21話 カイセキ
「私の右腕は、物体の構成情報を解析することが出来る」
N2は少し得意げにそう言った。
突然難しそうな言葉を言うものだから、少し驚いてしまった。
構成情報というと、どんな成分が入っているか、とか?
「例えばこの木の実は、大きく分類すると、15種類の成分で構成されている」
おぉ、なんかカッコいいぞ、それっぽいそれっぽい。
多分ビタミンとか、炭水化物とかの栄養素のことかな?
「しかし、それが何の成分なのかは分からない!」
「わかんねぇのかよ! あ、でもそうか、栄養素の概念がないのか」
N2が見た図鑑と小説には、上記で挙げたような栄養素は出てこない。
つまり、物体の含有成分自体が分かっても、それを表現する方法がないんだ。
俺も詳しい知識はないから、教える事も出来ない。
「そこでだ。あの図鑑の情報を、私の解析で裏付ける方法を考えた」
「毒、か?」
「私が言いたかったのに! そう、レイの言う通り。図鑑の有毒情報が、成分を解析するにあたって重要なカギだった。私の解析だけだと、どの木の実もほとんど同じ成分で出来ている、ということくらいしか分からない。けれど、何か比較対象があれば話は別だ」
N2は近くの水溜まりを右腕で触れると、
「この水溜まりは、見た通りほぼ水分で構成されている。私の右腕の解析結果は、水溜まりの98%が水分で出来ていると示している。残りの2%は複数の成分で出来ているけど、私が認知しないため、何の成分かまでは分からない」
続いて、俺が投げ捨てたハナミズキの実を拾い上げ、
「この実の成分は、76%が水分で出来ている。これは私が、水という成分を認知しているために導き出せる結果だ。そして15種類の成分の内の1つが水分、ということになる」
なるほど、なるほど?
「その他の24%が、残りの14種類で占められた割合。水分を含め、どの木の実も同じような構成で出来ている。一部を除いてね」
ふむ、だいたい読めてきたぞ。
「つまりN2、その一部ってのが有毒な成分で、毒を含んだ木の実だと考えたってことか。で、図鑑の情報と照らし合わせるt…」
「あぁ、私が言う、私が言う! 図鑑の情報と照らし合わせると、その一部を含んだ木の実が有毒という表記がされていた、というわけさ!」
捲し立てるようにN2が言い放つ。
まったく、油断も隙もないんだから、と何かぶつぶつ言っていた。
「人体にとっての【有毒】が、どんな症状を引き起こすのか分からない。けれど、私がいればその危険を回避出来るはずだよ」
レイが無事にこの星から出られるのなら、私はどんな努力だってするさ、とN2。
そこまで感謝されることをしたつもりは全くない。
けれど俺だって、お前がいなかったら、どうなってたか分かんないんだぜ。
水溜まりでバシャバシャと足踏みし、足に付いた泥を落とすN2をしばし眺め、次なる変化に備え俺達は船内へと戻った。




