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千人が犠牲になれば日本が救われると言われたら、あなたは志願しますか?

作者: まよ
掲載日:2018/10/31

2025年8月

地球に接近する小さな星が発見された。観測によると、大きさは月と同じくらい、最接近するのは35年後の2060年と予測された。月と似ていたところから、noomヌームの愛称で呼ばれた。

世界は35年後の世紀の天体ショーに盛り上がりを見せ、各国は競い合って調査に乗り出した。

日本でもnoom調査計画である「はるか計画」が発足した。


2026年3月

無人調査船「はるか1号」の発射が成功。noomへの到着は5年後。日本国民は期待を胸に待ち続けた。その間もnoomブームは留まるところを知らず、グッズは売れ続けた。


2031年6月

「はるか1号」がnoomに着陸を試みるということで、日本中に生中継された。その番組の視聴率が80パーセントを超えたところからも、国民がどれほど期待していたかが伺える。

しかし、「はるか1号」はnoomの横を素通りしてしまった。あれほど日本が一つになったことがあっただろうか。「えぇー」という声がこだまし、各地の地震計が誤作動を起こすくらいだった。

その後も世界各国の調査船がnoomの横を素通りしてしまい、着陸することはできなかった。


2032年4月

「はるか2号」発射失敗。

3号、4号は発射には成功したが、noomに接近することもなく行方不明となった。


2037年3月

「はるか5号」がnoomに接近するも、またもや着陸失敗。


2040年9月

研究の結果、noomから特殊な電磁波が発せられていて、その電磁波が自動操縦装置に影響を与え、操作不能に陥ってしまうことがわかった。

電磁波の影響を受けることなく着陸するために、有人調査船「かなた1号」が発射された。乗組員は、電磁波の影響で自動操縦ができなくなっても手動で着陸できるように訓練を積んだ、ベテランの宇宙飛行士5名。無人船とは異なり、noom到着までは8年を有した。


2048年5月

「かなた1号」がnoomに着陸成功。その時、船長の羽出剛うで つよしは次のように語った。

「この一歩は、私にとっては小さな一歩だが、人類にとっては7三歩成、王手だ」

8年間ずっと乗組員同士で将棋をして過ごしていたそうだ。


2050年12月

「かなた1号」の調査結果が世界中を震撼させた。

noomは地球に接近するのではなく直撃する。

今から10年後の2060年の7月に日本に落下することがわかったのだ。直撃すれば当然、日本は跡形も無く消え去るだろう。それだけではなく、衝突の衝撃によって地球全体にどのような影響を与えるのかも未知数だった。


2051年3月

国会でnoom破壊計画が立案された。noomにミサイルを撃ち込み、爆破するという計画だ。しかし前述のようにnoomからは電磁波が発せられており、電子機器の類は操作不能に陥ってしまう。

そこで考えられたのは、ミサイルに人を乗せて手動操縦でぶつけるということだ。誰もが神風特攻隊を思い浮かべた。世界中から批判の声が上がる中、国のため世界のためには仕方がないことだと政府は主張し、計画は進められた。

noomの破壊を考えたのは、直撃する日本だけだった。その他の国は、衝撃に耐えるための防御壁や、地下シェルターの開発に力を注いだのだ。


2051年12月

noomの破壊には千発のミサイルを直撃させる必要があるという計算結果がはじき出された。それは同時に千人のパイロット志願者が必要であることを意味していた。


2052年1月

千人の「救世主」の募集が始められた。「救世主」となれば、英霊として讃えられ、その家族達には暮らしていくために充分なほどの報奨金が支給される。その結果、五百人近くの志願者が集まった。その中で、真に日本のために志願したものは一割にも満たない。多くは借金による生活苦から家族を救うためであった。借金が帳消しになり、生活費が支給され、そのうえ英霊として讃えられるのだ。自殺を選ぶくらいなら当然こちらを選ぶことだろう。

しかしそれ以降、志願者数は伸び悩んだ。


2052年6月

世界各国から「救世主」の志願者が集まってきた。ただし日本人にしか報奨金は支給されない。報奨金目当てに日本国籍を取得することも禁止されている。その人達は、純粋に日本を救おうと志願して来たのだ。その数三百人。世界中が感動の嵐に巻き込まれた。


