〜 残り43日 : 結局、妹の修学旅行を見に行きました。 〜
「良かったのぉ!! 今日は妹と違ってわしとお泊まりやで!」
「……っくそが。」
「あ、なんか言うたか?」
「何も言ってねーよ。」
「あぁぁァァァアア!! カッコつけて雪に友達と楽しんでこいとか言わんかったら良かったぁぁ!!!」
「雪ちゃん!雪ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃんさみじぃぃよぉぉおおお!!」
カキカキカキ、ボン。
「ふぅ…これで良しと。」
「ん、なんだそれは?」
「あぁ、これな。」
「お前が目障りでしゃーないから、天国から地獄への転送手続きや。」
「はっ!?」
「何さらっと言ってんの!さらっと!」
「まあまあ落ち着け。」
「わし流ジョークや。」
「シャレになんねーよっ!」
「よー考えろ、いっぺん天国決まったやつは地獄には行けへんわ。」
「そうだったな…。」
「おう、そうや、お前。」
「わし今日おもろいもん持って来てん。」
「どうせロクなものじゃない。」
「これや。」
「人生ゲーム。」
「予想通りロクなものじゃない。」
「いや、えんまさん。」
「頭に輪っか付けてる2人が人生試して何かおもろいですか?」
「お前、核心つくな。」
「誰が見てもそうでしょ。」
「まあええやんけ。じゃ、わしからな。」
全く意味が分からない展開のまま、えんまの野郎と人生ゲームをする事になった。遥か昔に死んだやつと、つい最近死んだやつで。
ガラララララーーン
「よっしゃっ!10や!」
「職業、『 閻魔大王 』。」
「なんや、そのままやんけ。しょうもないのぉ。」
「しかも給料2万て。どこのブラックやねん。」
「ぶっ!」
「何わろとんねん。お前や、はよ回せ。」
「…6。職業、『 人生 6(ろく)でなし 』。」
「ぶっぶっ!!」
「おいえんま。」
「いやぁ、すまん。そのまんますぎて笑けてもうたわ!」
「ほなわしやな。…3。お宝カード『 雪ちゃん 』。」
「当たり、引いてもうたわ。ニヤリ」
「なんですとぉぉお!?」
「どうなってんだよ!この人生ゲーム!」
「……はぁ、雪うまくやってんのかなぁ?」
「ほんまにお前はシスコン兄貴やなぁ!」
「もういい、やめや。今のお前と人生ゲームしてもつまらん。」
「そんなに気になるんやったら、喋りかけんと、様子だけでも見て来いや。」
「え、えんまさん、ごめんそれは…」
「はよ行ってこい言うてんねん!」
「お前、時間限られとるやんけ。」
「1秒でも無駄にしてええんけ?」
誰が人生ゲーム吹っかけたんだよ。と言うのはヤボか。
えんま、素直じゃないけど気持ちは素直なんだよな。性格は粗いが気さくで、面白い。言うことは率直に言う。えんまなりの優しさに甘えさせてもらおう。
「えんまさん、ありがとう!それじゃ!」
俺は雪の事が心配でならなかった。
…違う。
俺は甘えているだけなんだ。
俺は雪を信頼している。だから、心配など起こり得るはずが無いのだ。全部、俺が寂しいからなんだ。俺が寂しいから雪をずっと近くで見ていたいのだ。俺は「 寂しさ 」という自分の弱さを、否定し「 兄貴として妹を心配してやっている 」 という無意味な思いやりとして捉えていたんだ。
薄々気づいていた。正当化している自分に。気づかないフリをしていたんだ。
それに気づいたら俺は雪のもとから離れないといけない気がするからだ。雪を信頼し、雪の心配をしない以上、雪の近くにずっといる理由がなくなってしまうから。
全部、全部…俺の勝手なんだ…。
「はぁーー、シスコン兄貴行ってもうたなぁ。」
「……ほんまに行きよったんやな。どうしようもない兄貴や。」
「兄貴が猫かぶっとるくせに、妹にほんまの兄貴って証明できるわけないやろ。」
「まあ、あいつの残りの時間や。好きにさせたったらええか。」
「また、退屈なってしもたわ。」
俺は自分の気持ちに決心が付かないまま、雪のもとへ向かった。結局、なんの心配もなかった。雪は友達とうまくやっていたのだ。いつもなら興奮して見ていた雪を、今日は複雑な気持ちでみていた。