朝ごはんはしっかりと
早朝の朝日に照らされる麻亜林高敷地内の学生寮。植え込みに咲いている花たちは朝露に濡れ、太陽光を受けてキラキラ光り輝いている。僅かな微熱を伴った風が花たちを揺らしていくと、花びらに付いていた露が一瞬で乾き、箒を持った一人の男の髪を小さく揺らしていった。まばゆい光に目を細めながら背伸びをすると、男はご機嫌な鼻歌を歌いだした
焔蒼
「〜♪〜〜♪」
白い作業服姿の焔蒼が玄関への道に積もった桜の花びらを箒で掃除していると、学生寮から離れている職員専用のアパートから、バレーボール大の何かがヒュンッと空へ飛んでいき空中で大爆発を起こした。静寂に包まれていた高校の敷地に炸裂音が響き、衝撃波が寮の窓をビリビリと揺らしていく。空中で炸裂し、かつ破片もないので被害がないのが唯一の救いだろう
焔蒼
「・・・(;´д`)」
零
「・・・( ̄― ̄)」
音流
「Zzz(* ̄Д ̄)」
ゆう
「・・・?(=д=)」
和貴
「!?(; ◇ ) ゜ ゜」
その頃の彼らはこうなっていたかもしれなかったり・・・
***
和貴
「んー、よく寝た・・・っと、まだ7時前か」
入学パーティから一夜が明け、俺はいつもより早く目が覚めた。時間は6時半過ぎくらいで、普段ならまだ寝ている時間だ。昨日寝たのが夕方を過ぎた頃だった気がするから、この時間に起きるのは当然か。窓の外は薄い青空が広がって・・・ん? なにか飛んでった・・・
ドカーーン!!
・・・んん!? なんだ、今の!?
どこからか飛んできた未確認飛行物体が空中で爆発した。・・・自分で言っても全く訳がわからん。今日も波乱の一日になる予言と思っておこう。取り敢えず、着替えてランチルームに行くとしよう。部屋に置いてあったタンスを開いて、替えのカッターシャツを取り出す。昨日、着ていたシャツはシワが付いてしまったから、後でアイロンを借りてシワを伸ばさないといけない。サッと着替えを済ませて部屋を後にし、寮の廊下をランチルーム目指して歩いていると、後ろから聞きなれたかすれ声が聞こえてきたので振り返ってみると、寝ぼけ眼を擦りながら歩いてくるゆうがそこにいた
ゆう
「和貴おはよう...」
和貴
「ゆうか、おはよう。朝ごはん食べに行くけど行くか?」
ゆう
「うん...」
まだ眠そうなゆうと一緒にランチルームに向かい中に入る。朝早く(AM・6:40)だからそんなに人は居ないだろうと思っていたが、意外にもそれなりの数の生徒や先生たちが朝ごはんを食べていた。三年生のテーブルの一ヶ所では昨日と同じのろけた空気が視認できる・・・羽根つきハートまで飛んでるぞ
俺は厨房のそばのホワイトボードに貼ってある『日替わり朝食メニュー』を眺めてみる。今日の朝食は鰆の塩焼き、卵焼き、おひたし、漬物、味噌汁、ご飯というバランスが良い朝食のようだ。厨房からは味噌汁の良い香りが漂ってきて、俺の食欲を刺激していく
調理員
「あら、新入生ね。食べたいものは決まった?」
和貴
「あ、はい。えと、日替わり朝食をお願いします。ゆうはどうする?」
ゆう
「僕もおんなじの...」
調理員
「ご飯は普通と大盛りがあるけど、どっちにする?」
和貴
「大盛りの方で」
ゆう
「普通...」
調理員
「分かったわ。出来たら呼ぶから座って待っててくれる?」
和貴
「はい」
調理員
「そういえば、名前は?」
和貴
「大宮和貴です。こっちは庭園ゆう」
調理員
「大宮和貴君と庭園ゆう君ね、良い名前ね」
和貴
「ありがとうございます・・・」
にっこり笑って厨房の奥に消えた調理員の美人なお姉さん。あんなに綺麗な人って居るんだな・・・なんて言うか・・・綺麗過ぎる・・・
零
「ちょっと良いか?」
和貴
「うえい!?」
後ろから聞こえた声にびっくりして跳び跳ねる。振り返ると、お盆を持った神施蝋先輩がすぐそばに立っていた。神施蝋先輩が持っているお盆の上には綺麗になったご飯茶碗や皿が乗っている。成る程、食器の返却はセルフなのか・・・っと、先に退かないとな。横に避けると神施蝋先輩が食器を返却口に置き、「ごちそうさまでした」と調理員さん達に伝えた。俺は先に一年生テーブルに移動していたゆうに呆れつつ、周りを見回す・・・あれ?弥野先輩だけ居ない?
