恐らく史上最悪のデスゲーム
過去に類を見ない、救いのないデスゲームが始まります
―――――このVRMMOゲームは特殊であった。舞台となる中世風ファンタジー世界はひとつの国のみ。
運営はどれだけイベントを開催しようが、かたくなに他国は追加しなかった。
他国自体は存在していて、交易などを行っている設定なのだが、ただの一度も他国へ渡る機会はなかった。
そしてプレイヤーのキャラメイクも少々特殊で、種族の違いは外見以外に目立った差異は無く、ジョブはスタート時で共通(後に枝分かれしていく)でスキルも皆基本セットのみで選択不可能。
こんなゲームで人気が出るのか?と訊かれると「万人向けでは無いが、好きな者はどっぷりハマるゲーム」と大体の者が返す。
そんなゲームの、大きな定例イベント中に悲劇はひそかに始まった。
そのイベントとは、品評会である。
今まで積み上げてきた技術、蓄えてきた知識、鍛え上げてきた相棒等。それはもう様々なものを披露する場であり、最近始めたプレイヤーには参考になる情報と言う宝の山となるイベント。
そのイベントも終わりに近付き、表彰式も済み、残りは運営の挨拶のみとなった。
「プレイヤー諸君、メニューを確認してくれ」
これが、悲劇の幕開けとなった言葉である。
「ログアウトボタンが消えているはずだ。ログアウトするにはこのゲームをクリアする事が条件となる。……そう、デスゲームの始まりだ」
運営のその言葉を聴き、同時に全プレイヤーへ送られた同じ意味を持つメッセージを確認した瞬間、長くプレイしているプレイヤー達は絶望した。逆に、まだ始めて日が浅いプレイヤーは混乱するだけであった。
このゲームのタイトルだが『農業大好き』と言う、ド直球でなんの捻りもないゲームだ。
プレイヤーはまず農民となり、国から農地と言う名の特別な異空間発生装置を貰い、気に入った場所に設置。そして田畑や酪農、果樹園などを経営する。
特別な品種の農産物の種苗や農具、家畜はイベントの賞品で手に入れるため、それらをもっているプレイヤーは羨望の的となる。
農地経営が主題なのでPvP……ひいてはPKの概念なんぞ当然存在しない。
そもそもな話で、スタミナの要素はあってもHPと言う無くなったら死亡。なんて要素は導入されていない。
隣近所のPCNPC関係無しに、どうすればもっと美味しい農産物(畜産物)を作れるか。それを話し合いながら、あるいはひたすら孤独に独自のやり方を試行錯誤してコツコツ努力する事を楽しむのだ。
デスゲームとして使えそうな要素など、何一つ無い。
そんなゲームだ。
「「「「どうやってクリアするんだよ!!!」」」」
「「「「と言うか、クリア条件なんてあるのかよ!!!」」」」
クリア出来ないデスゲーム。こんな残酷な事は滅多にない。
デスゲームが始まって約一時間位経った頃。
再び全プレイヤーに運営からメッセージが届く。
こんな目に遭わせた運営に対して何も期待していないプレイヤー達だったが、届いた物を無視する訳にもいかず、そのメッセージを読んだ者は全て目が点になった。
〈デスゲームを勢いで始めたは良いけど、すぐに社長から中止命令を説教付きで食らいました。ですので、お詫びの品を全プレイヤー様に配ると共に、デスゲームは終了。ログアウトボタンの表示を戻しましたので、引き続き本ゲームをお楽しみ下さい〉
点になった目が、思考が、まともな状態に戻る頃には、やはり全プレイヤーが同じ思いを抱いたと言う。
このクソ運営。と。
これ以降クソ運営を意味する言葉として、デスゲームを始める際に運営が使ったあの言葉が語り継がれたのは言うまでもない。
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ちなみにですが、枝分かれしたジョブの情報の一部をご紹介。興味がなければささっとシカトでどうぞ。
物理農家:脳筋スタイル。オールウェイズ人力。力さえあれば農家は出来る。チカラis農家
軽魔法農家:人力ではツラい所だけ通常魔法で代用する
重魔法農家:通常魔法で出来る農作業は全て魔法で行う。折角の存在する魔法、使わなきゃ勿体ない
テイマー農家:力仕事の部分を馬や牛、場合によっては魔物を使役する事で解決している
錬金農家:錬金術を使って行う農法に活路を見いだした
エレメンタル農家:妖精や精霊が大体やってくれる
ネクロノウカー:数少ないカタカナ農家。音の響きがカッコイイ。死霊術を使いゾンビや骨に仕事をやらせる、作物に匂いがうつらないか少し心配になる農家。なおゾンビや骨の使役期限が過ぎると、そのまま畑にまぜこまれて肥料として使われる。採れる作物の品質は良いのだが、やはり匂いがネックになる。
鉱山農家:キワモノ農家筆頭。なぜか畑から鉱脈が顔を出し、農産物ではなく鉱物を産出する農家。鉱脈を育てるには普通の農業で使う肥料と言う、理解の範疇を越えた農業スタイル