第三十二章 夏の終わりとプロローグ
「よう!フーキ!弁当持って来たぞー!」
決勝戦前、選手席にいるフーキに弁当を渡す
「おお、助かるね」
「驚けフーキ!プレイヤーメイドの料理にはなんとステータス上昇効果があるんだぞ!」
素材、質などによってステータス上昇の内容は変わるがとてつもない情報だ!
「あぁ、知っとるよ?酒場のアズ目当ての客の半分は能力付与目当てやったし」
知らないうちに利用されていたようだ
ドヤ顔から一転して乗っているジローに顔からダイブする
だ、だがしかぁし!今回の料理はドラゴン肉をふんだんに使ったゴウジャス弁当!能力値アップもドラゴンクラスだ!
興味無さげに聞くフーキに弁当の素晴らしさを説いていると、唐突にスピーカーから少女の声が流れ出す
「まもなく☆決勝戦が始まります選手の<自主規制>は直ちに<自主規制>してコロシアムに入場して下さい☆」
なんだなんだ!?大声で規制音ならしてる実況者は!あんなの見つかったら運営に即BANくら・・・
大丈夫そうだわ
そこには白髪の美少女フィー、運営側の人工知能がいる
「観客席の<自主規制>は☆あまり<自主規制>してるとBANしちゃうぞ!☆」
いや、君が一番BANされるべきなんだが
よく運営は凍結せずにそのまま野放しにしたな
しかしフィーの恐ろしいところは、普段文字により不特定多数の人から言葉を教えられている為
無表情なうえに淡々とした口調で台詞を放っている事だ
ゲーム内でフィーに何か教えるイベントがあったら今度は真っ当な人工知能になりますように・・・
弁当演説で少し満足した俺は
フーキにドラゴンランチを渡してジローにまたがる
「あれ?見ていかんのん?」
「残念だけど俺も忙しいからな!フーキにぼかり構ってあげれないのだよ」
俺は冷たい視線を向けてくるフーキを無視して
木漏れ日荘に向けてジローを進めさせる
というのも朝方に張り出していたクエストと入居希望の張り紙に、はやくも三人釣れてしまったのだ
木漏れ日荘に着くと、アクアが机の上で紙を広げて面接官ごっこをしている所に出くわす
まぁ折角だから同席させるか
俺は無言でアクアの隣に座る
「あずちゃんあずちゃん!たった半日で3件も来るなんて凄いね!」
アクアが隣ではしゃいでいるが、知らぬが花だろう
この3件が厄介なやつらしかいない事に
そうこうしていると一人目の入居希望者が現れる
緑髪のイケメンは柔和な笑顔を浮かべ、隣のアクアは
「きゃー!すっごい美形さんだよ!?この人ホールスタッフに勧誘しない?」
と興奮している所にイケメンが要求を挟む
「入居希望で、ご飯は部屋の前まで持ってきてくれ、金ならある、余程の事がない限り部屋からは出ない」
アクアが真顔になっている
恐らくグレイが言ったことの意味を考えているんだろう
だがこいつは何も考えてないと思うぞ?
