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BioGraphyOnline  作者: ツリー
BGO Lastmission!
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第18章 アイドル

 西の荒野にて無事にAKIHOを強制送還した俺は、将軍に報告する為に茶屋を訪れていた


「というわけで、無事に辻斬りは討伐しました」

「まさか辻斬りの正体がかつてこの国に滅ぼされた国のアンデットだったとはな」


 俺の説明を聞いた将軍が首を縦に振っている

 まぁ辻斬りを討伐したのは事実なのだし多少適当な説明でも良いだろう

 というか本当の事を言う勇気が無い


 俺は残りの団子を口に含むと、体を伸ばしながら後ろを振り返る


「そうだ・・・もし次に合う時があったら、絶対俺の事を庇ったりしないでくださいね?」


 将軍が振り返る俺の顔を見て真面目な表情を浮かべている


「民は国の為に奉仕するのが世の常であれば、将は民の為に命をかけるのが道理」


 将軍は鋭いながらも優しい視線を俺に向ける


「また来るが良い、我が国の民アズよ」

「・・・はい」


 何とも言えない感情と共に将軍と別れた俺は、待ち合わせ場所で人間観察をしているアレンと合流する


「やぁアズ君、報告は済んだのかい?」

「まぁな、任務は終わったし俺はそろそろ次の場所に行こうと思う」


 相も変わらずnextの文字が浮かぶシステムウィンドウに溜息を吐きながらも、nextを選択

 体が徐々に薄くなっていく


「そうかい?また暫く愛しの妹と会えなくなると思うと憂鬱だよ」

「だーかーらー!だーれが妹だこの野郎!」

「ははは!冗談だよ!冗談・・・半分だけね」


 全く、勝手に人を・・・今最後なんて言った?


 アレンにブローをかます為に近づこうとした所で、音も無く隣にいた少年が声をかけてくる


「それじゃあアズさん、次の任務も頑張って下さいね」

「ん?ああ・・・あれ!?トウヤ!?いつの間に?」

「ずっといましたよー・・・」


 シクシク涙を流すトウヤと、ニコニコ顔のアレンに見送られ、周りの景色が変わっていく

 しまった!最後の最後で間に合わなかった!


「はぁ・・・まぁいいや・・・最後の別れって訳でも無いし」


 というかなんだ?今回は白い空間に飛ばされないのか?

 もしやLoading画面の短縮に成功したのだろうか


 太郎兄グッジョブと思いながら、改めて街を視界に映す

 目の前に広がる暗い街は、空に浮かぶ唯一の光源

 紅い月によって、不気味な雰囲気を醸し出している

 明らかにヤバそうな雰囲気だが・・・さーて今度はどこに飛ばされたのか


 システムウィンドウを開いてマップを確認する

 デーモンブルグ・・・確か悪魔領だな・・・


「と言うことは俺の種族も変わっているな、これは」


 全身をペタペタ触って確認する

 まず頭になんかついてる、これは何だ?ツルツルした・・・羽か?

 お次に歯に違和感、これは牙が生えてますねぇ

 そして衣装は真っ黒なタキシードに黒いマント


「これはもしかして吸血鬼ってやつだろうか?」


 しかし悪魔領で吸血鬼?

 俺は頭の中で愉快な笑い声が聞こえてくる錯覚を覚える


「絶対奴が出てくる・・・!」


 何が来ても良いように身構える俺を誰かが持ち上げる


「来たなヴァンプ!残念だ『ああ!こんな所にいたのね!私の可愛い坊や!』


 あれ!?誰この人!?

 ヴァンプが来ると予想していた俺は、驚きながらも首を横に降る


「ちが!?違います!俺はあんたの息子じゃないです!」

『何言ってるの!母が息子を間違えるわけないでしょう!さぁ、早くお家に入りなさい!』


 そう言いながら謎の女性に家に連れ込まれる


 これはあれか!?誘拐か!?

 焦りながら抵抗するが、女性の筋力に敵わないらしく無理矢理椅子に座らせられる

 すると目の前に座っていた男が声を上げる


「ワーハッハッハ!よくぞ帰ってきたな!我が息子よ!」


 俺は真顔で目の前の人物?を見る

 目の前の人物は暫く笑い声をあげると、満足したのかこちらに視線を向ける


「悪戯大成功!」

「やかましい!」


 目の前の害悪に一発拳をいれるが、全くダメージを受けた様子は無い

 くそ!毎度毎度この野郎!


