第4章 温泉に来たけど思春期のやつらのせいで楽しめないしゴーレムが変な形してるし帰りたい
違和感が全くないドルガさんを置いて三人で二階の角部屋に移動した俺は、ムーたんの服を引っ張る
「よし・・・善は急げだ!行くぞ!ムーたん!」
「ちょっと待て!?さっきチラッと様子を見たがここは混浴だぞ!?」
「なんだ、恥ずかしがってんのか?ムーたんのアレを見ても誰も何とも思わないって!」
「いや!そういう意味じゃ・・・なぁアズ・・・それは小さい頃の話だろ・・・やめろよ・・・」
何故か落ち込みだすムーたん
「それなら僕はアレクと一緒に入るから後で良いよ・・・」
ムーたんの言葉にアレクがピクリと反応し、俺は目を見開く
「おま・・・そんなに女体に飢えてるのか?」
「え?は?」
ああ、これはお約束ってやつだな?
「いいかムーたん、アレクは女だ」
「うえええええええ!!!!????」
なんだその驚きは、最初はアレンと間違えただろうに・・・
・・・まさかアレンを男と思って・・・?
いや、無いな・・・昔は三人でよく風呂に入ったし、何よりアレンはかなりデカい
俺が黙って考え事をする中ムーたんは顔を蒼くしたり赤くしながらあたふたしている
「とととというか!そそそそれこそアズは恥ずかしくないのかよ!?」
「小さいムーたんとも小さいアレクとも一緒にお風呂入ったからなんとも」
俺の発言にムーたんが「これだからお子様は・・・」と言っているが
俺の方が遥かに年上だからな?
「ととととにかく僕は一人で入る!」
叫びながら部屋を飛び出すムーたん
おい、それだとお前が先に入ったら俺が後になるじゃないか!
プンプン怒りながらムーたんを追おうとして・・・
服の端をつままれて後ろに倒れそうになる
視線を向けるとずっと静かにしているアレクの姿
「どうしたアレク?はやくあいつを追わないと俺達の順番が後になるぞ?」
抗議の声をあげる俺にアレクがお構いなしに抱き着いてくる
「のわ!?なんだなんだ!?どうしたアレク!?」
「ああ・・・本当にアズだ・・・良かった・・・」
本当にどうしたんだ!?
慌てながらしどろもどろしているとアレクが口を開く
「ずっと・・・ずっと会えなかったから・・・」
アレクの目じりに涙が溜まっている
ああ・・・この感じ・・・昔こっちの世界で姉に会った時の俺を思い出すな
「やれやれ・・・いつの間にこんな甘えん坊になったんだ?」
俺が頭を撫でるとアレクがこそばゆそうに体をすくめる
「最初からだよ、アズに拾われたあの時から」
「そっか・・・というか甘えたいならいつでも甘えれば良いだろうに」
俺の言葉にアレクが顔を赤くしながらそっぽ向く
「人前で・・・恥ずかしいじゃないか」
そんなアレクを見ながら俺は溜息を吐く
お年頃の娘を持った気分だなぁ・・・まったく
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温泉でゆっくりした俺達三人が部屋でカードゲームをしていると
部屋の扉がノックされて見知った人物が中に入って来る
「アズ・・・おめぇ・・・まだせだな」
カウンター席で会った時とは違い、私服らしき物を着ているドルガさん
「別に待って無いから良いですよ、というかドルガさんがレジスタンスメンバーなんですか?」
俺の質問にドルガさんが首を縦にふる
「ここで希少鉱物の採掘ミッションが行われででな」
つるはしを持ったドルガさんが容易に想像できる
やっぱりこの人はドワーフなんじゃないか?
