90.5話 ぎゃらくしーずの休日
挿入話です。
彼らが星のアーティファクトと呼ばれる以前のお話。
「この星の村で最後だ。レーダーには30体映ってるな。……ったく、少人数の村にこれだけの過剰配備たぁ、植民地化を目論んでるのがバレバレだぜ」
「最近多いねー。護衛してると見せかけて、ただの捕虜だから質が悪いよ」
「さて、どうすっか。誰が行く?」
「敵の編成は1体がF式2型、その他は1型のようですね。誰が行っても問題はないかと思います」
「はいはいはい! ニアに任せて!」
「またおめぇかよ。じゃあアタシらは村への物資の準備をしておくから、帝国軍のアーティファクトどもの制圧が完了したら連絡s」
「んいってきまーー……」
「……まだ大気圏突入前だっての。フィル、いつものやつヨロシク。ロムはジッドを呼んできてくれ。今日最後の人助けだ」
世界がまだ小さな人形達の部隊の存在を認識する前、彼らは自らの集団を『ぎゃらくしーず』と名付け、任務の合間を縫って人々の救援活動を繰り返していた。
アーティファクト同士の戦争が宇宙規模で勃発し、世界が火の渦に巻き込まれてから早数年。
各国の勢力は主に3つに分類されている。
星の領地の獲得のためなら手段を選ばない帝国軍。
その思想に相反する国々が集結した反乱軍。
どちらにも属さず、戦争を止めることを目的とした共和国軍。
後に『星のアーティファクト』と恐れ、称えられたこの小さな機械達の部隊は、共和国に属する小さな国で生まれた。
当時主流だった大型アーティファクトとは違い、武器を積まない極小の宇宙船で活動していた彼らは、敵国の目をいとも簡単に欺き、秘密裏な潜入任務等を最も得意としていた。
大規模な戦闘が彼らにとって苦手な理由は、その手加減の難しさにあった。
彼らの生みの親であるドクターギルフォードは、そのあまりに強大な彼らの力を戦争で多用する事による悪目立ちを懸念し、彼らには極力戦闘を控えるように念を押していた。
押していたのだが……。
「ローズ! 制圧完了だよ! けどちょっと問題が発生した! 村の人たちが何かに怯えて逃げまどっている!」
「そりゃ十中八九お前のせいだ、ニア。まぁ後はアタシらに任しときな。ご苦労さん」
村人たちは、突然空から降って来て、軍の用意したアーティファクト兵達を一瞬で壊滅させた白い閃光に恐怖する他なかった。
ぎゃらくしーずが立ち寄ったこの星は帝国軍の管轄に置かれ、今でこそ被害は受けなくなったが、平和に暮らしていた人々にとって宇宙戦争が与えた傷は計り知れない。
非合法の兵器が生命を殺し、自然を壊し、豊かだった星のかつての姿はとうに失われていた。
白い閃光と帝国軍アーティファクトの戦闘は一瞬の出来事だったが、村人達にとって過去のトラウマを思い出させるには十分な光景だった。
「空からまた何か降ってきたぞ!!!」
「軍が置いてったアーティファクトがやられちまった! もうおしまいだぁ!!」
「外に出ちゃダメ!! 早くこっちへ来なさい!!」
「ママ……お花が、空からお花が降ってきた」
村一面を覆いつくす程の花が空から舞い落ちてくる。
それはそれでおぞましい光景ではあるのだが、その不思議な出来事に大抵の人間は目を奪われる。
「おーい! 安心しろ人間共! アタシたちが来た! もう大丈夫だ!」
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「じゃあさっき空から降ってきた白いロボットも、あんたらの仲間だってのかい?」
「だからずっとそう言ってんだろうがよ、もっとマシなやつ呼んで来い! 村長とか!」
「だから村長はワシじゃて……。もしかして君達が噂の『小さな人形達』?」
「まぁ呼び名は色々あるがな。あとアタシらはただのロボットじゃなくて、軍の作ったモノなんかより、ずっとずっとすげーアーティファクトなんだぜ!」
従来のモノよりも小型、かつ言葉を流暢に話す彼らにとって、人々の心の壁を壊す作業はお手の物だった。
人は皆不思議な人形達に魅了され、各々の卓越したチカラに度肝を抜かれる。
「……やはり土地が痩せていますね。であれば、この子達を植えましょう。フィルが育てた自慢の子達です、数日経てば食べられる大きさの実を付けますよ。え、世話……ですか? たくさん撫でてあげて下さい、喜ぶので!」
「はいはい一列に並んでねー。傷が酷い人がいたら呼んできてねー。お、擦り傷からの感染症だねぇ。君にはこの注射かな、はい次ー。……君は顔色からして栄養失調かな、ちょっと採血するねー。うん、なるほど、あそこにいる緑の子にこの紙を渡して作物を作ってもらって。それ食べてしばらくすればきっと良くなるよ。はい次ー」
「ねぇこれ食べてもいい? え、これもいいの? この星のタイヤは変わってるねぇ! うん、おいしい! どんどん持ってきて!」
「……噂によると君達は帝国軍の精鋭部隊も逃げ出す、暴力的な組織だと聞いていたが……まるで違うな。助かるよ……本当に……本当にありがとう」
「アハハ、あいつら束になってもよええからな! おっとそうだ、アタシも持って来たんだった。モチカワブタのつがいを置いていく。ひと月もすれば背中の表皮がたるんで収穫できるようになる。餌も自分で取ってくるし、繁殖も早い。でも、いいか、殺して食うんじゃねえぞ、肉自体はめっちゃまずいからな!」
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「ねぇ、空から降ってきたのあなたでしょ。わたし見たわよ!」
「チガイマス、ロボチガイデス」
「またまたぁ。何してるの? 修理? 自分で壊したのに?」
「君、ほっぺた怪我してるじゃないか、ロムに診てもらっておいでよ」
「知らないわよロムなんて。わたしはあなたに興味があるの!」
「ニアに? ふーん……ふーーん! ……これは修理じゃなくて改造さ、悪いウイルスを除去して、君達をこれからちゃんと守れるように作り替えてるの」
「やっぱり悪いロボットだったんだ。わたし、何となく知ってた」
「これをつくったやつはへなちょこだよ。エネルギー効率をまるで理解してない。このフロントパーツが見えるでしょ? これを……こうして……うん、いい感じ。あとは重たすぎる胴体部もほとんどいらないね。これと、これを繋ぎ合わせて……っと」
「すごい……なんでも知ってるのね……! あなたほんとにロボット?」
「いいや、ニアはただのロボットじゃないよ、アーティファクト中のアーティファクト、すーぱーはいぱーアーティファクトさ! 気分が乗ってきたので、おまけ改造を施します。ニアのパーツをこいつに分けてやろう。バレたらドクターに怒られちゃうから、ほんのちょっとだけどね。内緒だよっ」
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小さな人形達は、人の笑った顔が好きだった。
もちろん何か見返りを求めて始めた救援活動ではないが、彼らにとって任務時間外のひと時はとても充実していたことだろう。
こうして彼らの周りの平和は着実に広がっていった。
他勢力にとって、とある人形達の噂が現実だと知るのは、まだ先の話である。
「ただいまー、アリス、戻ったよー」
「しーっ、今はぐっすり眠ってるから!」
「おめえが一番うるせーよ! 昨日の戦闘で疲れてんだろ。移動時間はまだ余裕あるし、寝かせといてやろうぜ」
「(よしじゃあみんな、次の星へ出発だ!)」
「「「(おー!)」」」




