【風使い外伝】美山陽は夕日に笑わない(1)
《まえがき》
「風使いの僕は学園ライフをこうして満喫する」第3話以降に登場するヒロイン「美山 陽」の裏事情です。
これは、彼女の秘密の物語。
この、攻撃的と言ってもいいくらいに吊り上がった目が嫌い。
小さい頃から、この目のせいで誤解されてきたから。怒っていないのに気を遣われ、機嫌なんて悪くないのに避けられてきた。
酷かったのは中学校の時だ。生意気だという理由で、いじめとまではいかないまでも、ある女子のグループの攻撃の的となりクラスで孤立してしまった。この時の私は、ただ嵐が過ぎ去るのを待つしかなかった。
しかし、そんなことがあって、私はいつも笑顔を崩さないよう気をつけるようになった。高校に入ってからは、自分の中でも違和感がないくらいには笑顔が染み付いてきたと思う。
愛想笑いって疲れるかな……と思っていたこともあったけれど、こうしていると周りのコたちも笑顔で接してくれることが分かって、案外辛いものではなかった。
そんな私の側にいつでも居てくれたのは、親友の雪絵。
蕨野雪絵だった。
孤立していた中学の時だって彼女だけは何も変わらずただ側に居てくれた。そんな彼女の存在にどれだけ助けられただろう。
雪絵は、私とは対極のふわっとした可愛らしい雰囲気の女のコ。笑顔だって、私のような作りモノと違って頬の辺りから小さな光の粒が溢れるような、見ている者を幸せにする笑顔だ。
けれど柔らかな見た目とはウラハラに、芯の方はとても強くて、頑固。巻き込みたくなくて、憐れまれたくなくて――突き放した私の手を、それでもずっと握ってくれていた。本当に強い人間っていうのはこういうコの事を言うんだと思う。
ただ、そんな雪絵にも言っていない秘密が、私にはある。
私、美山陽は、水使いだ。
(【風使い外伝】美山 陽は夕日に笑わない(1) 終わり)