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流行と好みについての考察

死んだ筈の母さんは若くなって生き返った。

詳しくは教えてくれないが、研究の成果だと言っていた。


僕は水鏡那由多。天才的な科学者の母を持つごく普通の高校生。

そして若くなった母は、僕と同い年位の見た目をしている。

顔は似ているから、並べば兄妹位には見えるかもしれないが、僕は出来れば母と歩きたくない。


「何故だ!学校は暫く休みの筈だ!なんせ私が死んだんだからな!」


ぐいっと胸を張る。

昔から変わらない母の決めポーズ。

遊園地に行きたいとぐずった僕のために、近所の公園にジェットコースターを作った時もこのポーズだった。

そんな無茶苦茶な母と一緒にいる時間は刺激的だ。

教わることも色々ある。

それでも、一緒には歩きたくない。


「理由を言え、理由を!原因が分からなければ、解決できないではないか!」


何せ5年振りに会ったのだ。

言わなくていい事を言って、気を悪くさせたくない。

それなら、黙秘で押し通した方がいいのではないか?


「そこまで黙秘をするなら私にも考えがあるぞ。強烈なリゼルグ酸ジエチルアミドを投与してでも本心を暴く!!」


なんだか穏やかじゃない。


「リゼ・・・?」

「通称LSD、強力な幻覚剤だ。」


母はぐいっと胸を張る。


ああ、アメリカドラマで見たことがある。

自白させる時使うヤバイお薬だ。

皆は理解できないかも知れないけど僕には分かる。

黙秘をつづけたらこの人は本当にやる。

目的を達成してから、我に帰るのが水鏡刹那なのだ。

僕は覚悟を決める。

本当はこんな事言いたくない。

でもドラッグを投与されるのはもっと嫌だ。


「だって母さん、ダサいんだもん。」


化粧は濃い癖に髪はボサボサ。

眼鏡は牛乳瓶みたいだ。

元が良いから、それぐらいならまだ許せる。

ただ呆れるほど服がダサいのだ。

ヒョウ柄のタイツに虎の顔がプリントされたセーター。

その上から広袖という、ちぐはぐさ。

家の中ならいい。

ここは母さんの家だ。

だが外は嫌だ。


「那由多のばかぁぁあああ!」

「まって母さん!出るならせめて着替えてーーー!」


玄関の扉が凄い音を立てて閉まる。

・・・大丈夫だろうか。

僕の記憶の中の母さんは常に白衣かスーツだったし、とても良く似合ってた。

そうなのだ。

見た目が幾ら若くても、中味は42歳なのだ。

半世紀近く生きているのだ。

父は早くに亡くなっているし、仕事ばっかりで外見に気を配る余裕がなかったのだ。

それでも。

それでもだ。

あの私服はない。




一時間もせず母は涙目で帰って来た。

オバさん連中にはヒソヒソ話をされ、中高生にはクスクス笑われ、警察官には苦笑され、極め付けは学校帰りの女子小学生に「うわ、ダサ」と言われたらしい。

母を馬鹿にされるのは腹が立つ。

だがこの問題から逃げようとした母に現実を突きつけてくれた地域の皆には感謝したい。

年寄り臭いと言われても、地域の輪は大事にするべきだと常々思っていて良かった。


「服のセンスが良くなる薬とか作ったら?」


怒っているのか恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしてお茶をがぶ飲みする母に助言してみる。

母は暫く考え込んで


「概念があやふや過ぎる。人の趣味は様々だ。万人が納得するセンスというものはない。」


と、否定された。

否定された事より、真面目に考えてる事の方が衝撃的ではあった。


「だが多数派の人間が好む服装なら、統計学から考えればわかりそうなものだな」


母さん。それはファッション誌という奴を見れば大体分かるものだよ。

と思ったが、口にはしなかった。

どのような結果になるのか気になったからだ。


そして母は二階奥の自室に籠もった。

久しぶりに会ったとはいえ、プライベートは大事にしたい。

その日のご飯は僕が作った。




そして翌日。

宅配便が届く。

母はウキウキしながら大きなダンボールを自室に運び、僕にはリビングで待つように指示をした。

これで僕達の問題は改善され、また少し暮らしやすくなる。

リビングと廊下を隔てるドアがノックされた。

僕のどうぞを待たずに、ドアが開き、見違えた母が姿をあらわす。

肩より少し長い髪は梳かしてあるが、化粧は相変わらず濃い。

眼鏡は相変わらず牛乳瓶の底だ。

だが問題はーー。


チェックのスカート。

グレーのカーディガン。

ブルーのワイシャツにストライプのネクタイ。

そして、紺のブレザー。


「ってそれ制服ーーーー‼︎」


僕は突っ込む。

母の趣味的にはゴスロリ辺りで来ると思っていたが予想の斜め上を行かれた。

母はキョトンとして


「ああ、これ、スクールユニフォームか。どおりでよく見る訳だ。私は私服の学校だったし、男が好きな服と書いてあったせいだ。

それにこれはアイドルが着ている服から着想を得たーーー」


と赤くなりながら釈明を始めた。

一息に釈明を済ますと、肩で息をしながら、


「もう一個あるぞ。」


とだけ言い、一旦廊下に出る。

暫くすると、こんどはノックなしで入ってきた。

可愛らしい、黒いレースのフリルがついたーー


「それ、ゴスロリーーー!!!」


その日、馬鹿と天才は紙一重という言葉を僕は身を持って知った。



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