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逆転の発想

オーマイガッ

アメリカドラマなら間違いなくその台詞が妥当なんだと思う。

ちょっと買い物に行ってる間に家の5分の1が吹き飛んでいた。

ご丁寧にkeep outの黄色いテープが周囲に張ってある。

僕は頭を抱える。

ぶっ飛んでる母親だとは思っていたが、まさか風呂場をぶっ飛ばすとは。

ぶっ飛びすぎてて笑いが溢れてしまった。

だが、肝心のこの事件の主犯は辺りに見当たらない。

僕は母の性格から推察する。

どうやったら風呂場が吹っ飛ぶのかは分からないが、洗濯は諦めたらしい。

となると、他の家事で挽回しようとするのが水鏡刹那の思考ではないだろうか?

僕はキッチンを覗く。

キッチンには居ないようだ。

二階から足音がする。

ーーとなると。

僕は嫌な予感しかしなかった。


階段を登ると、突き当たりの母の自室から物音がする。

僕は覚悟を決め、1番手前の僕の部屋のドアを開けた。


「ーーやっぱりか・・・」


なにをどうしたら部屋を丸ごとひっくり返したみたいにぐちゃぐちゃになるのだろう。

新手の兵器でも開発したのだろうか?

ベッドの上に散乱している服はおそらく畳もうとしたのだろう。

だが本棚がひっくり返されてるのは何故なのか?

成年向け雑誌でも物色したのだろうか?

想像しただけで身震いがする。

母が嬉々として性教育を語る場面を想像して気分が急激に悪くなった。

一応確認してみたが、無事だった。

早急に処分しとこう。

しかし、嵐が通り過ぎたような残状だ。

母が帰ってきていなかったら完全に泥棒に入られたと認識するほどの荒れ模様だ。

なるほど、なぜ僕が奇麗好きなのか納得した。

必要に迫られる事を本能で理解していたのだ。

背後で音がした。

振り返った僕は激しい頭痛に襲われ頭を抱えた。

僕の部屋の入り口には、胸を張る母親、刹那。

その隣には、夏休みにダンボールで作られたのかと錯覚するほどクオリティの低い人型の何か。

おそらくロボットなのだろう。

金属の板と棒で組み立てられた、かろうじて立っているようにしか見えないロボット。

おそるおそる僕は尋ねた。


「母さん・・・それなに?」

「汎用人型お掃除ロボ。その名も殲滅者だ!!」


何を殲滅する気なんだよ母さん。

雑菌?雑菌を殲滅するの?

除菌じゃ駄目なの母さん。

大体名前負けしてるよ母さん。

いいとこお掃除くんだよ母さん。


だが、僕の感想を裏腹に、殲滅者は八面六臂の活躍を見せる。

歩き方こそぎこちないが、服は綺麗にたたみ直され、床に散らばった、本類は本棚に、ノート類は机に、同時に4本のアームは各所を拭き掃除、しかも水拭き、乾拭きをほぼ同時にこなしている。

見た目に反してその能力はル◯バの比ではない。


「そうだ!そこだ!いいぞ殲滅者!」


言葉だけ聞くととても掃除を応援しているようには見えない。

そして殲滅者の進撃は続く。

階下に降りると吹き飛んだ浴室をも修理しはじめてしまったのだ!


「やれー殲滅者!!」


いつの間にかハチマキを頭に巻きつけ、熱を入れて応援を始める。

アレ、ロボットだよね?


結局、凡用人型お掃除ロボ、殲滅者は風呂場を見事に「露天」へと作り変えた。

外側から見えないように2メートルはあろう柵まで作り、その柵には葛飾北斎の絵、しかも角度によって別の絵に見えるという見事な一品だった。

凄すぎるよ、殲滅者。

しかし、殲滅者は働きすぎた。

プスプスと煙をたて、部品がバラバラになり崩れ落ちてしまったのだ。

過労で家族を失うという思いをした僕は、殲滅者の部品を掻き集めながらボロボロと泣く母を笑う気にはなれなかった。

だから、せめて彼の働きを労う。


「ありがとう母さん。ありがとう殲滅者。このお風呂は大事に使うよ。

でも母さん。掃除位、自分でしよう?」


ボロボロ泣きながら母は頷いた。


「もう、こんな想いは沢山だ。」


その日から母は下手なりにこまめに掃除をするようになった。

妙な歌を口ずさみながら。

その姿を見るたびに僕は感謝と敬意

を禁じ得ない。

ありがとう殲滅者。


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