〜 残り47日 : 妹の部屋をあさってたら妹にバレました。 〜
「おーい、雪ー。」
「夕食出来たぞー。」
俺が死ぬ前だったら朝食と一緒に夕食の用意もしていた。それは、深夜までバイトをしていたからだ。だからこうやって雪と夕食を一緒に食べることは何年ぶりだろうか...。
階段から雪が降りてくる足音がする。この足音も死ぬ前の記憶に鮮明に残っている。これもまた良い思い出なんだ。
「いっただきまぁーす!」
「あの...変質者さん。なんで泣いているのですか?」
「...俺、雪と夕食を一緒に食べるの本当に数年ぶりなんだ...。」
「すごく懐かしい。雪は小学生だったかな? 雪は笑いながら俺に小学校で起こった出来事を話してくれたんだ。」
「夕食って、いいよな。心を温めてくれるんだ。」
「それが、とても懐かしくて...。思い出しちゃって...。」
「良い思い出ですね...。わたし家族がいなくて誰かと一緒にご飯を食べた事がないんです。」
「雪は家族がいなかったんじゃなくて、雪の記憶から家族がいなくなったんだよ。」
「だからさ、俺とこれから積み上げていこうよ。そういう温かい家族の思い出をさ。」
「変質者さんとですか?」
「おい!今けっこう感動系のこと言ったぞ俺!」
「俺も雪との思い出を積み上げていきたいんだよ。」
「雪は分かんないだろうけど、俺と雪はついこの前までこの家で一緒に暮らしていたんだ。両親が亡くなってから俺はバイト三昧で家にいる時間がほぼ無かったんだよ。」
「だから、俺は中学校に入ってからの雪と一緒に過ごす時間が少なかった。バイトを1つ辞めて雪と過ごす時間を作ろうとも思ったんだけど、俺たち2人分の生活費が必要だった。そりゃ無理だよな。」
「でも、俺は雪が大好きだった。だから家にいなくても頑張れたんだ。雪が成長していく姿、たまに見せてくれる笑顔を見ると俺はもっと頑張ろって思えたんだ。」
「俺が事故で死んで、これまでの雪はいなくなった。新しい雪になった。」
「でもな、雪。」
「俺は今の雪も大好きなんだよ。」
「家族として、兄貴として、俺はどんな雪でも愛しているんだっ!!」
「明日になれば俺はこの世界に47日しかいられなくなる。魂が消えるんだ。」
「だからな、雪。」
「死んで幽霊になった俺と、新しくなった雪で、最高の兄妹になりたいんだ。」
「変質者さん...。」
「俺の気持ち、伝わったかな?」
「...わかりました。47日間だけ妹のふりをしてあげます。」
「...これでいいですか?」
「...お兄さん。」
「わ、わ、わ! なんでまた泣くんですかお兄さん!」
「また泣いちゃったよ!お兄さん!」
「ちょ、ちょっとお兄さん! 声が大きいですよお兄さん!」
俺は声を上げて泣いてしまった。もう一生、妹の口から出てこない言葉だと思っていた。これまでの雪は「お兄ちゃん」だったが、今の雪は「お兄さん」。また新しい1ページを歩むことができた。
残り47日目の朝。
「おはよう!雪!朝食作ってあるぞ!」
「おはよう...ございます。...お兄さん。」
ぉぉ、最高だ。心に響くぞ。シスコン兄貴の心に響くぞ!
「雪の好きな朝食は目玉焼きだろ!?」
「なんで、知ってるのですか?」
「雪のお兄ちゃんだからだよ。」
「今日は雪の目玉焼き、双子だったんだ!」
「俺と雪みたいだろ?」
「よく、わからないです。」
「そか、まあまだ難しいよな。」
「雪、今日学校帰ったら、文化祭の練習しよう!」
「う、うん...。 できるかな。」
「最初はできなくてもいいんだよ。」
「わ、わかりました。」
雪を学校に送り出してから、俺は探したい物があった。そう、それは俺と雪との写真だ。これを雪に見せれば俺がお兄ちゃんだってことを分かってもらえるに違いない!!
俺の部屋には無かった。仕方ない。雪はいま学校に向かっている。雪の部屋をちょっとだけ調べるか....ニヒヒぃィィ☆
「あー、妹とはいえ、女の子だもんな。しかもめちゃくちゃカワイイ。なんか、こう、ほのかに香るいい匂いがたまらない。」
俺のシスコン変態センサーが反応した。
「ここだっ!!」
「え、あれ? これ...パンティってやつですか?」
「ここ下着の引き出しか、すまんすまん、エヘヘヘヘ♪」
「あいつ、こんなの履いてやがるんだな。...けっこうエロいんだな...。」
ガラガラガラガラドンっ!!!
えっ? それは即座に本能で理解した。なんかまじでヤバイということを。
「...ちょ、ちょっと、何...わたしの下着あさってるんですか...?」
うぉぉぉぉおおおお! まじで最悪だぁ!! タイミング悪すぎて草だわ!
「ち、違うんだ!これは!」
「最低っ!! 変態っ!! 変質者っ!!」
「早く出ていって!」
「もう一生顔も見たくない!!」
俺はなんてことをしてしまったんだ。ここまで順調に来てたのに、ここで全部台無しか? バカじゃん、俺。
こんなことになるんだったら、俺と雪の写真なんて探さなかったら良かった。俺が雪のお兄ちゃんって分かってもらえなくても、「兄妹ごっこ」はできたのだから。
でも、俺が望んでいるのは「兄妹ごっこ」じゃないんだ。