56話 火中
雷が降った日の夜。
火の確保のため、シェルターから少し離れた場所に来ている。
落ちた雷が植物を燃やし、ライトがなくても出歩ける程には明るい。
燃えた植物から火種を回収する。
燃えやすい枯れた枝等で火を持続させることは出来るが、金属を加工するほどの熱となると火力、木材共に足りない。
そこで火力を補うために炭を作ることにした。
本格的な炭はこの星の環境では作れないが、簡易的な炭なら道具さえあれば作ることが出来る。
空気の入りにくい密閉された容器に木材を入れ、焚火の火にかけるだけ。
酸素不足の状況で木が燃え続けると原子同士が完全結合出来ずに炭素が残る、つまり炭が形成されるらしい。
金属のケースの中に木材をいれ、平らな金属板で蓋をする。
しばらくするとケースからガスが出て来る。
このガスが収まり更に時間が経つと炭の完成だ。
試したことはなかったが、炭の確保は思ったよりも簡単に出来た。
この作業を数回繰り返し、相当な量の炭を作った。
定期的に炭をくべれば、火には困らないと思う。
シェルター内に簡単なかまどを作った。
金属の加工をするには道具が足りないが、とりあえず火の準備は出来た。
ここで木の実や野草を焼いたりしてもいいかもしれないな。
火の確保が済んだところで、いよいよ夜間探索の開始だ。
この星の虫達は灯りに集まるといった習性はないようで、あちこちに灯された自然のランプ付近には虫の気配はあまりなかった。
火の付近にいる数少ない虫の中で特徴的だったのは、きらびやかな甲殻に揺らめく炎を写し出す虫だ。
蝶の鱗粉のようなものが付着した甲殻で、ゆらゆらと動く炎を見事に再現している。
目的はよく分からないが、擬態の一種だと思う。
N2が見たら喜びそうだ。
一番多く見かけたのは、虫達の発生時に確認した蛍のような虫だ。
俺の星の蛍は光ることで周囲とコミュニケーションを取ると言われているが、こいつらはどうなんだろう。
木と木の間を飛んでは、別の木に止まり再び飛び立つを繰り返している。
それによく見たら個体毎に微妙に光の色が違う。
ベースは黄色だが、青っぽく光る個体や赤っぽく光る個体もいる。
その幻想的な光景に見とれていると、一匹の蛍がウツボカヅラの中に落ちてしまった。
落ちた蛍の光によって壺がパッと光る。
光り方からして消化液に溺れまいともがいているようだが、さすがのウツボカヅラからは逃れられない。
少しの抵抗を見せたあと、溺れた蛍は動かなくなってしまった。
ウツボカヅラの中を覗くと蛍が仰向けで浮いている。
浮けるのに溺れたのか……。
もしかしたら呼吸器官が口ではなく羽の後ろとかについていたのかもな。
しかし、溺れたはずの蛍の腹部は依然として光ったままだ。
実はまだいきているのか? などと考えていると、腹部から消化液に滲むようにして光が漏れていく。
そして腹部の発光は次第に消え、消化液の方に移ってしまった。
一匹の蛍を犠牲に、なんとも幻想的な光る消化液が出来上がってしまった。
待てよ……この光り方、N2達のボディの輝きに似てないか?
これは是非とも回収すべきだろう。
用意していたガラスの試験管に、液体に直接触れないように慎重に消化液を注ぎ入れコルクで蓋をする。
量はそれほど多くはないから、実験するにも節約して使わないと。




