106話 気を付けて!
N2が辺りを照らしているおかげで、薄暗い雑木林の景色にも徐々に慣れてきた。
初めこそ生き物の気配を感じなかったが、目を凝らして観察すると周囲は虫だらけのようだ。
「この辺で俺が知ってるのは、ムカデとかサソリくらいか。虫はあまり詳しくないけど、ほとんど見た事ないやつばっかりだな」
「それもそのはず。ここにいる昆虫達は、宇宙船にあった図鑑にも載っていないものがほとんどだよ。どんな進化をしているか分からない以上、むやみに触らない方がいいね」
今は多分眠ってて姿は見えないが、虫だけじゃなくてトカゲとかヘビとかの爬虫類や、変な声で鳴く鳥とかもいそうだな。
騒ぐことさえしなければ問題はなさそうだが、あまり長居しないほうがよさそうだ。
「あ、レイみて! あそこの木の枝のところ!」
「うわ、なんだあれ……蟻が何かに群がってるのか?」
N2の示す方向を見ると、丁度ラグビーボールくらいの大きさの蟻の塊が枝にぶら下がっていた。
塊を吊るしている糸のようなものも、よくみると蟻達が手足を伸ばして引っ張り合って出来ている。
これ全部蟻かよ……。
「あれはおそらく、ああして地上から離れたところに巣を作るタイプの蟻だね。同じ種類の蟻は図鑑には載っていないけれど、似たような行動をする蟻は載っているよ。彼らにとって、ここでは地中に巣をつくるよりも都合がいいのかも」
「塊のとこにいるやつらはいいけど、手足引っ張られてるやつはめっちゃ辛そうだな」
「そうでもないさ。レイや私が二足歩行を当たり前の事としているように、彼らはこれが当たり前なのさ。全部の蟻が同じことを出来るわけじゃないけどね」
なるほどな。
生き物毎の必然は、当たり前だけど生き物毎に違うもんな。
同情するのは野暮か。
「お、この穴はもしかして……」
次にN2が見付けたのはちょっとした土壁に出来た直径5センチくらいの大きさの穴。
目立つ場所ではないが、自然に出来たとは思えない。
これも多分何かの巣だろう。
「レイ、この穴にちょっと指を突っ込んでみてよ」
「普通に乗っちゃいけないフリだよなそれ、さっきお前がなんて言ってたか教えてやろうか?」
「私だって時と場合を選ぶさっ。もしレイがタランチュラに噛まれた時のために血清を作っておこうと思って」
「いや噛まれた後の努力より、噛まれないための努力をしようぜ」
「そうか……そうだな! なら指は突っ込まない方がいいな! 気を付けて!」
「あ、あぁ。そうするよ」
今日一日の体力のためにも、俺もツッコまない方がよさそうだ。




