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魔導師・彩羽の朝

ジリリリリリリリリリリリリリリリッ


空もようやく白み始める、そんな時間。

市街地からは少し離れた森の中にある

こじんまりとした小屋から鳴り響くベルの音。


そのベルの傍らには、赤茶色の髪を短めに切り揃えた少女が眠っている。


「うぅぅぅん・・・邪魔しないで・・・いけぇ、光弾・・んんんんん」


その小屋の主・彩羽(いろは)は、まだ眠りの沼に浸かっていて

夢とも現実とも判断し兼ねるふわふわとした状況ながらも

煩く鳴り響くベルに向かってそれを放った。


バンッ!! ガシャァァァァンッ


ガラスが割れ落ちるその音に、ベルの音よりも

思わず危機感を覚え、ハッと目を覚ました彩羽(いろは)だったが

もう、起きるには遅かった。


弾け跳んだベル・・・目覚まし時計なのだが

それが生憎、魔導書がぎっしり並べられた棚の

ガラスに突っ込んでしまったのだった。


「うぁぁぁぁぁぁ、まじで・・・最悪・・・」

その惨状を見て彩羽(いろは)は力なく、情けない声で独り言ちた。




早朝に目覚ましをかけていたくらいなので、当然朝から予定があったが

ガラスを飛び散らせたままで出掛ける訳も行かず、

急いでベッドから飛び起き、ガラスの破片を踏まない様に

慎重にその場をすり抜けて部屋の片隅に立て掛けている箒と塵取を持ってくる。


先程、彩羽(いろは)が光弾を出したり部屋に魔導書がある様に

この世界は『魔法』が存在する世界だ。

だが、機械仕掛けの物は何かと高額なので

ひっそり独り暮らしをしている身としては、とてもじゃないけど

手が出せない代物。


掃除機などは当然、この小屋には無い。



「・・・・っ!!」

慎重に作業していたものの、小さな欠片を踏んでしまい思わず声が漏れる。

足の裏を見ると数ミリ程度のガラス片がくっついており、若干血が滲んでいた。


「朝からホント最悪・・・とりあえずこれでいっか。」

目の前には魔導書が並んでいるので、簡単な回復魔法の本を選んで取り出す。


『我が傷を癒せ、ライトヒール』

普段、彩羽(いろは)達が使う言語とは異なる独特の言語である

呪文を唱えると、手にした魔導書から淡い光が溢れ

光が消えると共に傷口は一瞬で治っていた。

擦り傷、切り傷を負う事が平気なのは元からの性分ではあるが

この便利な回復魔法があるからなのか多少は行動も荒くなってしまう気がして仕方がない。


『魔法』はこの魔導書と詠唱、そして使用者の魔力量を併せて初めて発動する。

詠唱する為には魔導言語をもちろん理解していなければただの重たい紙の塊だ。


「とりあえず、こんなものか・・・朝から妙に時間とられちゃったな。

まだ、急げば間に合うかな・・・。」


朝食は帰宅してから摂る事にして、ひとまず身支度を済ませる。

目的地は森の中なので、オシャレをする必要は無い・・・と言えども

それなりの年頃の少女だ。

お気に入りの淡いピンクのルージュをさっと唇に乗せる。


そして小さな宝石が柄に装飾された双剣・・・

揃いの短剣の事を指すのだが、それを腰のベルトに携える。

この双剣だけはいくら生活が苦しくなろうとも売りはしない。

亡き母が愛用していた、形見の双剣なのだ。

何年も使っていた為、しっくり手に馴染んでいる。

抜刀し慣れた手つきでくるくるっと回し、感覚をチェックする。


「よしっ、今日こそ見つけるぞっ!!」

早朝の方が見つかるという眉唾物の様な噂だったが

どんな情報であれ、片っ端から試さずにはいられない。

意気揚々と森の奥地へ出発する彩羽(いろは)だった。




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