調理員
「大宮くーん、出来たわよー」
弥野先輩を探してキョロキョロしていたら調理員さんに呼ばれる。二年生のテーブルにチラッと目を泳がせたけど、やっぱり弥野先輩は居ない。二年生のテーブルに視線を向けつつ朝食を受け取りに厨房に向かうと、調理員さんが首をかしげた
調理員
「誰か探してるの?」
和貴
「弥野先輩が居ないような・・・」
調理員
「ああ、音流ちゃんはまだ来ないわよ」
和貴
「え? どうしてですか?」
調理員
「今、45分ぐらいでしょ?」
壁に掛けてある時計を確認すると、確かに45分だ。この時間が弥野先輩と何か関係があるのか?
調理員
「音流ちゃんは7時にならないと起きてこないわ。7時前に起こすと不機嫌極まりないの」
和貴
「何でですか?」
調理員
「音流ちゃんは年中睡眠不足だから」
はい? 年中睡眠不足? ・・・開いた口が閉まらないとはこういう状況の事を言うんだろうか。呆れてなにも言えない
調理員
「それより、冷めちゃうわよ」
和貴
「あ、ああ・・・。ありがとうございます」
調理員
「どう致しまして」
ゆうの分の朝食をテーブルに運び、次に自分の分の朝食を運ぶ。浅い睡眠状態のゆうを起こし、お互いに向き合った状態で朝ごはんを食べる
和貴/ゆう
「「いただきます」」
ズズッと味噌汁を啜ると暖かいものを飲んだときになるほわーっとした感覚が身体を駆けていく。味噌汁の具がシンプルにわかめ、豆腐、ネギなのも俺としては好みである。味噌汁を置いて湯気を立てているご飯を他のおかずと一緒に食べていく。やっぱり、日本人には米は欠かせない。ゆうの方をチラ見すると味噌汁を飲んでいた。すると、寝ぼけ眼→(´―ω―)が一転、パチリと→(*´・ω・)開いた。ようやく目が覚めたらしい
特に喋らずただ黙々と朝食を食べていた時、外からかすかに7時の時報が聞こえてくる。箸を動かすのを止め、聞きなれた音楽を聴いていると入口からフラフラと弥野先輩が歩いてきた。Tシャツとズボン姿の弥野先輩はいかにも寝起きの格好だ。寝癖を全く直していないのは女子としてどうなんだ
音流
「那醉さぁ〜ん…ご飯〜…」
那醉
「おはよう、音流さん。ご飯は大盛り?」
音流
「(コクコク)」
那醉
「それじゃ、用意するね」
厨房に現れた女性はさっきの人とは違う人だった。注文を済ませた先輩が二年生テーブルに座って大きな欠伸をした丁度その時、一個の羽根つきハートが先輩の頭にぶつかる。弥野先輩は振り返って頭にぶつかってきた羽根つきハートを鷲掴みにすると、躊躇せずに食べていく
和貴
「え・・・Σ(゜д゜;)」
ゆう
「和貴?(振り返って)・・・なんだ、あの光景(゜゜;)」
音流
「・・・(もぐもぐ」
羽根つきハート→(羽根がピクピク引くついている。南無ー)
いやいやいや待て待て待て待て。弥野先輩ちょっとなにしてんのぉぉぉぉぉお!? それ食べ物じゃないよぉぉぉぉぉお!? それ味あるのぉぉぉぉぉお!? (和貴、心の叫び)
ゆう
「和貴、ズレてる。そこ関係ない」
和貴
「お、おぅ…」
那醉
「音流さーん、出来ましたよー」
音流
「ふっ(羽根が数枚ひらり)」
なんか・・・スッゲー残酷なの見た気がする。いや、朝ごはんはちゃんと食べるが。残すと悪いし、罰当たりだし、美味いし。お茶が体に染みるぅ・・・(和み)
――その後、弥野先輩は追加で羽根つきハート二個と朝ごはんを平らげたのだった――