37話 グリーン・サーズデイ
黒い生命体の刀の攻撃で頬に傷を作ったものの、N2もピノも被害を特に出さずに黒い生命体の奇襲を退けた。
負傷した俺に負い目を感じたのか、ピノが手当てをすると言って聞かないので、取り急ぎ船に戻ってきている。
「ピノの判断ミスです……すみません」
「謝らなくていいって。元はと言えば俺があいつを挑発した結果だし」
そういうと、ピノは無言でペコリと頭を下げた。
何か言いたげで、納得はしていない様子。
ガソリンに塗れた服を脱ぎ、水を含んだタオルで体を拭う。
酷い匂いだ……。
風呂も入りたいし、洗濯もしないと……。
幸い、簡単な医療キットが船内にあったので、それを渡し、傷の具合を見てもらう。
頬の傷から出た血を、ピノがガーゼで拭き取る。
血を拭いながら、ん? あれ? とピノ。
「レイ様……。さっき付けられた傷が……見当たりません」
いやいや、そんな馬鹿な。
切られたときは確かに気が付かなかったが、流血する程の傷だ、そんなすぐに治るはずがない。
そう思い、先ほどまで血を流していた箇所に触れる。
が、本当に傷がなくなっている。
思わず首を傾げると、N2とピノも真似して首を傾げた。
やばい、写真撮りたい。
「レイ、傷があった箇所を見せてくれ」
と、N2。
もしかしたら黒い生命体に攻撃された際に異物が混入した可能性があるかも、と。
右腕を解析モードにしたN2が、俺の頬に触れるが、解析結果は特に異状はなかった。
この星の植物の成長速度のように、俺自身も何かしらの影響を受けて、異常な回復速度を引き起こしているのかもしれない。
細胞の分裂回数は人によって決まっている。
N2達の起動で縮んだ寿命が、更に縮んでいる可能性がある……。
この星に長居するのは危険だ……。
N2が初めて黒い生命体を倒した時は、止めを刺せておらず、やつはエネルギー弾が効かない体となり復活した。
傷の手当のために一度船に帰ってきたが、さっき爆散した黒い生命体は部品が細かすぎて恐らく再生は不可能と判断し、そのまま放置してきた。
念のためミニN2達に見張らせていて、最初の探索で使った通信技術で、金属に変化があればミニN2達からN2に報告が入るように設定しておいた。
カメラ持ちのミニN2が映像を送信することが出来ればよかったのだが、先ほどの戦闘で故障したらしく、それは叶わなかった。
連絡は特に入っていないので、今のところ星に元々落ちていた他の金属の端材と同様に、動いたりする気配はないようだ。
あれだけ細かくなっても宇宙船の修理に使える部品はあるはず。
あとで回収しに戻らないと。
気になるのは黒い生命体が止めを刺された際に、黒い靄が出て空に消えていったことだ。
機械がショートした時などに出るような煙とは全く違う。
どことなく不気味で、黒い生命体の恨みそのもののように見えた。
大気汚染の心配もあるし、原生している植物にも影響があるかもしれない。
今後木の実を食べるときは、もう一度N2に解析してもらおう。
気になると言えばそうだ、黒い生命体の2体目が現れたことだ。
N2が地上を彷徨っていた時はバレル型の個体しかいなかった。
今回は、炎と刀を武器に持つ個体。
考えられる原因は、1体目を倒したが故に2体目が現れたというケース。
もしくは、ピノとの出会いがきっかけとなり現れたケース。
1体目の黒い生命体は、エネルギー弾が効かないという、N2にとってはある意味天敵のようなアップデートを遂げて復活していた。
2体目はエネルギー弾が効かないということもなかったし、武器の炎に関してはピノ対策のようにも思える。
ということを踏まえると、2体目の出現はピノとの出会いがきっかけになったと考える方が妥当かもしれない。
けれど、2体目を倒したからといって、これ以上黒い生命体が現れないという保証もない。
今後はN2に直してもらったレーダーを頼りに、危険察知していく必要があるだろう。
汚れた体をタオルで拭い、服も着替えた。
黒い生命体の金属片の回収のため、奇襲を受けたポイントに向かおうと船を出ようとしていた時、N2が芋の異変に気付いた。
「レイ、イモの芽が少し伸びて、葉が2枚に増えてるぞ!」
おー、他の植物と比べて成長に時間がかかるだけなのか。
きちんと育ってくれれば、食糧としての見込みもありそうだ。
成長した芋に、ピノが何気なく触れる。
「レイ様にまた感謝していますね。水だけだとうまく育てないから、別の栄養をくれてありがとーって」
別の栄養?
芋には雨水をあげたきり何も与えてないぞ?
以前芋が芽を出したタイミングは、黒い生命体が地下で自爆した後……。
今回も黒い生命体を倒した直後だ……。
きっかけは黒い生命体の破壊……?
慌てて船外へ出て、外の植物達を確認する。
雨が降った後ほどではないが、明らかに成長している。
レーダーでの周囲の反応は特にない。
危険があっても対処できるように、3人で炎を出す黒い生命体を破壊したポイントへ向かうことにした。
植物の成長度合いは、ポイントに近付くに連れ増していっていた。
ミニN2達が監視していた黒い生命体を破壊するポイントに辿り着くと、炎はすっかり消えていた。
焼け焦げた地面と灰こそ残っていたが、そこから新たに植物が生え、木と呼べる程に成長している。
そうか……報告条件の設定内容は、『黒い生命体の金属片に変化があった場合』だ……。
これだけ景色に変化があったのに報告がないのも無理はないか……。
そして肝心のミニN2達は、一か所に集まり何かを覗き込むようにしていた。
こいつらほんとに機能してるのか……?
遠目から見ると、木の実が列を作りひとりでに動いている。
それをミニN2達は覗き込んでいた。
こいつらほんとに……。
植物が成長しすぎて、木の実に足でも生やしたのか?
もう驚かないぞ。
生えた足に、すね毛が生えているところまで想像したぞ。
俺の想像を超えてみろよ。
N2が興味深々でミニN2達の下へ駆け寄る。
はっとした表情、か分からないが、はっとした仕草でこちらに振り向きながらN2が叫んだ。
「レイ!! 蟻だ!! 蟻たちが木の実を運んでいる!!」




