38話 アンチ・メニー・レッグ
「蟻たちが木の実を運んでいる!!」
N2はテンション高めでそう叫んだ。
木の実が列を作って移動していたのではなく、蟻が木の実を運んでいたのだ。
N2の知る限りでは、植物と同じく、この星に俺が来る以前には蟻の存在は確認できていなかった。
それに、どれくらいの期間なのかは分からないが、蟻達がN2の記憶がある以前から冬眠を続けていたとは考えにくい。
星中を見回ったわけではないが、実際に黒い生命体を破壊したこのポイントでしか蟻は確認できていない。
きっとこれも黒い生命体の破壊がきっかけだろう。
ピノが読み取った船内の芋のメッセージの『別の栄養』が、黒い生命体を壊したことで漏れた何かだとすると、この蟻達も『別の栄養』の影響で出現したと考えるのが無難だろう。
となると、黒い生命体を破壊したことで何かが漏れだし、それが他の生物に影響を与えている……とか?
N2によると、この蟻は図鑑に載っていない種類らしく、正確な情報は分からない。
種類によっては毒を持った蟻も存在するらしいので、迂闊に触らない方がいいと言われた。
「こいつらを追っていけば、巣が見付かるかもな。まぁ見付けたところでどうしようってわけでもないが」
「種類が未知故に、正確な行動パターンは把握したいね。思わぬところで役に立つ技術があるかもしれないし。ただ蟻によっても様々で、巣を作らない種類もあるらしいんだ。今優先すべきことではないかもしれないね」
そ、そうなのか……。
てっきり蟻は、みんながみんな巣を作る虫なのかと思っていた。
それに、N2の言うこともごもっともだ。
蟻を観察していて、また襲われて死んでしまいました、では洒落にならない。
一番の優先事項はこの星から早々に脱出することなんだから。
あれ、そういえばピノが見当たらないな……。
どこいったんだ?
周囲を見回すと、少し離れた木の根元にピノの姿を見付けた。
何故か木の裏に隠れ、頭だけを出してこちらを覗いている。
「ピノ、どうした?」
「心配はご無用です。ピノはここから周囲の監視を続けますので」
「そ、そうか。でも蟻だぞピノ。見たことないだろうし、もっと近くで眺めたらどうだ?」
「大丈夫です。お気遣いなく」
なるほど、これもN2とは違う特徴だな。
ピノは虫には興味なし、と。
虫は無視……んん、13点。
すると、しょうがないなぁ、とN2。
蟻一匹をひょいと持ち上げ、ピノのいる木へ向かっていく。
「やめなさいN2! 生き物が可哀そうですよ!」
「なんて?」
「来ないで!」
聞く耳を持たず更に接近するN2。
というか聞こえてるけどあえて近付くN2。
たまらず逃げ出すピノ。
更に追うN2。
あ、わかった。
興味がないんじゃなくて、ピノは虫が苦手なんだ。
「レイ様!! 助けてください!! 足が多いのは苦手なんです!!」
な、なるほどね。
8本も! 8本もあります! とピノ。
いや、頭から生えてる2本は触覚なんだけどね。
「N2ー、やめてやれ。嫌がってるだろ」
「せっかくへんてこなのに」
色々とおかしいだろ。
へんてこを勧めるなよ。
蟻の集団の下へ、拾った蟻を返すN2。
返された蟻は始めこそバタバタしていたが、何事もなかったかのように群れへと戻り、そして蟻達はどこかへ消えていった。
あの蟻達がもし成長し続けたら、植物が枯れるのと同じように死んでしまうのだろうか。
念のため1匹くらい捕まえておけばよかったかもしれないな。
「俺達も黒い生命体のパーツを回収して船に戻るか」
不思議なことに、猛威を振るった刀や火炎放射器の部品は見当たらなかった。
部品が散らばった範囲をどれだけ探しても、だ。
破壊されて散ったのではなく、消失したという表現が正しいだろう。
考えたくはないが、武器を奪われないような加工をされているのだろうか。
少なくとも黒い生命体には特殊な技術が隠されている。
細かい部品しか残っていなかったが、N2達が腕で抱える程と、俺のポケットと両手にいっぱいの量が集まった。
これでレーダー以外の宇宙船の機能をいくつか直せるかもしれない。
少しずつではあるが、また一歩脱出に近付いたような気がした。




