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疑念は奇跡を呼ぶ

作者: れをん。

「裕也せんぱーい」

「ど、どうした凛条。そんなにニヤニヤして」

「これどうぞ」

 凛条というのは、俺の後輩。学校の後輩……ただそれだけ。そんな凛条が朝早くから話しかけてくるや俺に綺麗に可愛くラッピングされた小さな箱を渡してきた。

「えぇーっと……今日バレンタインだっけ?」

「違いますよ!!」

 なんたって今日は12月22日……普通の日ではないか。明日から会えないからとか、そんなところかもしれない。

「じゃぁ何の日だ?」

「ちょびっと早めなクリスマスプレゼントです」

 俺が何故こんなにも可愛い後輩を持てたのか……不思議だ。他生徒の男子からも声を掛けられるだろう。そっちの男のほうが俺よりもイケメンだと思うし……。俺にみたいな地味目で他人ともそんな話さず、目立つのが大嫌いなやつだぞ。一緒にいる理由がわからない。


 俺達が出会ったきっかけというのは、パソコン室という部屋でだった。

 俺がエクセルの資格取得のため頑張っていると、先生と一人の生徒がきた。

「すまんな瀬野。今日なのだが、この子にエクセル教えてやってくれないか?」

「いいですけどぉ」

「じゃ頼んだぞ」

 断る理由が特になかったためオッケーしたが、思えば女子でないか!

 と、テンパりながらも教えることに。

「凛条奈々子といいます。お願いいたします」

「瀬野裕也。こちらこそよろしく」


 という感じ――。


 だから特別いい出会いでもないのだ。

「ありがとう……だが何故今日?」

「明日から学校休みだからですかね。先輩との予定が合わなかったらいけないですし」

 それはこっちのセリフだ。年中暇な俺に予定が入っているはずもない。今年のクリスマスも家で過ごす……それが毎年の行事ともいえよう。

「凛条こそ予定はいってるんじゃないか?」

「私ですか? まさか入ってると思ってるんですか? 先輩と過ごしたいがために空けてるんですよ。まぁ先輩に予定があるなら仕方なく友達と遊びますが」

 きっとそっちの方がいいのではないだろうか。俺みたいな奴といたってクリスマスが素朴に感じるだけだ。それよりもいい思い出を作ってもらいたい。

 俺は虚言を吐いてしまう。

「一応……家族と。毎年の事なんだけどな」

 と――。

「そ、そうですか」

 これ以降、冬休み期間については二人とも一言も喋らなかった。



 短かった冬休みが明け、学校開始。三年の俺はあと残す行事と言えば卒業式のみ。卒業後は都会方面に引っ越し社会にでるのだ。

「裕也先輩お久しぶりです!」

「本当だな凛条。今日から学校だけどついていけそうなのか? 朝大変だろう」

「超絶大変ですよぉ。はぁ学校面倒ですねぇ」

「それな。ずっとこたつで生活したい」

「先輩はクリスマスどうでした?」

 実際は家にいた……なんて言えない。

「丁度風邪ひいて、ずっと家にいたんだよな」

「えぇ!? もう大丈夫なんです?」

「あ、あぁもう平気」

「連絡くれたらすぐ向かったのにぃ!」

「友達と遊んでたんじゃないの!?」

「あれは……強がったというか……もともと予定は入れない予定だったんですよ! 先輩と過ごそうとおもってたのに……ま、まぁ過ぎた話ですけどね」

 あそこで俺が「予定は入っていない」と言っていたら、こんな気まずいことにもならなかったわけだ。俺は凛条を遠まわしに拒絶したらしい。

「ご、ごめん」

「誤らないでください。それより先輩は卒業後どうするんです? 進学ですか?」

「就職だよ。神奈川いくんだ」

「へぇー頑張ってくださいね」

 この言葉は少しだけ震えていて寂しさを負っていたように聞こえた。


 卒業式――。

「兄さんおめでとう! 卒業したねぇ」

「お前まで来てくれたのか」

「当たり前でしょ。帰る?」

「いや、やりたいことがあるんだ」

「わかった」

 俺は急いで生徒玄関まで駆け下りていく。

 最後の最後くらい笑顔がいいではないか。

「あれ、先輩。何してるんです?」

「あ、あぁ……ハァハァハァ……見つけた」

「え、えぇっと」

「伝えないといけないことがあってさ」

「はッはい」

「凛条と一緒に過ごした時間、思ってたよりもずっと楽しくって暖かかったんだ。感謝してる。ありがとな」

「何いってるんですか。先輩らしくないですよ」

 凛条は声を震わせ、涙を流し、はにかんだ笑顔をしながら俺にそういった。

 普通であれば落ち着くまで待って話すはずだが、それをせずただひたすらに話し尽くす。俺に訴えるのだ。

「わた……センパイっと……いっしょが、いいッのにッ。センパイッは……ほんとっにず、ずるいですッ。でもそっなとこが……す……きですあら」

 精一杯な告白の内容はあまり聞き取れずであった。でも感情がものすごく加入していると感じれて、ありがたい。俺みたいな奴にそんな勿体ないことを言ってくれるとは……ありがとう。ありがとう……ありがとう……ありッ、がと……――。

 気づけばお互いとも涙していた。

「俺もあっちで頑張るからさ。凛条奈々子も頑張れよ!」

「これまでありがとうございました! 瀬野裕也先輩!」




 五年後――。

 やはり疑念が残る……この時期になるとフラッシュバックするように思い出す。なぜ俺はあそこで告白しなかったんだろう! と――。

「みんな集合してくれ。新規が入ったから自己紹介してもらうよ」

 あぁ俺もしたよなぁ。

 入社五年の俺に部下はできるかな。それくらいが楽しみだ。

「初めまして。名前は凛条奈々子と申します。何もわからない不束者ですがよろしくお願いいたします」

 え!? 凛条!?

 俺はすぐさま携帯から顔を上げ確認した。確かに、やはり後輩の凛条奈々子であった。

「今後、瀬野の部下として勤めてもらうよ」

「かしこまりました。凛条奈々子といいます。お願いいたします」

「瀬野裕也。こちらこそよろしく」



 

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