〜 残り42日 : 妹と兄妹になれました。 〜
雪が修学旅行から帰ってきた。雪に友達と楽しんで来て欲しいから俺は行かない。と言ったが、俺は自らの寂しさから雪についていってしまった。雪を笑顔で迎えてあげたいのに、笑顔が作れない。
「ゆ、雪…おかえり…。」
「お兄さん、ただいまです。」
「ど、どうだ?楽しかったか?」
「はい、すごく楽しかったですし、お友達もたくさん出来ました。」
「そうか、良かったじゃないか…」
「わたし、お友達と一緒にご飯を食べたり、お風呂に入ったりしました。あ、あと一緒に寝たんですよ! みんなで怖い話をして盛り上がっていると、先生に見つかって怒られちゃいました。」
「そうか、楽しそうだな…」
「お兄さん、どうしたんですか? 何かありました?」
「いや、その、俺実は、雪の修学旅行について行ってしまったんだ!あんなことを言っておきながら、俺は寂しくてつい…。本当に弱い兄貴なんだよ。」
「…知ってましたよ。お兄さんが来る事は。」
「ど、どうして 」
「…わたし、頑張りましたよ…」
「雪?」
「わたしは上手な人付き合いの仕方が分かりません。わたしはどうすれば良いのかわからなかったのです。でもわたしは勇気を出してわたし自身が正しいと思ったことをやりました。そしたらね、お兄さん、そこには分かってくれる、分かろうとしてくれる温かい人達がいたのです。」
「だから、お兄さんも嘘つかないで、お兄さんが本当に正しいと思ったことをしましょうよ。」
「……。」
「寂しくてもいいじゃないですか。寂しいって言ってしまえばいいじゃないですか。こうみえてもわたし、心が広いのですよ?」
「ご、ごめん。」
「わたし、お兄さんを信用したいのです。でも、嘘をつくお兄さんを信用したくはありません。」
「そうだ。俺は雪を心配しているから雪のそばに居続けるのではないんだ。俺が、俺が寂しいだけなんだ…。」
「いいじゃないですか…。寂しいのならそう言ってくれれば、雪はお兄さんの隣から離れませんよ…。」
「…俺、幽霊でも1人ぼっちはさみしいんだ。あと42日で雪と永遠に別れることも辛いんだ!」
「だから、だから俺は…」
「最高の兄妹になりましょうよ。」
「…えっ?」
「お兄さん、前に言ったじゃないですか。新しい1ページを刻もうって。わたし、お兄さんが本当のお兄さんだってこと信じたいんです。」
「し、信じてくれるのか…?」
「はい。わたし家族に憧れがあるのかもしれません。…もしかすると側にいてくれる人がいること、それこそがわたしにとって1番の憧れ、そして幸せなのかもしれません。」
「ごめんな、雪。俺は雪が、雪が大好きだ。世界の誰よりも雪が好きなんだ。だから俺は雪がいないと寂しいんだ。ずっと雪と一緒にいたい!」
「…やっと、お兄ちゃんになってくれましたね。」
記憶を失くした雪が初めて俺に「お兄ちゃん」と言ってくれた。本当の兄妹になれたんだ。雪に言われて、やっと俺は素の自分を出すことができた。
兄妹ごっこをしていたのは俺の方だったんだ。雪がそれを気付かせてくれた。俺は雪を抱きしめ頭を撫でた。
「ありがとう、雪、こらから本当の意味でよろしくな。」
「…ぉ、ぉ、おねがい、します…。」
雪はか細い声で答えた。雪の温かみを感じる。温もりが俺の心にまで伝わる。俺はこの温もり、心地良さが欲しかったんだ。
俺は世話になったえんまに本当の兄妹になった報告をしたかった。えんまはあの性格だが、いつも俺に気をかけてくれていたんだ。
「えんまさん、俺たちやっと本当の兄妹になれたんだ。」
「そうみたいやな。ここからお前らの様子みさせてもらっとったわ。お前、妹に気づかせてもらうとわな。」
「本当、そうだよ。俺が中途半端だったから…」
「あの妹、大切にせぇよ。」
「当たり前だ。」
雪と一緒に過ごせる時間が限られている。だからと言って何も変わる事はない。俺と雪ができる事、やりたい事を積み重ねていくだけなんだ。




