103話 プレゼントってなーに
「いやー、やべえな。キノコのバターソテー。ほんとやべえわ」
食後10分経ってもまだ口の中が旨い。
夢のような時間だったな。
まさか遭難してこんな経験が出来るとは思わなかった。
いや、遭難していたからこそ味わえた思いかもな。
「ふふ。さっきからそればかりですね。そんなに美味しかったのですか?」
野菜を作っている身としては、少し嫉妬してしまいます! と、ピノ。
「ごめんごめん、ピノの作ってくれたのもちゃんと美味しいよ。今回のはバター効果がでかかったけど、今度からそのまま食べるんじゃなくて、ひと手間加えてから食べてみようと思ったよ」
「そうですね! ピノも料理に合いそうな子達を色々育ててみます!」
ピノが作ってくれる野菜はもうほとんど完成形と言っても過言ではなく、故に煮たり焼いたりするだけで満足してしまっていたという節がある。
今日の一件で、改めて料理の可能性を思い知らされた。
腹が満たされると、次に襲ってくるのは睡眠欲だ。
日中はグレに乗って移動しているだけだが、バランスを取ったり、めくるめく景色を眺めているだけでも割と疲れる。
少し早いが、今日は眠るとしよう。
N2の姿がさっきから見えないなと思い、辺りを見回すと、N2が少し離れたところでなにやら地面をほじくっている。
あんなあからさまないじけ方があるだろうか。
食事中は夢中で気が付かなかったが、あいつも飯が食いたかったのか?
「N2ー、そろそろ寝るぞー」
「あはは、お前ほんとに何も聞いてなかったんだな! 今のN2にその言葉はかけてやるな、さすがのアタシも少し同情するぜ」
「え、なになに。なんかあったの?」
ピノとラズの話を聞く限り、どうやらN2は眠れないことに不満を感じているらしい。
ラズもピノと同じように疑似睡眠のようなことが出来るらしいのだが、N2だけそれが出来ないのだとか。
そういえばさっきN2が寝ようとしてたな。
寝る必要がないって、人間の俺からしてみればかなり羨ましいんだが、ロボットからするとそうでもないのかな。
「ピノ、せっかくつけてくれた焚火、悪いんだけど消してもいいかな?」
「すぐに着け直すこともできますので、かまいませんよ!」
「ん、ありがと。二人ともテントに入って待ってて。ちょっとN2呼んでくる」
俺達から背を向けるようにして、N2は地面に絵を描いていた。
下手くそでよくわかんないけど、多分芋だ。
「いつまでそうしてんだよ、N2。いいじゃんか、眠らなくていいって、俺は便利だと思うぜ」
「でも、私は眠ってみたい。ちょっぴり怖い気もするけどね。もしかしたらもっと強くなれるかもだし」
あいつらが何を吹き込んだのか知らないが、強くはならないと思うのだが……。
怖い気もする……か。
記憶がなくなるかも、とかそういう話なのかな。
「なんか……よくわかんないけど……。まぁ、今日のところは俺のそばにいてくれよ。お前のテントが寂しそうにしてるぜ。それに、ちょっとしたプレゼントを用意してあるんだ」
N2をなんとか連れ戻し、それぞれがテントに収まった。
「プレゼントってなーに」
「まあそう焦んなって。俺がいいって言うまで、目をつむってて」
焚火に砂をかけて火が消えると、辺りは一瞬にして暗闇に包まれた。
ロボットの視界がどういう作りなのかは分からないが、俺の目が暗闇に慣れたタイミングで皆にも声をかける。
「もういいよ」
「……?
…………わーレイ! 見て! 空が! 空から星がたくさん降って来てる!!」