「というかヴァンプって結婚してたのか?そっちのほうが驚きなんだが」


 ダメージが全く入らない害悪に嫌気がさしながらも

 溜め息を吐きながらここに連れ込みやがった女性を見上げる


「ワーハッハッハ!何か勘違いしているようだが悪魔種に性別は存在しない、故に人間種のような伴侶等という存在はいない」


 そう言いながらヴァンプが指パッチンすると、目の前の女性が形を変えていく

 ネームプレートにはシャドウデーモンの文字

 こいつはあれか?ヴァンプのペットみたいなもんなのか?


「はぁ・・・まぁいいや・・・」


 何でヴァンプがレジスタンスメンバーなんだ?とか

 色々聞きたい事はあるが、正直こいつの相手は疲れる


「それで?この国では何をすれば良いんだ?」

「ワーハッハッハ!切り返しの速さは一級品であるな!

「で?何をすれば良い?」

「う・・・うむ・・・任務だったな、実はこの地には現在我が二人存在するようでな!」


 俺の圧に屈したヴァンプが引き気味に任務を答える

 二人のヴァンプ・・・?聞くだけで面倒なんですが


「この時期の我はどうにもプライドが高かったのだがな?ちょうど今ぐらいの時期に謎の悪魔にイタズラでボロ負けした記憶があるのだ!」

「・・・正直ヴァンプは昔の方が悪魔の王って感じだけどな」

「何を言うか、悪魔種たるものいつでも愉快に生きなくてはな!今の我のように!ワーッハッハッハッハ!」


 昔の自分を否定する辺り、ヴァンプにとっては黒歴史だったりするのだろうか?


 しかし今回はヴァンプにイタズラで勝たなくちゃいけないのか?

 普通に戦って勝つよりは楽そうではあるが


「とりあえず今回のガチャを回すか」


 インベントリから虹水晶を取り出して地面に投げ捨てる

 正直誰が来てもあんまり変わりそうもない任務だが・・・


「そう思っていた時期が俺にもありました」


 ド派手な演出と共に現れた人物?を見て俺は考えを改める


  「あれれ〜?ここはどこだイ?」


<SSR☆☆☆☆:死霊の王 リッチー>


 最高レアリティはこんな化け物も呼べるのか?これは間違いなく大当たりだろう

 SSRの出現に顔をニヤケさせながらもう一つの煙に視線を向けた俺は、煙の中から現れた変態貴族を見て真顔に戻る


<R☆:魅惑の踊り子 ロウ>


 おい、誰だこんな肩書きつけたやつ?

 というか全く変化が無いリッチーに比べてなんだこのロウの見た目


 ロウの肌は真っ黒に変色、赤い紋様が脈動し

 額には三つ目の瞳が形成されている・・・つまり超怖い


「やだ!アズちゃん久しぶりぃん!」


 俺は黒くてテカテカした変態から距離を取る


「久しぶり・・・・なんでロウはそんな魔神みたいな見た目になってるんだよ・・・」

「あら?アタシは神は神でも美神よ?魔神だなんて失礼しちゃうわぁん!」


 鏡見ろ鏡

 というかこのメンバーで行くのか?俺の精神持つかな


 とりあえず変態は無視だな

 俺はずっと両手を挙げてプラプラさせているリッチーに視線を向ける


「そしてリッチーさんは何してんの?」

「聞いたヨ聞いたよヨ?冒険者の国ではゾンビがサガでアイドルしてたらしいじゃないカ」


 いや、そんな事実は無かったと思うが・・・

 というかもしかしてそれはダンスのつもりなのか?

