161話 届ケ物
灰紅色の恐竜は、体の一部を徐々に変化させていった。
前脚の爪は伸び、更に鋭く、後脚の筋肉はボコボコと肥大化していく。
戦闘を行うために、体を造り変えたのか?
いやしかし、先程俺達を守ってくれた灰翠色の恐竜は、同じように爪を伸ばしたりしているわけではない……。
とすると、敵によって対応を変えている……?
尻尾の変形を最後に、灰紅色の恐竜は、間髪入れずにエージェント2へ飛びかかっていった。
それを両腕の刀で受け止めるエージェント2。
しかし、灰紅色の恐竜が刀を爪で薙ぎ払い、空いた隙間から蹴りを一撃。
更に、蹴りを喰らって体勢を崩したところに、回し蹴りならぬ、回し尻尾が炸裂し、そのままエージェント2は数メートル後方に吹き飛んだ。
戦い慣れしている、なんてもんじゃない。
初見の相手にあそこまで出来るものなのか?
それでいて、アクロバティックな動きに見えるが、打撃音が軽そうな攻撃ってわけでもない。
何キロもある重たいハンマーで殴ったような音が、攻撃時に出ている事から、一発一発にかなりの威力があると見て取れる。
その証拠に、蹴りと尻尾の攻撃を受けたエージェント2のボディは、痛々しく傷が付き、凹んでいる。
衝撃的な光景に、呆気に取られていると、ラズがグイっと俺の袖を引っ張った。
そして無言でリーダー格の灰蒼色の恐竜の方を指す。
「あ、えっと、そうだ……俺に何か渡すものがあるんだっけか」
これまたラズが無言で、うんうんと頷く。
何か喋っちゃいけないルールでもあるのか?
それとも、目の前の戦闘に言葉を失くしている……いや、それはないか。
灰蒼色の恐竜が、ゆっくりとこちらへ近付いてくる。
敵対されてないとはいえ、やはり怖いものは怖い。
さすが、恐い竜と言われるだけはある。
しかし、こんなに強い恐竜達のボスって一体……。
大きさはもっとデカいんだろうか。
そもそも恐竜なのか。
なんの意図があって俺達を助けた……?
「この声は……はぁ、ボスってそういうことかよ」
ラズが、ばつの悪そうに呟く。
「声? 何か聞こえるのか?」
「あぁ。届け物、とやらを受取ればきっと分かるぜ」
灰蒼色の恐竜が目の前で立ち止まり、内部を見せるようにガバっと口を開く。
うぉおおお、怖えええ!
ヤバい、駄目かもしれん!
恐竜、怖い! 怖い、恐竜!
「ななな、なん、ラズ、どうすりゃいいんだ!?」
「ばーか、ビビり過ぎだ。口ん中だよ、ほらそこ、右の前歯のとこ」
「ま、前歯? これか!? この歯が届け物か!? よし、いいか、抜くぞ! ふぬぬぬぬ」
「アハハ、ちげーよ! 抜こーとすな! その隣の歯の根本だよ、あるだろ黒いのが!」
口内にキレイに並ぶ鋭い歯。
その隙間に、何やら黒色のリングが挟まっている。
挟まっている、というより下の歯に引っ掛かり、ぶら下がっている。
口の中に恐る恐る手を入れ、リングを引き抜く。
「ううう……こわ……」
「お前にもニガテなもんがあるんだな。あぁ、おもしれーもんが見れたぜ」
「あるよ、たくさん。怖いものだらけだよ」
というか、笑うな。
それはそうと。
恐竜から受け取ったリング、正しくは途中で途切れているので、完全な輪ではないのだが、それをしばし眺めていると、ラズがすんとした態度で言った。
「そいつを指に嵌めてみな」
「指に……?」
確かに、指輪にも見えなくはないが。
反射的に、利き手とは反対の左手の指に嵌める。
すると、リングがぶるぶると震えだし、リングから音が聞こえてきた。
いや、リングが喋りかけて来た。
「いやぁ少年。ご機嫌いかがかな?」




