-7.報告
「お母さん再婚するから。式は年明けね」
高校生活最後の夏も終わりかけた頃、母は突然そう告げた。母の唐突な発言は日常茶飯事であったが今回ばかりは、はいそうですか、と流せなかった。
「あの、娘は年明けにセンター試験という人生のターニングポイントを控えているのですが」
「大丈夫よ、私の娘なんだから」
「母さんセンター試験どころか大学受験すら経験してないでしょ。その自信はどこから湧くの」
タチが悪いにも程がある。現に今も楓子はリビングのテーブルで勉強をしている真っ最中だ。
「別に式ったって大したことしないから大丈夫よ。どっかのオシャレなレストランで家族水入らずで、って考えてるわ。どちらかと言えば食事会ね。それに引越し自体は春に、と思ってるし」
「引っ越すんだ……初耳なんですがそれは」
どうやら楓子のあずかり知らぬところで話が進んでいるらしい。
「向こうがこっちにね。二人で住むには広すぎたし、ちょうどいいでしょ?」
「あー、そういうことか」
楓子はファミリー向けのマンションで母親と二人で暮らしていた。昔は狭い賃貸に住んでいたが、母が独立して作ったデザイン会社が軌道に乗り安定してきたのを機に、今の家を買ったのだ。まだ新しく綺麗なこの家は、確かに手放すのには惜しい物件だった。
「でもタイミング微妙じゃない?向こうの娘さんまだ中学生だし。転校させるの?」
「そうなるわね。まあ、その件については向こうがなんとかしてるんじゃないかしら?」
「まるで他人事ね。もうすぐ家族になるってのに」
人のこと言えないけど、と楓子は心の中で付け足した。母に彼氏がいること、それが年下であること、そしてその彼氏に娘がいること、その全てを楓子は頭の中では理解していた。ただ楓子は何かと理由をつけてあっちの家族に会うのを躊躇っていたため、全く実感がなかった。
「でも、春なら私はもう関係ないね」
「あら、本当に京都の大学受けるつもりなの?」
「冗談でそんなこと言うと思う?」
部活動を引退し、受験勉強が本格的に始まった楓子は、ただでさえ気が立っていた。苛立ちが声に出ていた。
「あら、怖い怖い。女子高生がそんなに眉間に皺寄せちゃ駄目よ」
そんな楓子の扱いにも慣れたもので、母は飄々と躱してしまう。それがさらに楓子の苛立ちを加速させる。
「とにかく、私は忙しいの。あまり巻き込まないで」
突き放すようにそう言った。
母は相変わらず笑っていたが、なぜだか少し悲しそうに見えた。




