セカイサイコ
「世界が闇にーおかされるー。
絶望の淵から現れるー。
機械の身体に熱い心ー。
愛と勇気と正義のー。殲滅者ー。」
これは私が作った、今は亡き殲滅者のテーマソングだ。
彼は有能だったが、いかんせん繊細すぎた。
我が身も顧みず・・うう、涙が。
一通りの掃除を終え、私はキッチンから紅茶を持ってくる。
那由多は二階だろうか?敢えて邪魔をする事もない。
気が向けば降りてくるだろう。
と、私はテレビの下に几帳面に収まっているDVDボックスを発見した。
去年のクリスマスに那由多に送った奴だ。
同僚にプレゼントはどんなのが喜ばれるかと尋ねた所「ティーンエイジャーはゾンビ映画っしょ!」と言われたのでお勧めのやつを送ったのだが、私は中身を見ていない。
ここにあるという事は那由多はしっかり見たのだろう。
どれ、私も話の種に観てみよう。
「ねぇ、母さん?」
「うん?」
「晩御飯どうする?」
那由多に言われ我に帰る。
気づけばとっくに夜になっていた。
私は夢中になってドラマを見ていたらしい。
晩御飯を用意しなければ。
だがドラマの続きも気になる。
「今日はピザを取ろう。」
私は続きが気になり過ぎて深く考えることなくデリバリーを提案した。
「ゾンビ物を観ながら?」
那由多がどんな表情をしていたか分からない。
私の目は画面に釘付けだったのだ。
そして30分後。
折角エルサイズのピザを頼んだのに那由多は一向に手をつけない。
私だけがパクパク食べているので、なにか独り占めしているみたいでバツが悪い。
だが確かにチーズといい、トマトといい、ゾンビの食事を彷彿とさせるものがある。
今度はもっと違う物にしようとも思ったが、ゾンビ映画にあう食事など思いつかない。
それはさておきゾンビは面白かった。
自分も生き返りを経験してるせいか、どうもゾンビに肩入れしたくなるが。
過労死する前に観ていたらまた別の感想だっただろうに。
そもそもゾンビには知性がない。
新陳代謝もしないようだし、痛覚もはたらかなければ、危険認識も乏しい。
私とは根本的違うようだ。
ゴキブリは首がとれても食道下神経節で動くというがゾンビもそうなのだろうか?
余り脳を使わない様に思えるが、心臓を撃ち抜いたほうがよいのではないか?
人間とゾンビがもはや別の生物だと考えると、私はどちらに入るのだろうか?
画面を観ながらそんな事を考えていたら、シーズン1を見終えてしまった。
「む?これで終わりか?なんて中途半端なのだ。続きが気になるではないか!」
思わずドンとテーブルを叩く。
「僕も同じ事思った。」
那由多が苦笑いをする。
「近くのレンタルビデオ屋でシーズン7まで出てるよ。」
「・・・借りに行くしかあるまい!今すぐに!!」
わたしはバサリと広袖を羽織る。
那由多いわく受験生にしかみえないらしいが、こんな暖かくて動きやすいものが活用されてない方が心外だ。
古き良き日本文化に幸あれ!
そして私は古き良き日本文化の集大成、ママチャリに乗って一目散にレンタルビデオ屋に直行したのだが。
シーズン2の1、2巻が無いことに腹を立て、店員と大喧嘩をした挙句、一度も利用することなく出禁となる。
なんたることだ!
私がその気になれば、この店の一つや二つ買うことだってできるのだぞ!!
うちひりがれてギーコギーコと家路に向かうと今度は警察に呼び止められる。
未成年の深夜徘徊だと!?
私は四捨五入で40だぞ!!
虫の居所が悪くつっかかった所、30分も足止めを食らう。
結局、研究班に来てもらい事の次第を話すと、まだ若い警察官は顔を真っ青にして敬礼をしていた。
まぁ、私ほどの権威があれば政府との繋がりの一つや二つ・・・。
結局ムシャクシャしたまま帰宅する事になったが、ここで予想外の事態がおきた。
「・・・何者だ。人の家の前でじっとしていれば、通報されることもあるのだぞ。」
背は190くらいだろうか。
筋骨隆々とした、短髪の男が私の声にゆっくりと反応した。
顔面に走るツギハギの傷跡・・・
見覚えはない・・だが何故か懐かしい・・・?
「・・・ホムンクルスか・・・。俺と違って、魂があるようだ。
残念だ。」
無機質な声だった。
聴いただけで震えあがりそうな・・・。
だが、何故か恐怖心を感じない。
「お前は、まさか・・・。」
「俺の名はヴィクター。
ヴィクター・フランケンシュタイン。世界最古の人工生命体だ。」
違う話も書きたいので頑張って完結させたいと思います!
完結せずに次作は書けぬ!書けぬよ!!