169話 モノリスの回収
「以降は、好きなときに糸を出すことが出来るぞ!」
表情こそ見えていないが、さぞ自信ありげなそれが容易に浮かぶ声色でスヴァローグは言った。
そんな誇らしげに言われても……。
実際、ただの糸だ。
以前であれば、つまりN2達を直すために虫の捕獲が必要だったかつての状況ならば話が違うが、今は使い道はないだろう。
「そ、そうなんだ……。糸を……ね」
「おいおい、少年、どうした? 眠いのか? それともまさか驚きすぎてリアクションが取れなくなっているのか?」
俺の反応の鈍さに、信じられない気持ちを露わにするスヴァローグ。
ほら、見ていろ! と指に嵌めたリングから、やっと見える程の、まさしく蜘蛛の糸をぷらんと垂らしてみせるが、これまでにもっとすごいものを見てきたせいで、正直この程度か、と思ってしまっている自分がいる。
というか、独特の粘っこさも精巧に再現されていて、きちんと指にまとわりつくし、最早鬱陶しさまである。
「えっと……この糸、ちょっとしまってもらえる?」
「んなッ!? ちっとも興味がなさそうではないか! ……ようし、分かった。確かに、この程度で驚けと言う方が無理があったな。今に見ていろよ少年、次こそは必ず君の空いた口を塞がらなくしてやるからな」
「いや、そんな悪役みたいな台詞を吐かんでも……」
ご機嫌取りを狙う訳では無いが、スヴァローグは少なからず協力的ではあるし、以降こいつがなにやら自信めいた発言をしたときは、少しオーバー気味に反応してやろうと思うのだった。
そんなやり取りを経て、蜘蛛から立ち去ろうとした時。
「待て待て少年。せっかくの支援タイプなんだ。回収しないでどうする」
「回収……? いや、眺めるならまだしも、そもそも俺蜘蛛ニガテだし、連れて歩くなんてゴメンだぜ?」
いくら機械だと分かっていても、あの独特なフォルムに体を這われるのは勘弁願いたい。
たくさんある足で妙に落ち着いて動く様がなんか嫌だ。
もちろん素早く動かれても嫌だけれど。
そもそも、教材としての役割、つまり糸を出す能力のコピーは完了しているから、もうこいつは用済みなのではなかろうか。
「連れて歩く? type-ENDを使えばそんな面倒な事せずともよかろう。ほれ、蜘蛛に指輪をかざしてご覧よ」
言葉通り、指輪を嵌めた手を差し出すと、指輪からレーザーポインターのような赤くて細い光線が蜘蛛型のモノリスへと照射された。
すると蜘蛛がサラサラと砂のように崩れ落ちていき、指輪が巣もろとも粉末状になったそれを吸い込むような形で回収してしまった。