「部屋までご飯を持っていくサービスには無いので降りてこい、というか宿屋はどうした?あそこのほうが百倍快適だろうに」
グレイは遠い目をしながら語り出す
「あそこは確かに良い所だ・・・だが最近どのサービスでもゴミを見る目で見られ始めてな・・・」
更に何かを思い出したのか震え出すグレイ
「それにドラゴンの盾になってくれないか?なんて勧誘が最近引っ切り無しで・・・挙句強行手段に出るやつもいて・・・逃げてきたのさ」
アクアは「ドラゴンの盾なんて!お兄さんもしかして凄い人!?」と目を輝かせ始めた
その内宿屋の人のようにゴミを見る目をするのも遠くないだろう
しかし先程の発言が気になる
前半は自業自得だろうが、後半は多分俺のせいだ
「この一週間継続的に、かつ安定してグラフ草原をドラゴンから守るにはやはり肉壁さんは必須!当初の目的のほうが安定する!」と各リーダーに再度進言したのだ
最初引き気味だったが、「グレイなら長時間ドラゴンの相手をできるからドロップ報酬の抽選率が上がるぞ?」と言ったら、それもそうだなっと手のひら返し
情報料としてドラゴンの肉は全部こっちにくれる契約を交わした
「じゃあご飯には降りて来るということで承諾っと」
「えぇ!?部屋から出たくない!」
尚も愚図るグレイを二階の部屋に案内、封印する
「これで一人目」
二人目は厨房スタッフ希望の金髪サイドの女の子
「あずちゃんあずちゃん!今度は物凄い美少女さんだよ!厨房スタッフよりホールスタッフに欲しいんだけど?」
美少女なのは認めるが問題はそこには無い
この子に関しては食事に関して一切の信頼が無い
つまみ食いとかで、客の飯を全ロストしかねない
[頑張ります]
メモではそう書いているが信頼出来ない、この子にはサクラになって貰おう
いざという時割引価格で食べてもらうというのでどうだろうかと確認すると無言の握手を求められた
「これからよろしく・・・あと折角だからうちの二階に住まないか?」
ルピーはコクコク頷く
一抹の不安を残し二階に案内する
「これで二人目」
三人目は実は料理もホールも出来るのは分かっている
問題は俺の精神衛生上よくない事だろうな
「ひーろー!お姉ちゃんだよー!」
そう言いながら俺とアクアにハグする姉の頭を押しのける
一瞬でアクアもハグの対象にするとは・・・恐るべし
アクアは突然の出来事に放心している
姉の魔の手から抜け出して杖を取り出すと、風をぶつけて吹き飛ばす
「とりあえず姉さんは調理、ホールの両方お願い」
言うかどうか悩んだ後とりあえず聞いてみる
「ついでにここに住む?」
「ガッテン!私もここに住むー!」
二階に案内する
ちなみにフーキは馬鹿兄を倒して優勝したらしい
そんなこんなで順調に夏イベントを終わらせている俺は
折角木漏れ日荘を手に入れたのだからと、最終日にオープン記念で店を開く事にした
予告無しの唐突な発表
夏イベント最中で来る人も少ないだろう
そう思ってた時期が俺にもありました
「おーい!アズ坊!こっちビール追加だぁ!」
会長と小鳥の会メンバーが外でキャンプを作ってバーベキューをしたり
「おめぇら!ここの川の主はわしらが鬼策士にお送りするぜよ」!
漁業組合が川を占領したり
「ふむ!このドラゴン肉のソテー・・・53Rですね!」
円卓の騎士団が一階ホールで騒いでいたり
「まさか我が負けるとは・・・」
「まぁまぁ、フーキさんとは相性も悪かったですしー」
†断罪者†がカウンターの隅でジメジメしてたり
「んままぁ!アズちゃんかわぁぃぃん!」
「よさぬかアリス!私達は今お忍びなのよ!」
俺に突撃しようとするアリスをピンク髪の人が押さえ込んでたり
「なんでみんなここに来るんだよ」
「あずちゃん凄い人気だね!」
アクアの邪気のない笑顔が眩しい・・・
最初はドラゴン肉の受け渡しに来た各リーダーに今日から暇な時オープンしますーと言って軽くドラゴン料理を振る舞っただけだったのだが
各リーダー、帰ってから団員全員連れて来やがった
おかげで止まらずフル稼働だ
アリス?いつの間にかいたよ
従業員のルピーはこの戦線に放り込んだら仕事が増えそうなのでフーキの迎えを頼んでいる
「姉さん!アクア!フーキが来たら少し楽ができる!もうしばらくの辛抱だ!」
「はいはーい!お姉ちゃん頑張っちゃうよ!」
「私もお皿洗い頑張るよ!」
救世主の存在に希望を抱いていた俺はフーキ帰還と共に絶望に追いやられる
「あ!アズさん!領地の下見完璧ですよ!」
「がっはっは!ここは良い筋肉を育てられそうだ!」
