ep66.5② ”THE GAME”
①の続きです。
人間を何度呼び寄せても、何も食べることが出来なければ人間は死んでしまう。
そこでオフィサー達は人間の食糧となる植物を作り、星にばらまいた。
その芋のような植物に気付く人間もいれば、気付かずに餓死する人間もいる。
ただ単に芋を食べ続ける生活にうんざりして、自ら命を絶つ者もいた。
個体によって色々な選択をする彼ら人間達に、オフィサー達は更に興味が湧いた。
どうすれば、人間達はこの絶望的な状況から、生きる活力を見出すことが出来るのか。
死力を尽くした人間が今まで何人かいて、彼らは皆壊れた宇宙船を直そうと躍起になっていた。
ならば、宇宙船が直せるという希望を見出せるような状況を作ってやればいい。
そこでオフィサー達が目を付けたのは、この星に眠るアーティファクトだった。
眠ったアーティファクトを一時開放し、人間達とアーティファクトが出会うように仕向た。
結果は上々。
記憶を亡くしているアーティファクト達だったが、元々人間に協力的だった彼らは、この謎めいた作為的な状況下でも招かれた人間達に非常に友好的だった。
ここでまた一つ問題が生まれた。
アーティファクトとの絆を深め、この星に永住しようとする者や、監視に気付き、オフィサー達の意図にそぐわない行動を取る者が現れた。
ならばと、強制的に宇宙船を直すシナリオを辿るよう、オフィサー達は人間とアーティファクトの敵となる存在『エージェント』を作った。
エージェントは各アーティファクト毎に一体ずつ作成され、彼らの監視という名目で作成以降の数百年任務についてきた。
以後オフィサー達はこの娯楽行為を、"THE GAME"と呼ぶことにし、招いた人間を"プレイヤー"と呼んだ。
レイ・ランカスターもオフィサー達に招かれた人間の内の一人だ。
和名でないのにもかかわらず、日本語しか扱えない彼の生い立ちも特殊なのだが、そのレイがとあるアーティファクトと出会い、事件は起きた。
オフィサー達の娯楽としてボロ雑巾のように扱われてきたアーティファクト「N-2049」と、レイが接触した際、「N-2049」の潜在パラメーターが跳ね上がったのである。
彼らの異変に気付いた唯一のオフィサーメンバー「スヴァローグ」は、この星での生物分野の担当だった。
N-2049の変化は、スヴァローグが任務について約800年、彼がこれまでで経験したことのない興奮を与えた。
いつも同様に、人間がエージェントに葬り去られる事を避けたかったスヴァローグは、他のオフィサーメンバーに悟られぬよう陰ながらレイ達の支援をしていた。
しかし、オフィサー達のリーダー「ペルーン」だけは、彼の不審な行動に気付いていた。
スヴァローグが実際どんなことをして彼らを支援していたかは謎だったが、制裁を加えるには十分だった。
オフィサー同士の対立は御法度。
そこでペルーンは、勝手な行動を取ったスヴァローグに間接的な制裁を加えた。
スヴァローグのエネルギー供給システム内に、密かにウイルスを流し込んだのである。
流し込まれた本人は気付くことなく、思考回路、戦闘力共に蝕まれていった。
ペルーンはスヴァローグがレイ達に戦いを挑み、自ら死滅するよう仕向けたのである。
本来の彼ならば半覚醒状態のN-2049など相手ではないが、ひどい混乱状態の中、他のオフィサーに知られることなくスヴァローグは息を引き取った。
直近のオフィサー達の会議でペルーンは、スヴァローグが「プレイヤーに破壊された」ことを皆に伝えた。
かつて起こりえなかった大事件に、メンバーは動揺した。
特に元々この娯楽行為に反対だったメンバーは、より強く批判した。
会議の中でも特に大きな意思決定をする場合、緊急的な「決議」が開かれ、その審議をメンバー全員で決めることとなっている。
審議は満場一致で今回のプレイヤーの抹殺。
手始めとして、何故か起動してしまっていた「アーティファクトNo3」の収容を実行することが決まった。
作戦は今夜に実行されるだろう。




