に入る。
「「大丈夫だ」」
2人は睨み合ったままガナードに一切顔を向けることなく、また声をハモらせ言う。
「場所はあるか?」
「ああ。こっちだ」
グリフィスが歩き出し、ガウェインもそれに続く。
(どうか、何も起きませんように・・・)
ガナードは心の中で強くお祈りする。
「あれ?隊長は?」
部屋からグリフィスの部下が出てくる。
「ガウェインと一緒にどこかへ行った」
「本当か?」
「ああ。そっちは何か案は出たの?」
「いや、何も出ていない」
「マジで?」
「ああ。最後に『誠意を見せるしかない』って言って出ていったんだ」
「マジで何をするんだ?」
「わからん」
ガナードは2人が過ぎ去った廊下を見つめ、思わずため息が出る。
「マコト~」
「何です?」
ガナードはマコトに近づき、同じ目線になるようしゃがむ。
「ほっぺ触らせて」
「唐突に何ですか?」
「いいから触らせてくれよ~。頼む!」
ガナードは手を合わせ、頭を下げる。
「・・・しょうがないですね。いいですよ」
「よっしゃ!」
ガナードはマコトの頬に手を伸ばし、肉を掴む。
その肉を何度も引っ張ったり、左右上下に伸ばしたりしてガナードは遊ぶ。
前の世界で柴犬の頬が伸びるということを思い出したガナードは、マコトの頬が気になり、いつかやってみたいと思い、それが今実現したことで少し満足する。
「なにしてるの?」
ミールが引き気味に聞く。
「マコトのほっぺって伸びるからさ、触りたくてつい」
「へー・・・」
ガナードがほっぺで遊んでるのを皆が興味津々で見つめる。
「ちょっと私にも触らせてよ」
ミールがガナードを押しのけ、マコトのほほを引っ張る。
「ホントだ。凄く伸びる」
「ミールさんまで・・・」
「私にも触らせて~」
ヴァルもマコトの頬を引っ張る。
「すご~い。これ面白いね~」
「『これ』って・・・あ、そうだ。伝言がありました」
「伝言?」
「はい。地下で拘束されてた人なんですけど、あなたに会いたいとのことでした」
「地下に?ああ、ガウェインの横にいた」
「その人です」
「どこにいるんだ?」
「ヴァルさん。案内できますか?」
「いいよ~」
ヴァルはマコトの頬から手を放す。
「こっちにきて~」
ヴァルが歩き始め、ガナードはそれについていく。
「ねえ、私も触っていいかしら?」
「私も触りたい」
「俺もいいか?」
マコトの周りにカテジナとシャニィ、グリフィスの部下達までもが集まり、頬を触り始めた。
「なんで私の頬を・・・」
ヴァルに案内され、とある一室の前に着いた。
「ここにいるよ~」
「ありがとう。ヴァル」
「いいよ~」
「体は大丈夫なのか?」
「うん。マコトちゃんのおかげで何ともないよ」
「そうか。それはよかった」
ガナードは安堵の微笑みを見せる。
「じゃあ、私、マコトちゃんのほっぺ引っ張りに戻るね~」
「ああ。分かった」
ヴァルがマコトのところに戻るのを見届けた後、ガナードはドアをノックする。
「どうぞ」
扉の奥から聞こえた。
「入るぞ」
ガナードは扉を開け、中に入る。
部屋の中は窓際にベッドが一つ。壁際に椅子と机が備え付けられている。来客用の寝室の用だ。
「なッ!!」
窓際のベッドで腰かけている人を見た途端、言葉が詰まった。
そして、次にこの言葉が漏れるように出た。
「ニン・・・ゲン!?」