ランクマッチ勢まで連れて来やがった
「フーキ?フーキさん?状況はわかるな?」
フーキは苦笑を浮かべる
「手伝えば良いんやね?」
「そういう事だ!さぁ脱げ!はやく仕事着に着替えて手伝えコンチクショー!!」
その場で脱がそうとすると側にいたルピーが真っ赤になって俺をぺしぺしして・・・
「ルピー?ルピーさん!?あなたの火力だと洒落にならない!痛いから痛いから!」
二人の戦力・・・まぁ実質1人だが
更に増える客に終わりが見えない状態だ
そんな中、再びドシンという音と共に複数の団体が入って来る
「終わった」
そんな呟きと共にその場で倒れる
俺のHPはルピーに叩かれたのも含めもう2割だ
「あずちゃん!しっかりして!あずちゃん!」
「アズ!傷は浅い!がんばるんや!」
「あれー?あの人達って確かー?」
ルピーが俺の頬を叩いてHPが残り1割になった
ルピーは新たな人影を指差す
「あれは!ど、ドルガさん!?」
「アズ、おめぇ・・・」
ニヤリと笑みを浮かべるドルガさんの後ろには数々の戦場を共にしたメンバー達
「またせたな!」
「きゃーだーりぃんかっこぃぃーー!」
アリスが奇声を上げて卒倒
ピンク髪の人が巨体に押しつぶされカエルのような声を出している
姉に回復してもらい再び相棒を手に取る
右手に料理人の包丁、左手に樫の杖
精霊を極限まで見極め、料理の質を
複数思考で作業効率を上げる
「ドルガさん!後ろは任せました!」
「まがせな!おめぇら!いつもの礼!今返すぞ!」
「おうっ!」と頼りになるメンバー達により戦場は終息を迎えた
「ところでアリスはなんでここにいたんだ?」
「あんらぁん!それはお姫様とのおはなしに最適そうだったからよぉん」
お姫様?ピンク髪の人か?どっかで見たことあるな・・・OPの人か!
視線に気づいたお姫様がコホンと咳払い
「わたくしはグラフ王が娘ラヴィーネ!よろしく頼みますわ」
「こ・・・こちらこそよろしくお願いします!」
お姫様ということで緊張して変な声が出る
そんな様子を見たアリスがにやにやと補足を入れてくれる
「だぃじょうぶよん?その子リアルネームは今村だからん!」
「ちょ!アリス!あんただって向こうにいた頃は小川って普通の名前だったでしょう!」
「あんらぁん!やる気!」
「ちょっと待って!アリスってNPCじゃないの?」
どうしても聞き逃せない事に思わず突っ込む
「一応NPCよぉん!ただ製作者三大リーダーは本人の人格をゲームに移植してるのよぉん!」
「おいアリス!それ以上は!」
「わかってるわよぉん!ただダーリンがいる身としてはこのまま何もなく暮らしていきたぃの・・・」
アリスが意味深な事を言っているがこのゲームにそんな隠された要素が
馬場、今村、小川の三大リーダーによる集大成かぁ
まぁゲームをする側としてはあまり重要な要件ではない
俺が適当にアリスに相槌を打っていると
縁側から聞き慣れた声が聞こえてくる
「おーいアズ!はようこっち来い!花火見るのにちょうどええで!」
「あずちゃーん!はやくはやく!」
「ルピーちゃーん!これも美味しいよー?」
[いただきます!]
騒がしい仲間達が呼んでいる
仲間と花火を見て夜遅くまで楽しみログアウト
そのまま寝落ちするのであった
見慣れた天井
いつもの調子でベッドから降りようとしたら服の裾を思い切り踏んでベッドから落ちる
「いってぇ・・・朝から最悪・・・」
倒れたまま天井を仰ぎ呟く
「昨日は楽しかったな・・・」
起き上がり、部屋のスタンドミラーを見る
「あれ?まだ夢?」
頬をつねると痛みが走る、夢じゃない
ゲームに接続したまま?机の上を見るとヘッドギアが置いてある
再びスタンドミラーを見る
そこには青髪金目、小学生くらいのサイズの中性的な顔立ちの・・・アズがいた
「な」
息を飲んで一呼吸
「なんじゃぁこりゃぁぁ!」
朝早くから大声で叫ぶそんな青葉家は今日も平和です
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誰もいない、白い空間、馬場は歪んだ笑顔で両手を広げる
「ついに!ついにこの時が来ましたよぉ?」
馬場は高らかに笑う
「途中邪魔が入りましたが順調に計画は進んでますねぇ!」
誰もいない白い空間で馬場は一人で叫び続ける
「まさに創造!楽しくなって来ましたねぇ!」
馬場の笑いが白い空間にこだまする、いつまでも続くかのような、長い笑い声を残して
ようやく最初期時代の添削と修正が完了
実に一年半ぶりになりますが・・・
予想以上に誤字脱字、文章がヤバイ!




