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蹂躙せし魔王の異世界譚  作者: 音無蓮
第一章 終焉と再臨
4/50

第4話 強面の剣豪

4話です。よろしくお願いします。

今回は、ロキの父親(つよい確信)が登場します。

なお、作者のストックはまだ足りているもよう。

 初春が過ぎてロキは、3歳になった。


 そういえば、まだ彼は、自分の父親というものを見たことが無かった。

 長時間労働者なのだろうか。

 お仕事お疲れ様です、と心の中で唱える。


 彼は、3歳になって、初めて母親、ミョズの職場に顔を出した。


 ミョズは、鍛冶師だった。


 家に併設した鍛冶場で他に3人ほどいる鍛冶師と共に仕事に明け暮れていた。

 因みに、週休二日制。週末に休みを取っている。善良な企業である。

 ミョズの職業が金属音の鳴る理由だったのか、とロキは理解した。

 しとどに流れる汗、暑い。


 しかし、毎日鍛冶場には訪れるようにした。


 剣の生成方法について学んでおいて、損はない。

 もしかしたら、たまたま作り上げた逸品の剣を譲り受けるかもしれないし。

 まあ、そんな上手い話、殆ど聞かないが。

 鍛冶師の子供なのだ――鍛冶の職を受け継ぐのも面白そうだ。


 将来設計を膨らませる、齢3歳のロキであった。







 時は光の如く進み、季節は夏真っ盛り。

 ロキは、自宅のリビングで、薄手の敷布団に寝そべっていた。


 レイヴァ―テイン家は平屋である。家の中心にリビングがあり、右へ行くと個室、左へ行けば、鍛冶場へと続いている。因みに、鍛冶場の出入り口は、この家の玄関と兼用だ。


 汗が止まらない。

 シャトーディーンの夏は、多湿である。


 故に、たとえ日陰でも暑さがしつこく纏わりついてくるのだ。

 不快、実に不快である。

 寝苦しいため、彼は掌で煽いで顔へと微風を送る。

 まあ、煽いだ空気も湿気を含んでいるため、効果は、殆ど見られなかったのだが。


 こうしてグダグダとしている間も鍛冶場から金属を打ち付ける音は続く。

 きっと、今頃、ミョズも鉄と鉄とを打ち付けているのだろう。

 まあ、あの小柄で華奢な身体で槌を打つ姿は想像し難いが……。


 出産とか、苦労したんだろうな――、と他人事のように想像する。

 だが、想像し難い光景だった。


(って、くだらない妄想をしている間も暑さは増していくな……)


 高温多湿の気候で、かつ、無風。

 熱を逃がすものが一切合財ない。

 じっとしていても、風は一向に吹きそうになかった。

 動けば、風は感じられる。……ただし、僅かだが。


 仕方がない、動かないで脱水症状になるよりは、風に当たるのが得策か。

 もしかすると、方角的な問題で風が当たらないだけかもしれないし。


 ロキは、寝そべっていた体を起こし、自由に歩けるようになった足で、一人家の中を散策することにした。







 まず、洗面所。

 リビングから鍛冶場へ向かう途中、木造建築の廊下を通る。

 洗面所は、ちょうど廊下の真ん中に作られていた。

 日差しは入り込んでいないため、リビングよりかは、涼しい。


 風が吹けば、完璧である。


 ロキは、ついでに顔を洗おうと洗面台に顔を突っ込んだ。

 彼の身長でギリギリ顔が洗えるような高さである。

 顔を突っ込むと、蛇口を捻る。

 即座に出てくるのは濁流の如く迸る水流。


「あばばばばば!!」


 どうやら、蛇口を捻りすぎたようだ。

 お蔭で、顔はもちろん、服にも水が流れた。


 ……涼しいから結果オーライ!


 あくまでも、ポジティブに考える。

 だが、水浸しにするとミョズの怒りの鉄槌が飛ぶかもしれないので、蛇口を閉め、その場を立ち去ることにした。

 小さい体躯は、何かと不自由である。

 

