126話 最後の作戦
(「……承知しました……」)
少し間を置き、セシリアが応答する。
言いたいことはあるだろう。
この期に及んで今更何をするのかって。
セシリアが示した、どのプランにも属さないアクションだからな。
俺の生存を第一優先にしているセシリアからは、到底出てこないはず。
(「前方2キロ先に、深さ1メートル程のくぼみのある箇所を発見。相当な量の雨水も貯まっています」)
(「ダメだ、遠いな。もっと近い距離は?」)
(「先程のものよりも規模は小さいですが、右斜め後方50メートル先に」)
(「ギリギリ届くかどうかだな……。よし、そこにしよう」)
臨戦態勢を取ろうとしているピノに目線をもどす。
俺の体にこれだけのことが出来たんだ。
セシリアならきっと……。
(「……? レイ、あなたまさか……」)
ピノへ視線を向けた事で、どうやらセシリアは気付いたらしい。
俺がこれからしようとしていることを。
セシリアにさせようとしていることを。
(「私の活動限界まで残り3分もありません。その間に終わるかどうか……。それでもやるのですか?」)
(「うん、多分これしかない」)
ただの余裕か、それともピノを警戒してか、やつら黒い機械達はこちらの様子をうかがっている。
おそらく前者の方だろうが、体をこわばらせながら彼らと相対するピノをすくい上げるのには、十分な時間があった。
「レイ様!? ピノはお逃げくださいと言ったはずですよ!?」
手のひらの上で、驚きと一層不安げな表情を見せるピノ。
震えてるのは多分、雨で冷えた俺の手ではないはずだ。
それに、こころなしかピノがいつもより小さく思える。
「またそうやって、ピノだけ逃がそうとするんですか……? 二人と比べて戦えないから、大切な人を守ることもさせてもらえないのですか……?」
敵のいない後方に向けた俺の視線にピノが気付き、今にも崩れ落ちそうになりながら、声を絞り出す。
ごめんな、せっかく覚悟を決めて立ち向かってくれてるのに。
違うんだ……逆なんだよ……ピノ……。
やつらには俺がピノを逃したと見せかけ、少しでも時間をかせぐんだ。
まだ俺達が諦めてないってことを、やつらに悟られるわけにはいかない。
(「セシリア、準備は?」)
(「いつでもいけます」)
(「ピノのこと、よろしくな。またいつか……」)
(「……えぇ、またいつか」)
ピノをすくい上げた手を振りかぶると、バチッという静電気のような音と共に、セシリアの気配が体から消えるのを感じた。
ズシリと重くなった体の感覚を無視して、ふりかぶったピノを後方の水たまりへと思い切り放り投げた。
頼んだぞ……二人とも……。




