ゲイルゴーラ
ゲイルゴーラ国は、ティレリア大陸の北西に位置し、南はセーネイア大森を挟んでクヴァルティス、東はガラウエン山脈を挟んでセツェンと接する。大陸の中でも古い系譜を持っていることで有名である。
と言うのも、この国の源流は、カムネリア神国にまで遡ると言われているからである。この事実をおとぎ話などと考えてはいけない。私の調査した限りでは、カムネリア神国は間違いなく存在していた。おおよそ、1000年前のことである。
そして、このカムネリア神国が生み出したとされる『魔術』も確かに実在していた。これを荒唐無稽と一笑に付すのは簡単なことだ。だが、この世界は現存する技術ではどうにもならない物で溢れている。例えば、シュトルスと呼ばれる、今は荒廃して住む者も無い古代都市には魔術の痕跡が幾つも存在している。同名の都市が大陸には複数存在すると言われ、高度な魔術文明により繁栄していたのだという。また一説では、我々人間を脅かす魔物も、魔術によって作り出されたと言われている。
だが、残念なことに『魔術』は、今となっては失われた技術である。
エライアス・ノーン著『ゲイルゴーラ記』より
真っ黒なローブ、肩には年季の入ったずたぶくろ。
街を歩くには、レーイの服装は少々、周囲からは浮いていた。
いったい、どういう国の生まれなのか、ゲイル市民たちは、レーイの素性を完全に計りかね、珍しい物を見るような目で彼女が歩いて行くのを見送った。
当のレーイはそんな視線などどこ吹く風とばかりに道の両端に出店が並ぶ往来を歩いていく。
だが、その内実、レーイは困っていた。
イグニクルスに言われた通りにゲイル市までやって来た。それは、良い。しかし、この後どうすれば良いのか判らない。
タルシオンは戦いに備えて力を蓄えろと言っていた。魔術を鍛えるも良し、仲間を作るも良しと。
魔術の鍛錬は一人でもできる。これまでもそうしてきた。だが、どうやれば仲間を作れるのか。人間関係が不器用も甚だしいレーイにはかなりの難題だ。
まして、ここは知る人のない、初めての土地だ。
しばし逡巡した後、意を決してレーイは道の脇に駆け寄る。
「すまない、訊きたいことがあるのだが」
とりあえず、道端の果物屋のおっさんに声をかけてみる。
「お、おお、なんだい? 何か買うのかい?」
見慣れぬ姿のレーイに、店主はどぎまぎしながら応じる。
「この街で『魔術』をたしなむ者を知らないだろうか?」
「マグス? なんだ、そりゃ。食べ物か?」
「……そうか。魔術を知らないのか」
店主の応答が、レーイにはショックだった。レーイにとって、魔術とは日常に存在するものであって、誰もが知っているものという認識だったからだ。
「知らないな。それで、何か買っていくのか?」
「あ、ああ。じゃあ、それを1個」
適当に真っ赤な果実を指さす。
「まいど」
店主は、適当に美味しそうなところを見繕って手渡す。レーイはそれを受け取った。店主は差し出した手を引っ込めない。当然、代金が自分の手のひらに乗せられるのを待っている。
しかし、レーイはそれを無視したかのように、果実にかじりついた。