 廊下へと出ると、鍛冶場へと向かった。

 びしょ濡れの衣服を乾かすためだ。


 ロキは、麻の布でできた薄手の衣服を着ている。

 鍛冶場に行けば、短時間で濡れた服は乾くだろう。

 洗面所から鍛冶場まで約10秒。

 濡れたことで若干重くなった衣服でロキは向かう。


 鍛冶場へと差し掛かる。

 火炎による熱気が鼻孔に焼き付く感覚があった。

 背を屈めて、鍛冶場の横を通り、玄関と兼用の出入口へと近づいた。

 これなら、いち早く服が渇き、あわよくば、風にも当たれる。


 ロキは、鍛冶場の横、玄関の目前に据えつけられた長椅子に腰を下ろした。

 鍛冶師達は、作業に明け暮れていて、ロキの存在に気が付いていないようだった。

 唯一、ミョズは気が付いたようで、視線を送ったが、すぐに作業へと戻る。


 そして、再び、金属を打ち付ける音のみがその場に響き始めた。

 無言の集中。

 職人技は、容易いものではないだろう。


 確か、ミョズはこの鍛冶場を仕切っているとのことだった。

 ロキは、彼女へと視線を向ける。

 そして、


「ほぇぇ……!」


 気の抜けたような、驚嘆の声を漏らした。


 見れば、ミョズは槌を打ち付けていた。

 それも――彼女の身長を優に超すほどの大槌を振るっているのだ。

 驚かぬ人がいるだろうか。


 ロキは目を丸くして驚いていた。

 と、そんな時である。

 開けっ放しにしてあった玄関の向こうから人の影が映った。

 影の方へと振り返るロキ。

 そして、


 さらに目を見開くほどの驚きに遭遇した。


「お、大男……!!」


 彼の視界に映ったのは、野獣の如くそびえ立つ、大男だった。


 獣のような鋭い目つき。

 額に黒の帯を巻いている。

 右目を隠す程度の赤い髪。

 スラット伸びた体躯。

 着ているのは、下が袴、上着が小袖と下着。


 確か、聖術の祭祀契約式使用者に多いスタイルだ。


 また、小袖は脱いで、袴の後ろに垂れ下がっている。

 強面の男。

 目線に体が竦む。


(敵の――奇襲か!?)


 前世の記憶に頼ると物騒な考えが脳裏に過った。


 だが、ロキに戦う術はない。

 3歳児は、剣を振る筋力が付いていない。


 何も行動できず、固まっていると、

 強面の男が、ロキに向けて、――低い声で放った。


「怖がるな、ロキ。……オレがお前の父さんだ」


 赤髪の男の放ったいきなりの父親宣言。

 無論、即座に気が抜けてしまったロキは。


「ふぇええ?」


 ミョズとのファーストコンタクトと同じように気が抜けた疑問符が漏れてしまったのだった。

 そして、玄関に目線を映しただろうミョズが、手を止めて、赤神の男へと駆けていく。


「おかえりなさーい! ドールグさん!」の声と共に。


 ロキは、さらに驚きの呻きを上げようとしたが、寸前で堪えたのだった。







第4話 強面の剣豪







「そういえば、ロキは、ドールグパパを見るのが初めてだったよね」

 

 ミョズの問いにロキは、コクリ、と頷く。

 父親との初対面から、時は過ぎ、夕食の時間だ。

 赤髪の男は、ロキの父親ということだった。

 太陽はすでに地平線の向こうへと沈んでいた。

 食卓に並ぶのは、ミョズが腕によりをかけて作ったご馳走。

 円形の机を囲んでロキと、ミョズ、そしてドールグと呼ばれた赤髪の男が等間隔に並んだ。


「じゃあ、まず自己紹介からか。

 ……ドールグだ。オマエの父さんだぞ、ロキ」


 トーンの低い声で自己紹介をするドールグ。

 ――父さんだぞ、って言われても、全く現実味が湧かないものだなあ……。

 何せ、ロキが生まれた後、3年も家を留守にしていたのだ。

 ロキの物心はとうの昔についている。

 故に、無意識に父親と呼べる気がしない。

 さらに、この容姿である。

 3歳の彼にとって、半ば恐怖の存在だと言っても過言ではない。

 ともかく、前々から疑問に思っていたことを口に出してみる。


「あの……どうして、父さんは今まで、家に居なかったの……?」

「ん?」

「ヒッ……!」

  

 あまりの威圧に怯えの息が漏れてしまう。

 魔族でも、ドールグのような強面はいなかった。

 4人の勇者なんかもっての外である。

 彼らは、能力だけの存在だった。真に強い存在か、と言ったら恐らく違う。

 ――多分、ゴブリンなんかだったら、視線だけで殺してしまうのではないだろうか、この男は。

 実際のところ、目つきの鋭さは精神を断つ刃物に等しかった。

 元・魔王候補とて怖気づいてしまうのだ。


(まあ、鎖国下の魔界は、比較的温厚な魔族が多かったし……)


 要するに魔族全体が軟弱なメンタルに成り代わってしまったのだ。

 人間界を侵攻したときの魔族を見習うべきだな、と今更悟るロキ。


「何か、驚かせてしまったようだな……」

「仕方がないよ。ダンジョンに入れば、雑魚魔獣だったら目線だけで殺してしまうんだし」

 

 困ったような顔を見せたドールグにフォローの言葉をかけるミョズ。

 夫婦円満のところ邪魔してしまうが、ミョズさん、それ全然フォローになっていない。

 何? 視線で魔獣を殺す? ――比喩じゃないなら、ただの怪物じゃないか。

 毛が逆立つ錯覚を覚えたロキだが、そうじゃない、と我に返る。

 ダンジョンって……言っていたよな?

