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追求の果て

現代の日本を舞台にゆっくりまったり更新中です。

切りの良いところまで書いたらまとめてアップしますので、ゆっくりまったりお待ち下さい( ´ ▽ ` )ノ

果たして、無から有を作れるか?

答えはノーだ。

この世に無など存在しない。

一見何もない場所にも、目に見えない物質が存在するのだ。

宇宙空間にさえ無は存在しない。

発生と消滅が絶え間なく続き、何も無いように見えるだけだ。

そもそも宇宙を構成する物質のほとんどはわかっていない。

わからないからこそ解き明かそうとするのだ。


化学とは創り出す学問ではない。

見つけ出す学問なのだ。

赤と青しかない世界で、二つを混ぜ合わせ紫を発見する。

この作業こそが化学の本質なのだよ諸君。


では冒頭に戻るとしよう。

無から有を作る、という前提を、まだ見ぬ有を探す、に置き換えた所、非常に興味深い課題に突き当たった。

命の生成である。

ホムンクルスと呼ばれる人造生命体の概念が私の心を儂握りにしてしまった。


無性生殖に近い概念なのだろうか。

自然界には半分に切り裂くと両方再生し、二つに増える生命体がいる。

増殖、という奴だ。

それとも、人体の構成元素を集め、組み立てるのだろうか。


私は研究に没頭した。

家庭も顧みず、長年研究した結果、後者は失敗に終わった。

身体をまとめきる技術が確立出来なかったのだ。

なんど挑戦しても肉の塊しか作れ出せなかったが、それはそれで食料問題の解決に貢献できるかも知れない。


では前者はどうだったか。

結論から言えば見事に成功した。

方法は明記できない。

倫理に反する事もしているし、真似をされたら責任がとれぬ。

ただ、錬金術というのもあながち馬鹿に出来んとだけ言っておく。


さて、私の目の前2メートル四方の円柱の水槽、年の頃16~17位の人造生命体、ホムンクルスがいる。

人工呼吸器とチューブに繋がれ、ピンクの液に全身浸かっている。

この子の発生を確認し、保護し、成長を見守りもう5年になる。

たった5年でここまで成長した。

ふふふ、気分は地球だ。

初めはちっぽけだった細胞が見る見る分裂、進化をしやがて陸に上がる。

だが、この子はこの5年1度も目を覚ました事がない。

体に異常はないが、自発呼吸をしない。

ただ、存在するだけだ。生きていると言っていいのかも分からない。

ホムンクルスは外気に触れると溶けて死んでしまうとも聞く。

私は意味のない事をしてるのだろうか?

だが、この子の呼吸器をはずして存在を消すなど、考えただけでも胸が張り裂けそうになる。


もう、何年この研究室にこもっているのだろう?

息子の顔も随分みていない。

あの子は今、高校生くらいだろうか?

この実験が成功したら、我が家にこの子を連れて帰る気だった。

この何年間の苦難と挑戦を事細かに話し、いかに私が優秀で偉大かを語るつもりだったのに。

仕事と家庭の両立は難しい。


「ただ待つだけというのはつらいな。私に出来るのは、器械が示すお前のバイタルをチェックするだけ」


息子も、こんな気持ちなのだろうな。

最初は書いていた手紙も、最近は年に1度書くか書かないか。


ーー家に帰ろう。だれか、代役を用意して、一ヶ月・・いや、半年くらい、家族と暮らそう。


その時だった。

ホムンクルスの指先がピクリと動いたのを私は見た。

水槽に両手をつき、食い入る様に一点を見つめる。

確かに動いている!

私は計器の前に移動し、何の変化が起きているのか探そうとした。

だが、その前にポコリ、と空気を吐く音が聞こえ、ホムンクルスの顔に視線を移した。

瞼がゆっくりと開いた!

速くなる鼓動を抑えようと深呼吸をする。

だが・・・。

何かがおかしい。

ホムンクルスの目が虚ろなのだ。

意志の光も叡智の光も宿っていない。

これでは、人の形をした肉の塊ではないか!!

私は床に腰を下ろした。

世紀の天才と言われ、様々は反対を押し切って続けた研究の成果が肉人形とは。

やはり人の及ぶ領域ではないのか。

全身から力が抜ける。

そう言えばもう随分も寝ていない。

食事を摂って覚えもない。

水を最後にのんだのはいつだ?

わからない。

ああ、眠い。

取り敢えず、今は寝よう。

少し寝て、起きたら、食事をしながら息子に電話でもしよう。

だから、少しだけーー。


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