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スターレッド・レイ  作者: 一葉
1/7

1話



どうしようもない事ってあると思う。


例えば私が陰で同性に嫌われてることとか。

例えば私が異性に好かれることとか。

それから、私が誠意のない人間だとか。


だからこれも仕方のないことの一つ。


崩れ落ちた私の身体を抱きしめて泣き叫ぶ人が憐れで、手を伸ばす。

実のところお腹に刺さった包丁がとてつもなく居心地が悪いんだけど、ね?


手を伸ばしてこの人を抱きしめたとしよう。

そうするとどうしてもこれが邪魔で、無視に努めると彼の身体と自分の身体の間で、包丁がなおさら深く突き刺さったりする。


だけど、ため息をついて、私はやっぱりそうした。


せめて最後くらいは示すべきでしょう?

私の、吹けば跳びそうな愛を。


そんなものでも望んでくれているようだったから。

こんな私でも、望まれることは嬉しいことだから。


無理矢理腕を彼の背に回す。

少しでも報いるために。


今にも力の抜けそうな手が彼の背に触れれば、彼は途端に慟哭を上げる。

それ以外知らないように私の名前を呼び続ける。


「ゆら!ゆら!!」


馬鹿ねえ?

私みたいな女に引っかかるなんて。


「ゆるしてくれ、ゆるせなかったんだ、ぼくだけのものにならないきみが!!」


馬鹿ねえ?

私は最初からそういう女よ?

あなたを好きだったけど、あなた以外も好きだった。

あなたに囁く愛は他の誰かにも同じように呟く言葉。


気づかなかったの?

隠してもいなかったのに。


ちかちかとメールの着信を知らせるランプ。

あの人かしら、それともあの人かしら?

どうせ返せないのだし、もうどうでもいいことだけど。


おかしいの、最後に思い出すのは誰の顔かと、少し自分の心がはじき出す答えを楽しみにしていたのに。


あのひとが好きだったわ。

あの人も、あの人も、あなたも。


でも違うのかしら?

私はもしかして誰も好きではなかったのかしら?


だって、誰も思い出せないの。

誰の顔も思い浮かばない。


嘲笑と嫉妬を込めて、恋と愛に生きる女と言われ続けてきたのに。

私もそうやって生きてきたはずだったのに。


恋も、愛すらも私にはなかった。

そんな事実を今更突きつけられて、私は私を笑う。


薄情な私は結局、本当にろくでなしだったらしい。

ああ、残念。

自分にがっかり。


でもそれだけ。

だって私は「ろくでなし」なんですもの。

感慨すら湧かなくても不思議じゃないでしょう?


だから。

いま言うべき言葉は二つ。


ごめんなさい。

こんな私にもいる、案じてくれる友人と家族に。

きっと誰もが口を揃えて言うのでしょう、『あれは自業自得だ』と。

私もそう思うから、だからそんな世間の言葉とろくでなしの私のせいで傷付かないでくれたら。

それでも、あの優しい人たちは心を痛めてくれるだろうから、最後まで面倒をかけてごめんなさい。


それからあなたに。


「ありがとう」


その言葉と最後の微笑みを。

ずるりと彼の背に回していた手が滑り落ちた。


「ゆら!?…ゆら?…っ―――――!!!」


叫んでいるの?

泣いているの?

悲しんでいるの?

後悔しているの?


いいのよ、気にしないで。


だって、殺される程に愛されるなんて、女冥利に尽きるってものでしょう?






どうしようもないことってあると思う。


だから気には止めない。

誰かが私を嫌いでも、誰かが私を好きでも。

嫌いの種類が憎しみでも、嫉妬でも。

好きの種類が下心でも、真心でも。


私の世界はいつだって変えられないことで溢れていて。

私は襲い来るようなその流れに耐えることもやめて、流れに身を任せ続けた。


求められれば応え、言われるままに離れ。


誰かが言った。

あなたに意志はないのかって。

忠告してくれたあの人は、とてもいい人。

だから二度と構わないでくれると嬉しい、そんな風に思う私は本当に最低。


「みんな、面白がっているだけなのよ!?あなた遊ばれてるってわからないの?陰口を叩く女の子にも、噂に踊らされて寄ってくる男達にも!」


知ってるわ、知ってたわ。

いつかろくでもない終わりが来ること、知ってたわ。


それでも私、変わろうともしなかった。

もう、それが答え。

それが全部、私というろくでもない人間の本質。


だって、どうしようもないことってあるでしょう?

そこら中に転がっているでしょう?


だから私は気にも止めない。

殺されても、生きていても。


私は、空気を吸い込んで声を上げて泣いた。


きっとこれもまた、いつもの『どうしようもないこと』のひとつ。

産み落とされても、私は思うだけ。


ああ、生まれたのね。


ただ少しだけ考える。

終わったあの命に意味はあったのか、と。


愛と恋に生きて、それすら体をなぞる羽のように軽い泡沫。

流され続けて、どこかに留まることも打ち上げられることもなく、飲まれて終わり。


ならば私にはなにが残ったのか?


終わって、新しく始まったこの命でも、同じように生きて、死んで、未練すらないまま同じことを思うのだろう。

最後にはきっと、空しさすらない静けさでただ疑問を浮かべる。


何が私に残っているのか、と。

何も残らない命に意味はない。

その人生はからっぽ。


そう、きっと私、また死んだまま生きるのね。


ああ、産声は理不尽な世界に生み出された不満のよう。




一人称の練習で書いた話ですが、途中で挫折して突然三人称になります。悪しからず。

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