 確か、魔界のダンジョンは、洞窟を掘って作物や更には鉱物までもを育てるものだったな。

 農家ゴブリンたちの働きが功を成して、鎖国下でも自給自足の生活ができたのだ。

 だが、グラディエメイシアのダンジョンは、魔界のように穏便なものではないようだ。


(魔獣を殺すって……勿体ないし、何より物騒だな)


 魔界では魔獣が農産作業の手伝いをしているのだ。

 だが、人間界では殺してしまうらしい。物騒なことこの上ない。


「ねえ、ダンジョンって何……?」


 震えながらもロキは問う。

 返したのは、その道に詳しいであろうドールグだった。


「ダンジョンっていうのは、魔獣の根城だ。

言い換えるなら、グラディエメイシア各地に発生する迷宮だな。

地面から湧き出るように出没し、いつ、どこに発生するかを予測することは不可能。

ダンジョンを放置しておくと入り口から魔獣が群がって周囲へと拡散する」


 そして、と続ける。気持ちの悪い汗がロキのこめかみを垂れていく。

 ――一層低いトーンでドールグは告げた。

 怪談の語り口の如く、


「人々の、生活に被害を、及ぼすんだ……」


 ゴ、ゴ、ゴ……、という擬態語が相応しいような重厚感溢れる声であった。

 無論、その言葉の威圧感は、ロキを怯えさせるに相応しく、


「う、うう……」


 元・魔王候補、ドールグ。

 言霊の威力でへし折れたり。

 ブルブルと震え続けるロキに気が付き、ドールグは再び困った顔を見せた。


「そんなに怖いかな、オレ……」

「ひとまず、ドンマイだよ、ドールグパパ。

まだ先は長いから、いつか汚名返上できるよ」


 落ち込んだ様子のドールグの肩に、ミョズは、ポンと手を置く。

 それを合図として、話の続きをミョズが請け負う。


「で、ダンジョンからの魔獣放出を防ぐために世界各地にギルドが建てられた。

 ギルドっていうのは、ダンジョンを壊す集団ね。そして、ダンジョンを壊しに行く戦士を『ハンター』と呼んでいる。

 また、ダンジョンには耐久度があって、数値データ化される。そして、ダンジョン内の側壁に刻まれていくの。

 0から始まり100まで溜めるとダンジョン制圧が完了する。

ダンジョン制圧し1分後に制圧されたダンジョンは瓦解し地面へと潜っていくんだ」


 未だ、震えながらも説明は聞き逃さないロキ。ブンブンと頷き、話の催促をする。

 その仕草にミョズは微笑みを返し、続ける。


「そして、ドールグパパはギルドのリーダー――ギルドマスターをやっているの。

 なぜ、これまでロキがパパと会えなかったか。

 それは、ギルドの運営が忙しくて、毎日のようにパパが世界中を駆け巡っていたからだよ」

「お、お忙しいところ、ご、ご苦労様です」


 震える声で、思わず口に出す。

 流れがその台詞を呼んだのだ。

 と、その言葉に反応したのか、ドールグが動いた。

 ロキの頭上へ右手を伸ばす。

 すかさず、目を瞑った。

 体の震えが増したような気がしたが、恐怖心は杞憂だった。


「よしよし……あんがとな」


 その声は、若干の柔らかさを含んでいる。

 ゆっくりと瞳を開けると、自然な、薄らとした優しい笑みでドールグは、

 ――――ロキの頭を撫でていた。

 その行為で、ロキ自身、ドールグに対する恐怖心が和らぐのを感じていた。案外、きっかけさえ掴めれば、誰とでも打ち解けることができるのだ、と改めて感じるロキであった。


 





「で、話が終わったところで、ロキに一つ教えてやりたいことがある」

「……何、父さん?」


 夕食後、ドールグとロキは、食卓に残っていた。

 先程まであった数多の御馳走を全て平らげた後、ミョズは風呂へと向かっていた。

 そして、残るのは父子のみ。

 提案は、単純なものだった。


「オマエには、オレから剣を教えようと思っている」


 その提案に、ゴクリ、息を呑み、

 そして、即刻、ロキは頷く。

 何せ、ギルドマスターの元で修業ができるというのだ。

 恐らく、過酷なものだろうが、相応の技術を得ることができる。

 性根からして生真面目なロキにとって、その話は、御馳走と等しいものだった。


「決断が早いな、いいことだ。

 ……一応注意しておくが、修業は過酷なものだぞ。

 父親だからと言って、オレはオマエを甘やかさんぞ」

「――分かっているよ」


 ようやくドールグへの耐性が付いた所で、ロキは大袈裟に首を縦に振る。

 と、ドールグは、口元に僅かな笑みを浮かべて、朗々と宣告する。


「明日から、始めるぞ――地獄の剣技特訓を!」




4話、読了、誠にありがとうございます。

誤字、脱字、その他質問などなどありましたら、感想欄に書いて頂けると助かります。修正は、迅速に行います。

至らない点が多々あるので、批判してあげてください。喜びます。

NEXT……3/9 PM8:00

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