第2章 チュートリアル
「しっかし太郎兄がリーダーねぇ・・・」
「他に適任がいなかった、ただそれだけだ」
現在俺は、アレンとムートンが別部屋で着替えている間、パソコンを操作している太郎兄から情報を聞き出している
「それで?俺はこれからここで何をすれば良いんだ?」
「その事は今から話す、丁度二人も帰ってきたようだ」
背後で扉が開く音を聞いた俺は、学友達に視線を向ける
「おう!二人共遅かっ・・・・ブ!?」
俺の視線の先にはサトミ姉の服を着たアレンとムートン
そう・・・サトミ姉の服を着たムートン(男)
「ど・・・どうだろう?似合ってるか?」
頬を赤らめながら聞いてくるムートン
知識がないって怖いな・・・
ここは常識人として俺が教えてあげないといけないだろう
「最高に(可愛くて)似合ってる、正直見る目が変わったよ(笑)」
「そ・・・そうか?」
照れながら髪を掻くムートンを背中に俺は兄に手招きする
『おい、なんでムートンがサトミ姉の服を着てるんだ?』
『俺が知るか・・・いや、そうか』
兄は何か納得したように手を叩く
『そういえばここには姉の服しか置いてなかったな』
おおい・・・納得だよ・・・
姉は大の可愛い物好き、必然的に選ぶ服もフリフリの可愛い物が多い傾向がある
だがそれにしても・・・
俺はムートンからアレンに視線をうつす
ノースリーブのシャツにパンツルックのアレンは、可愛いというよりカッコイイ系
正直姉の服からよくその装備を見つけ出したと誉めてあげたいくらいだ
だからこそ比べてしまう
姉の趣味全開のフリッフリの衣装に身を包んだムートンと!
選べないわけでは・・・なかった筈だ・・・
俺はムートン、いや、ムーたんに慈愛の目を向ける
「あれ?じゃあ太郎兄の服は?」
なんで太郎兄がいるのにサトミ姉の服しかないんだ?
太郎兄は「なんだそんな事か」と眼鏡を直す
「俺は一か月くらい着替えてな」
太郎兄が最後まで言葉を発する前に、俺は水精霊を太郎兄にぶつける
「な・・・何をする、ここにはデリケートな機械がた「うるっせぇよ!!久しぶりのこっちの体で嗅覚が麻痺してるのかと思ったらお前の匂いかよ!」
「大和、兄に対してお前とはなんだお前とは」
やかましい!今は兄というよりゴミとしか見えないんだよ!
「とにかくはやく風呂に入って着替えて!」
「む・・・しかし今俺が持ち場を離れるわけには・・・」
尚も渋る太郎兄
「臭い太郎兄なんて嫌い!」
「なぁ・・・!?」
俺の心からの叫びを聞いた太郎兄が微動だにしなくなる
そんな中、今まで俺達のやりとりをポカーンと見ていたアレンとムートンが俺に歩み寄る
「おいアズ、言い過ぎだぞ?お前の兄貴なんだろ?」
「そうだよアズ君!もしも私がお兄さんの立場だったら・・・自殺するレベルだよ?」
ムーたんはともかくシスコンは黙っててくれないか?
誰もかれもがアレンのようなシスコンだったりブラコンだっりするわけでは無いのだ
しかし言い過ぎた感は確かにある
俺は微動だにしない太郎兄の顔を覗き込む
「あ・・・あの・・・太郎兄?」
「・・・・だ」
だ?太郎兄が何やら携帯を取りだしながら叫び出す
「非常事態だ、大至急、同郷ハンズで男物の服を買ってこい」
◇
「二人には恥ずかしい所を見せてしまったな」
一か月ぶりに体の垢を落とし、綺麗な服を着た太郎兄が椅子に腰かける
「いえ!私ももしアレクにあんな事を言われたら生きていける自信がありませんからね・・・わかります」
無言で頷きあう二人を見ながらゲンナリする
そんな俺の隣には同郷ハンズで男物の服を二着買ってきたメイド服の女性が座っている
「全く、何事かと思ったら男物の服を買ってこい・・・だなんて」
「ウチの兄がご迷惑おかけして申し訳ありません・・・」
「いえいえ、リーダーにはいつもこちらがお世話になっている立場なのでお気になさらないでください」
メイド服の女性は俺の謝罪にニッコリとした笑顔でフォローをいれてくれる
なんか・・・ほんとすみません・・・
そんな萎縮する俺の袖をムーたんが引っ張る
「なぁアズ、そのメイドは誰なんだ?」
ムーたんのもっともな質問にメイドがハッ!とかしこまる
「失礼いたしました、私はメアリー、現在地球でレジスタンス活動をしているものです」
「あ、どうも・・・この世界では平民にもメイドが仕えてるんだなぁ」
このままではムーたんが無意識のうちにどんどん違う世界に行ってしまいそうだ
「ところでレジスタンスの活動って?」
とりあえずムーたんの事は後回しにレジスタンスの事を聞くことにした
「ああ、レジスタンスのメンバーは来るべき神の封印の為にこちらとあちら、両方の世界であらゆる活動を行っている・・・例えば」
太郎兄がメアリーに視線を送る
「私の場合レジスタンスメンバーの情報操作を主体に動いています」
「何日間も消息不明となると警察がうるさいからな」
なるほど、そうやってその人に合った活動をしているわけだ
「それで?俺は何をすれば良いんだ?」
「大和にはこれから様々な場所に行き、各地のレジスタンスに協力して欲しい」
「それは良いけど俺一人でか?」
ざっと部屋を見る限りヘッドギアは一つしかない
この世界ではまだVRゲームの可能性が育まれてきたばかりだから、ヘッドギアの在庫はそんなに無い筈だ
「心配はいらん」
そう言いながら太郎兄が謎のタブレットを取り出す
「これは飲めば夢の中でBGOの世界に飛ぶ事が出来る薬だ」
「へぇ・・・あれ?じゃあそれだけでよくね?」
「それがそうもいかん、これでダイブするには向こうの世界に、あるアイテムが存在する必要がある」
なるほど、俺がダイブして向こうでそのアイテムを持っていれば良いんだな
一人納得していると太郎兄が虹色に輝く結晶を投げ渡してくる
「大和はこのアイテムを持っていれば良い」
「なんだこれ?」
「それがあればタブレットを飲んだ事のあるやつがランダムでお前の助っ人として現れる」
ほほう!じゃあ一気にいっぱい使えばボスとかをフルボッコに出来るのでは?
俺がわくわくしながら虹水晶を見ていると、太郎兄が捕捉をいれてくれる
「ちなみに数に限りがあるからな?エリア数を考えると一回のダイブに二人までだ」
そう簡単にはいかないか・・・
しかしランダムで二人・・・ハズレを引いたら一気に攻略が難しくなるな
「質問は以上だな?準備が出来次第声をかけてくれ」