第13章 雪の一族
氷の国、スノーキル
世界の果てに隣接し、氷の大地の上に存在する街
凶悪な魔物から街を守る為
歴代の雪の一族の長によって大結界が施されている
街の中心にそびえ立つ氷は熱を帯び、街の暖を取ると共に、雪の一族の主食として、スノーキルの特産品となっている
グラフ幻想譚
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「遠路はるばるよく来たのうアズ坊」
痩せ細ったよぼよぼの爺さんが俺の頭を撫でる
「まぁ転移して来たから別に遠路ってわけでも無かったので・・・あと坊じゃないです」
爺さんの手から逃げるように体をよじらせる
「あらまぁ、アズちゃんは8つにしてはしっかりしてるねぇ」
同じく痩せ細った婆さんが俺の頭を撫でる
「まぁ8歳って言ってもその後に+がつきますからね、あとちゃんはやめて下さい」
婆さんの手から逃げるように体をよじる
現在スノーキルの城についた俺は、何故か存在するコタツに入ってのんびりしているのだが・・・
「というか!何でお前ら俺の両サイド固めてんの!?」
何故かコタツに足だけ突っ込む形で両サイドを固める爺婆に声を荒げる
別にデカいコタツというわけでもないが、少なくとも四方の内二か所はがら空きなのだ
「他の場所ガラ空きなのになんでわざわざ真横に来んの!?」
俺の疑問に爺婆は揃って首を傾げる
「だってこっちの方が人肌であったかいじゃろ?」
「コタツに入った方が断然あったけぇよ!」
ここに着いた時は、なんで母姉が姫様って言われてんの?とか、なんでコタツがあんの?とか色々考えたが、今はそんな事はどうでも良い!
とりあえず何かにつけてベタベタしてくるこの二人をなんとかしたい!
対面に座って湯のみをチャプチャプさせている母姉を見る
「なぁに?私も混ざって欲しいの?」
そう言いながら膝を叩く母姉
ダメだこいつら・・・なんとかしないと・・・
俺は諦めたように爺婆に揉みくちゃにされる
「・・・それで・・・儀式について聞きたいんですが」
「おお!そうじゃったのう!」
爺さんが思い出したかのうように手を叩くと、近くの兵士が地図を持ってくる
「儀式は簡単、街から少し離れた場所にある洞窟の奥で祈りを捧げるだけじゃ」
確かにそこだけ聞くと簡単そうだが・・・
問題は爺さんが指さしてる洞窟が遠いって事だ
険しい表情を浮かべる俺に、爺さんが優しく語りかける
「大丈夫じゃ、洞窟までは国の衛兵が数千人護衛に着く」
そんなにつくのか、だが俺が重要視しているのはそこじゃない
むしろ護衛がいると困る
「いや、護衛はいりません」
爺さんが俺の返答を聞いて目を見開く
心なしか周りの兵士も驚いている
「この地の魔物は強力・・・まさか兵士の身を案じて・・・!アズ坊、じゃが洞窟までの道のりは本当に危険なのじゃ」
何故か涙ぐむ爺婆と兵士達
いや、そうじゃないんだ
「危険なのは重々承知してます、ですが護衛はいりません、あと坊はやめろって言ってんだろ」
尚も渋る爺さんを婆さんが優しく諭す
「お爺さん、アズちゃんがここまで言ってるんだ、何かあるんじゃないかい?」
そう言いながら俺の目を見る婆さん
「そうです!何かあるのです!あとちゃんはやめろっつってんだろ!」
爺さんが険しい表情を浮かべながら、何か決心したように頷く
「ならばせめて志願した兵士達だけでも連れて行ってくれんか、これだけは譲れぬ」
爺さんの有無を言わさぬ口調
ここが落としどころだろうか?
この国の兵士からすれば俺は何処の馬の骨ともわからぬ人間、上手くいけば誰も付いてこない可能性もありえる
「わかりました!ならそれで良いです」
俺は満足したように頷く
これで最小限の被害で済みそうだ
「では出発は明日、今日はゆっくり休むんじゃよ」
爺さんが手をかざすと、近くにいた兵士達が近づいてくる
「アズ様、お部屋までご案内いたします」
「おう!頼む!」
名残惜しそうに俺の背中を見送る爺婆に別れを告げ、兵士の後ろをついていく
しかしどんな部屋なんだろう?
お城の・・・しかも姫様の子供の部屋って言ったらやっぱり超ゴージャスなんじゃないか?
ワクワクしながら歩いていると、一人の兵士が悩ましい顔をしながら口を開く
「失礼ながらアズ様、何故護衛はいらぬとおっしゃられたので?」
「ん?ああ、えーと・・・ここの国の民ってなんか疲弊してるだろ?俺の護衛に人を回すくらいなら、皆の生活の質の改善に努めてほしいんだ」
本当は違うがこう言っとけば間違いないだろう
なんか兵士も涙ぐんでるし・・・多分悪い印象は無い筈だ
「しかしこの国って普段はこんなに寒くないんだよな?」
ここに転送されてすぐの時に、太郎兄が「この温度は異常だ」と言っていた事を思い出す
質問を受けた兵士が困ったような表情を浮かべる、何かまずい事聞いちゃったかな?
「アズ様はこの国の名産品をご存知で?」
「ん?ああ、暖氷だっけ、wikiで見た」
兵士はwiki?と首を傾げながらも、懐から一つの氷塊を取り出して俺に手渡す
「こちらを」
冷たい感覚に備えながらも恐る恐る氷塊を手に取った俺は、触れた瞬間体の芯から感じる温かさに感嘆の息を吐く
なるほど・・・暖氷とは言ったものだ
「良ければお食べになってみてください」
言われるがままに暖氷を口に含む
「これは・・・!?」
口に入れた瞬間硬かった暖氷がモチっとした感覚に変わる
・・・これお餅だ!
味付けが無いのが残念だが、俺は懐かしい食感を楽しみながら暖氷を飲み込む
「なるほどな、触れればあったかくて、食べればお餅・・・特産品になるわけだ」
納得しながら首を縦に振る
心なしか兵士が生暖かい目を向けてきている
「・・・なんだ?」
「いえ、美味しそうに食べる姿がとても愛らしく」
「・・・・・・これが今の街の現状とどう関係してるんだ?」
悪意の無い言葉で返答に困ったのでとりあえず話をもとに戻す
「ええ、実はこの暖氷はかの儀式の副産物として与えられる物なのです」
なるほどなるほど・・・ん?
「ちなみに今、暖氷の在庫は?」
「一人一個、あるかないかでございます」
「おおい!何でそんな大事な事を後に言うかな!?食べちゃったよ君の分!?入手手段は・・・ああ!そうか!」
儀式が行われないと暖氷は手に入らない、けれど儀式を出来る人間がいない!
期待されていた母さんがこの国に帰って来たのはいつだ?
多分俺が学校に入学した時・・・それから逆算すると・・・3年!?
オロオロする俺に、兵士が優しく語り掛ける
「いいのです、私はアイス様のお子様が見られただけで満足なのです」
いやいやいや!何もう心残りはありませんって雰囲気出してんの?それじゃあ俺の寝覚めが最悪なんだよ!
「いいですか?明日俺が必ず儀式を終わらせます、ですから安心して待っててください」
「はい・・・アズ様・・・!」
だからなんで涙ぐんでんだよ!
部屋に通された俺は兵士と別れ
ゲンナリしながらも何故か部屋の真ん中に置いてある煎餅布団に包まれて一夜を過ごし
翌日城の真下に集まった数万の兵士に頭を抱える事になるのであった