2054年3月

「かなた1号」の乗組員が日本に帰国。船長をはじめ五人全員が「救世主」に志願した。


2054年7月

noomの直撃まであと6年となったが、志願者数は九百人を超えたあたりから一向に増えなくなってしまった。


2055年3月

増えない志願者数に痺れを切らした政府が、抽選でパイロット選ぶことを閣議決定した。当然のように国民は反対をしたが、首相の「救世主」志願により、反対の声は一斉に静まった。

抽選で選ばれるくらいなら、自ら志願をするという者や、首相に心打たれた者が志願をし、残り五十人となった。


2056年5月

二十歳以上の国民を対象に五十枚の「赤紙」が送付された。無作為に選ばれた五十人であった。その中に私は含まれていた。


ここからはそれから私が体験したことを述べていく。だからといって私の罪が許されるというはずもないのだが、せめて私の想いを誰かに伝えたいと思い、全てを記すことにした。


「赤紙」が届いてすぐに、黒いスーツを着た集団が家に訪ねてきた。そして車に乗せられて、どこかに連れていかれた。


そこには私を含めて五十人の不運な人達がいた。男女の比率は同じくらいで、最年少は二十五歳の女性、最年長は八十二歳の女性であった。

連れていかれた日から「教育」は始まった。国のために命を捨てることが、どれほど尊いことか。英霊となり讃えられることがどれほど羨ましいことか。徹底的に教え込まれた。残された家族には充分な報奨金が支給され、英雄の家族として永遠に崇められると、洗脳された。

そう。これは洗脳だ。誰だって抽選で選ばれて死ぬなんて嫌だ。けれども誰かが犠牲にならなければならない。だから洗脳するのだ。お国のために喜んで死ねるように。戦時中と何が変わらないのだろう。日本は何も変わっていなかった。

それから四年間洗脳され続け、私達五十人はお国の為に躊躇いもなく命を投げ捨てられるようになった。


noom破壊計画実施まであと三日と迫った今日、四年間で初めて自由時間が与えられた。私と一人の女性を除いて、家族に会いに行く者が全てだった。私とその女性には会いに行く家族がいなかった。お互いに同情し合ったのか、私達は交わり合った。一日中ずっと。

幸せな時間だった。私のことを分かってくれるのは、この人だけだ。この人のことを分かっているのも、私だけだ。

その時ふと頭によぎったのだ。二人で生き残ろうと。一億人を犠牲にして二人だけで生き残ろうと。


そしてnoom破壊計画実行当日、千人の「救世主」達は、それぞれのミサイルに乗り込んだ。

電磁波の影響が無いところまでは自動操縦で進む。特別な操作は必要ない。操縦桿を真っ直ぐ握りしめて、あとは衝突を待つだけだ。

noomが少しずつ近づいてくる。自動操縦が警告音とともに解除された。操縦桿を握る手に力を込める。先頭のミサイルがnoomに当たった。閃光と衝撃波が体に伝わる。千発のミサイルが順番に衝突していく。

私は操縦桿を大きく右に切った。私のミサイルはnoomの横を通り過ぎた。もう一つnoomの反対側から抜けて来たミサイルがあった。機体番号は彼女のミサイルであった。近くには宇宙ステーションがある。残りの燃料でなんとかたどり着けるはずだ。起爆装置を無効化し、宇宙ステーションへと漂い始めた。


次の瞬間、破壊しきれなかったnoomが地球に直撃し、地球から日本が消滅した。

最後までお読みいただきありがとうございます。


評価をいただけると次回作への気力に繋がりますので、よろしくお願いします。


お気に召しましたら、ショートショートをいくつか投稿していますので、別作品もお楽しみください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] noomという名前なども含めて、設定というかストーリーはわかりやすかった。 [気になる点] 設定にリアリティを感じない。 ①自動操装置が怪電波の影響で使えないというが、現代の技術でも電波遮…
[一言] 月の大きさが直径3500kmぐらい、恐竜絶滅の原因になった衝突が径20km以下の小惑星。月レベルの天体が地球に衝突すれば、地球全体が融解状態~崩壊になります。 日本だけが消し飛ぶレベルの衝突…
[気になる点] 月サイズのもが落ちた場合未知数どころか確定で地球滅亡ですね。地下だろうが関係無しで終わりデスネ 某所に月を地球に落下させるシミュレーションがあるので参考まで見てみると面白いかと [一…
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