〜 そしてすぐに妹と再会 〜
「....。」
「...あれ、ここは?」
「よぉ、お前よー寝とったなぁ!ここは命を落とした者が天国に行くか地獄に行くかを決める場所や!」
「...やっぱり、俺死んだのか。」
「っておい!俺が死んだらもう妹は1人ぼっちじゃねぇか!なんとかならないのか!? えと、その、えーとっ、」
「閻魔大王じゃ。」
「そかっ、えんまさんか! じゃあえんまさん、俺を生き返らせてほしい!妹が待ってるんだ!」
「そら無理やで!命は1つしかないからなぁ、それを失くすともうどうにもできんのや。」
「じゃあ、えんまさん、俺はどうしたらいいんだ?妹が1人ぼっちなのは不安で不安で...。俺だってもうあんなにカワイイ妹と会えないなんて死んだ方がマシだァァァア!!!」
「お前、もう死んでるやん。」
「あ、そやったわ。」
「じゃねーよっ!! どうしたらいいんだよ!?」
「1つあるで。」
「ほ、ほんとか!?」
「人間はな、死んだら肉体から魂が抜けるんや。その魂はな、抜けてから49日間の間は自由にさまよえるんや。どういうことか分かるか?」
「...つまり、幽霊の姿で妹に会いにいけるってことか?」
「そや。ただし、後49日経ったらお前の魂は綺麗さっぱり消えて無くなる。やから後悔のないよう、下界にいって色んな人に挨拶してこい。」
「49日間、妹とずっと一緒にいます!!」
「ただ、お前が天国に行けたらの場合やで? 地獄やったらそもそもここでお前の魂消えるから。」
「マジか!? いや、俺なんにも罪犯してないよ!俺天国だよね!?それ、どっちか判断するのえんまさんなんだよね!? じゃあ天国でいいじゃん!」
「いや、お前は『カワイすぎる妹を持った』という大罪を犯してる。羨ましいからお前、地獄な。」
「てめぇの主観で地獄に落とすんじゃねぇよ!!」
「わかったわかった、天国やから。ほら、さっそく妹のとこ行ってきいや。もう時間は限られとんねんで?」
「お、おう、そうだな。こうなったら49日間で一生分の妹との触れ合いをしてやるぞ!!」
「あ、ああそやお前、たまにはこっちにも帰ってこいよ?」
「え、なんで?」
「わしかて寂しいやんけ。」
「めんどくせーなおい!」
今、下界では夜の9時。雪は俺が死んだことをもう知っている頃だろう。雪が悲しんでいる顔を見たくない。俺だって雪ともっと一緒にいたかった。雪のために必死になってバイトを掛け持ちしたのに。雪の将来を見届けられないまま俺はこの世から消えるんだ。
雪を見つけた。事故現場に警察が捜査を行なっている脇で泣き崩れている女の子が俺の妹の雪だった。
「...お兄ちゃん、なんで急にいなくなるの?」
「お母さんとお父さんもいなくなって、今度はお兄ちゃんまでいなくなるの?」
「...そんな、あんまりだよ。」
「なんで...みんなみんな雪を1人にするの...。」
「なんで...みんなみんな雪から離れていくの...。」
「...みんな雪のこと嫌いだったのかな。」
「...そっか、そうだよね。」
「雪が小さいころからお母さんとお父さんには怒られっぱなしだったし、お兄ちゃんはこんな雪のためにバイト必死で頑張ってくれてたもんね...。お兄ちゃんだって、疲れてたんだよね...。雪に気を使って言えなかったんだよね...。」
「それで、雪のこと嫌いになったんだね。」
決してそんな事はない。俺にとって雪は世界で1番愛しているカワイイ妹だ。たが俺はバイト三昧で家にいる時間が少なく、結局、雪をずっと1人ぼっちにしてしまっていた。雪に愛情を注いでやれなかったんだ。
雪が1人で家に帰る。その背中はとても細く小さいものだった。街灯の明かりは夜道を照らすが、雪は照らさない。静かなこの道に静かな雪が静かに歩く。
俺は思わず雪に声を掛けた。
「...雪?」
「...だれですか?」
「雪!俺だよ、お兄ちゃんだぞ!」
「...はい?わたしにお兄ちゃんなんていいませんよ?」
「雪、そんな事言うなよ!お兄ちゃん悲しいぞ...。」
「突然意味のわからない事を言わないでください。もうこんな時間ですよ?用の無い方は帰ってください。...警察呼びますよ?」
「ちょ、雪っ!」
雪は俺が死んだショックで記憶を無くしてしまった。雪は俺の事をもう思い出してくれない。この家で一緒にご飯を食べて、お風呂に入って、お話して、遊んだ記憶はもう雪にはない。だからと言って、雪ともう会えない訳ではない。まだ方法はある。
俺は決めた。残り49日間で、雪との新しい1ページを刻んでやる。
雪が忘れてしまって、俺との思い出がなくなったのなら、上から新たに積み上げればいい事だ。この49日間で世界1楽しくて幸せだった兄妹になってやる。
...大丈夫、またやり直せる。