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主人と従者

美しき主人へ

作者:城崎あんこ
一目見た時の印象は、上品そうな人。実際、私とは境遇も違い、由緒正しき家系に生まれた彼だ。ふとした時に溢す微笑みで、何人の令嬢を落としてきたのだろうか。私も最初は、偽りの笑みであると知った上でも見惚れてしまったくらいである。花よ蝶よと育てられたであろう彼女たちなんかは、疑うことなく彼の虜になってしまうだろう。
だと言うのに。いや、だからこそと言うべきだろうか。彼は人として歩む道を踏み外していた。正しき場所で学んだ知識、鍛えられた腕、社会においての地位。その全てを、悪行の為に使っていたのである。
そんな彼に、私は拾われた。ありがたいことにそのまま、手放されることなく飼われている。その事には、感謝してもし切れない。
「ねぇ、マスター」
「黙れ、仕事中だ」
……こんなことを言われてもめげないのだ。私を拾ってくれるくらいの、優しさは備わっているはずだから。だから問題な
「お前を手放せば、その馬鹿らしい希望を捨てさせることが出来るのか」
大有りでした。そんなことをされたら、私は生きていける気がしません。
「やめてください。死んでしまいます」
言った途端どころか、言う途中にマスターの手から放たれ、飛んでくる羽ペン。油断していた私が避けられるはずもなく、それはおでこに直撃した。黒いインクと、赤い血が滴るのがよく分かる。
「痛いか?」
「特に何も」
仕事中だと、私の発言を遮ったのは何だったのだろう。すぐさま立ち上がり、白い包帯を私の傷口に巻いた。やけに手慣れた荒療治である。太かった包帯の巻かれたそれがもはや細くなっていることも、私達の日常を表しているようだ。
「痛みすら感じないお前が、死ぬだなんて言うな。吹き出しそうになる」
セリフのわりに、明らかに悪人面でこちらをバカにした笑みで見下す彼。
「マスターは吹き出したことあるんですか?」
「あるわけないだろう」
そうだろうと思って苦笑する。
「だが、何にせよ、お前みたいな珍しい奴を手放すわけにはいかない」
そう最後に溢して、治療を終えた彼は再び仕事に戻った。

町も人も、時間も動いているというのに、ここでただマスターを見ているだけの自分は、例えるなら愛玩動物のようだ。痛みを感じない動物なんて、研究者にでもいじくり回されるだけだろうと思ったが、自分の今の状況もさして変わらないので、本当に動物らしい。
それでも、マスターを見ている時間だけは、自分の境遇も特徴もマスターの厳しさも冷たさも忘れられる。その目はまだ、上品さを完全には失ってはいないのだ。確かに、目的も手段も、決して褒められるものではない。しかし、自らの理想に恋い焦がれ、追い求める姿は気高く、本当に美しいのである。
だから私は、彼の理想の叶う世界が、早く訪れることを願っている。彼の行いが正当化され、褒められればいいのに。そう思いながら、今はただ、その目を見つめる。



「いい加減目を覚ませ」
頭に軽い衝撃が走って、私は目を覚ました。どうやら、眠りについてしまっていたらしい。
「おはようございます」
「私は早めに行くぞ。お前は……せいぜい、被害が及ばないように遠くから眺めてろ」
その言葉で、今日が例の祭の日だったことを思い出す。いってらっしゃいと手を振り、彼を見送った。
立ち上がって伸びをする。そのまま扉を開けて、足を踏み出した。彼の活躍を、楽しみにしながら。

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