 リッチーのSAN値が下がりそうな動きを見ながら顔を顰める


 そんな俺とは対照的に、ロウが声を荒げながらリッチーに詰め寄っていく


 黒くてテカテカした見た目ゴリマッチョなロウが、見た目完全に幼女なリッチーに詰め寄る姿は完全に事案物なんだが


「あらアイドル!?そういう事ならアタシも一肌脱いじゃうわよ!」


 そう言いながら本当に一枚脱ごうとするロウを殴り倒す

 お前は一枚脱いだら全裸だろうに


 そんな俺達を愉快そうに見ていたヴァンプがガタリと立ち上がる


「ワーッハッハッハ!リッチーよ、アイドルをしたいのであれば丁度良い」


 そう言いながら悪魔の様な笑顔を浮かべるヴァンプ


「ああ・・・嫌な予感しかしないんだが・・・」


 ◇

 デーモンブルグに位置する教会前

 普段悪魔達が全く寄り付かないこの穢れた地

 しかし今日は何やら大量の悪魔がたむろしているようで、耳を済ませれば悪魔達のササヤキ声が聞こえてくる


『なんでこんな場所で集会を・・・?』

『それが悪魔王には絶対聞かれたくない重大発表があるとか』

『それはもしかして・・・!?遂に攻め入るのか!?』


 現在悪魔領では、現悪魔王であるヴァンプを王の座から引きずり下ろすために各地で頻繁にクーデターが引き起こされている

 今日この場所に集まった者の大半は、そんな反ヴァンプ派の悪魔達なのだ


 そんな、これからどんな重大発表がされるのかとざわつく悪魔達の耳に不思議なメロディーが流れ出す


『な・・・なんだ!?』

『お・・・おい!あれを見ろ!』


 一人の悪魔が、突如照らされた高台の上を指さす


 そこには黒光りした筋骨隆々な巨体、魔王とさえ見間違えれる一人の悪魔の姿

 唐突に現れた形容しがたき者の姿に、悪魔達が目を見開く


『『『『なんであいつ全裸なの!?』』』』


 そんな驚く悪魔達を見下ろしながら、ほくそ笑む者が一人


 無名のアイドルがコンサートを見てもらうにはまずインパクトが大事だ、見てもらわないと評価どころの騒ぎではないからな


「しかもそれだけじゃない、ロウの能力はターゲットの強制固定・・・つまり・・・」


『『『『あれ!?やつから視界を外せない!?』』』』


 一匹の悪魔の声と同時に、周りの悪魔がざわめきだす

 そう、やつらはこのデスコンサートが終わるまで逃げられない!


 まさかこんな形でロウの能力に頼る時が来るとはな

 感情が失ったように眼下を見下ろす俺を無視して、煌びやかな衣装を纏ったリッチーが声を上げる


「皆んナー!今日はリッチー達のコンサートに来てくれてありがトー!!!」


『『『『なんで死霊の王がこんな所に!?』』』』


 リッチーの声を聞いた悪魔達が驚いた顔をしている

 おかげで俺達のクエストポイントが凄い勢いで溜まっていく


 これだけでも黒歴史ヴァンプに勝てるんじゃないか?

 俺は、太郎兄に相談したら何故か速攻で送られてきた衣装を見ながら溜息を吐く


「まだ俺が注目されてない今の内にライブ終わらないかな・・・」


 しかしそんな呟きは届く事無く、リッチーの前口上が終る頃には悪魔達の興味の視線が俺を貫く


 奴等の考えが手に取るようにわかる・・・このインパクトが強い二人の後に控える俺が、どんな凄いやつなのかという期待の眼差し


 やるしかない・・・か

 俺は周りの期待を一身に受け、声を荒げる


「我こそは悪魔の王の娘なり!今宵は父を玉座から引きずり下ろしにきたぞい!」

『『『『うおおおおおおお!!!!』』』』


 俺の叫びを聞いた観客のボルテージが急上昇していく

『悪魔の王に娘が?』とか

『反乱の時キター!!』とか

『ムスメチャンカワイイヤッター』とか

 色々聞こえてくるがまぁ今は置いとこう

 今回はそういうロールプレイなんだ、恥ずかしがってたら何も出来ない


 ちなみに本来であれば悪魔の王の娘などという嘘を吐けば、悪魔王の呪いで大変な事になるらしいが

 悪魔の王であるヴァンプが許したから呪われる事は無いらしい


 ちなみに俺達はあくまで陽動だったりもする

 この間にヴァンプが黒歴史ヴァンプの所で一騎打ちをするとかなんとか


「正直俺もそっちが良かったな・・・だがまぁ・・・」


 ここまで来たら・・・最後までやり遂げる!


 アイドルゲームで何度も見た振り付けを!

 リズムゲームで何度も聞いた歌詞を!


「今ここで・・・出し切る!」


 この日、悪魔領で多くの伝説が生れる事になるが、それはまた別のお話


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