「それで?俺達は採掘の手伝いでもすれば良いんですか?」
ドルガさんが首を横にふる
「実は採掘事態は順調に行ってだんだが鉱山にゴーレムモンスターが現れてじまっでな」
「・・・なるほど、それで昼間っから酒を呑んでるドワーフが沢山いたんですね」
俺の言葉にムーたんが首をかしげている
まったく、これだからムーたんは
「いいか?鉱山にゴーレムが出現した事により鉱山で採掘をしていたドワーフはやる事が無くなり・・・昼間っから酒を呑んでるってわけだ」
ドヤ顔をかます俺にムーたんが「なるほど・・・」と尊敬のまなざしを向けてくる
「いや?あいづらは普段から変わっでねぇぞ?」
隣でドルガさんが何か言ってる気がするが気のせいだろう
「それじゃあ俺達の今回のミッションはゴーレム退治って事ですね!」
「ぞういう事になるな」
首を縦にふるドルガさん
全く、いきなりとんでもミッションが来てしまったな
ゴーレムといえばドラゴンに継ぐRPG鉄板モンスター
その能力はかなり高く、鋼鉄を弾き、相当高い魔法耐性を持っていた筈だ
俺は改めて今回のメンバーを確認すると首を横にふる
「今回のミッションは無理だ、諦めよう」
そう皆に告げると、ログアウトするべくシステムウィンドウを開いて動きを止める
「そういえば太郎さんがミッションクリアまでログアウトは出来ないって言ってたぞ?」
「あんのクソ兄貴・・・」
再び灰色に変わったログアウトを見ながらシステムウィンドウを閉じる
「とりあえずやるだけやってみましょう」
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翌日、ゴーレムを見るべく採掘現場に着いた俺は頭を抱えていた
採掘現場を守るように洞窟の前で仁王立ちするゴーレム・・・いや・・・
ゴリラがいた
「あれが邪魔をしている古代文明のゴーレム・・・ゴーリラだ」
「いや、ゴリラじゃん」
ゴーリラは俺達に気が付いたのか肥大した腕で胸部を叩いてこちらを威嚇している
「まずいぞ・・・ゴーレムに警戒ざれだみだいだ」
「いや、ゴリラじゃん」
あれってドラミングってやつだろ?
「ごんな時の為にこのアイテムを持ってぎどいでよがっだ!」
そう言いながら胸元から曲がった黄色い鉱石を取り出すドルガさん
「いや、バナナじゃん、やっぱあれゴリラじゃん」
ドルガさんは俺のツッコミをことごとく無視して鉱石をゴーリラに投げつける
俺は器用に周りの岩を剥いてバナナ鉱石を食べるゴーリラを見ながら頭を抱える
そんな俺の顔をアレクが心配そうにのぞき込む
「どうしたんだアズ?何か問題でもあったのか?」
「いや・・・問題というかなんというか・・・俺もう疲れたから帰って良い?」
弱音を吐きながらも俺はゴーリラを視界に映す
よし、とっとと終わらせてとっとと帰ろう
「ムーたん、俺の後方3メートルに羊毛」
「え?あ、おう?」
ムーたんが首を傾げながらも羊毛を展開したのを確認
「ドルガさん。俺を思いっきりあの羊毛に向かって投げ飛ばしてください」
「え?わ・・・わがっだ・・・」
ドルガさんに投げられた俺は羊毛にぶつかり
羊毛の反動で数倍に加速しながらゴーリラに向かって突進する
「「「ちょ!?」」」
後方で三人が驚愕の表情を浮かべているが無視だ無視
ゴーリラは高速で飛来してくる俺に気づいたのか
自身を中心とした数メートルに岩で出来た物体を展開、射出してくる
「お・・・やっとゴーレムらしい動きしてきたな!」
俺はニヤリと口を歪めると
インベントリからオリジナル杖を取り出して杖に跨る
杖の先端をバーナーのように噴射させて飛来する岩を避けながらゴーリラに詰め寄る
「しかしゴーリラは一体何を投げ・・・」
俺は飛んでくる岩をよく見て固まる
それは色こそ違えど先ほどドルガさんがゴーリラに投げつけていた・・・
俺は目の前に迫るゴーリラに向かかって叫びながら突っ込む
「やっぱゴリラじゃん!!!!!!!」




