第27話 清楚系少女の提案
27話です。よろしくお願いします。
それは如何にも、唐突過ぎる要求だった。
――え、何故に生徒会?
「済まない……話が斜め45度ぶっ飛んでいると思うのだが」
「ええと……確かに事が早急すぎたかもしれませんわね。ご無礼許してくれて?」
口調からして、貴族感が滲み出ている。高貴な感じが清楚な外見には合っていない。貴き令嬢なるもの、もっとブランド品の装飾具を鎧のように着飾ってくるものだろう――そんな固定観念がロキに埋め込まれていたからかもしれないが、中身と外見の不釣り合いが際立っているのは事実去った。
「で、君は誰なのかな?」
ロキの後方、シグルーンに清楚少女がにこやかに答える。
「……再びのご無礼をすいません。わたくしは、クレオネラ・セロージュというものですわ」
清楚少女――クレオネラは、簡単な自己紹介の後「以後、お見知り置きを」と、両手で制服のスカートの端を摘み、お辞儀をしてみせた。礼儀まで家庭教師にとことん鍛えあげられたのだろう、雰囲気のお淑やかさからは、平民を侮辱するような心は見受けられなかった。
だが、そんなことは正直、至極どうでも良かった。
「で、俺を生徒会に入れたいって?」
「ええ。わたくしは、確かに、そう申し出ししましたわ」
軽く会釈をしてみせるクレオネラ。だが、ロキの疑問は晴れぬままである。
「何故、俺を?」
問いかけの後に間髪入れず、クレオネラは答える。
「貴方が適役だからです。何せ、格差社会の状態が悪い傾向にあるユグドラシルで貴族に歯向かう人間なんて少ないですわよ? だけど、貴方は迷いなく差別の現状に抗った――その正義感に惚れ込んで選んだのです」
「惚れ込んだって……そんな大層なことはしていない。俺はただ煩わしい奴らを粛清しただけだ」
「それなら尚更。貴方は無意識の内で人助けをできる人間。誇らしい人材なのです。生徒会大抜擢な人材なのですわ!」
ヒートアップするクレオネラさん。どうやら、俺には彼女の熱を冷ますことができないようだ。誰か魔導でも聖術でもいいから放水してくれ、彼女の頭に。
と、ロキが清楚少女さんの勢いに押されていると――、ちょうど背後から途轍もない怒号が飛ぶ。
「貴様あああああああああああああああああああ!! お兄ちゃんに惚れ込んだってぇぇぇぇぇぇ! わたしが許さん! わたしが許さん!」
「……待て、マリア。いつもの口調はどうした。気が動転しているぞ。お前の方が熱くなっているぞ。誰か放水の準備を」
「……って待って、お兄ちゃん! 冷静に放水しようとしないで! って、シグルーンくんも術式展開しないで!」
マリアの懸命な説得により、シグルーンは術式を破棄する。
ゼエゼエと荒い息を整える彼女を眺めていたクレオネラは、満面の――女神同然の微笑みを向けて、1つ提案をした。
「詳しい話は、時と場を改めてからにしませんこと? そうですわね……、今日の昼とかどうかしら?」
ちょうど、授業5分前の予鈴がなった。
第27話 清楚系少女の提案
聖術学院の食堂は、大聖堂に隣接している。大きさは、教室を横に5つ、縦に6つ並べた程だ。無論、全生徒分の席はない訳で、半分の生徒は教室で自前の弁当を机に並べている。
運良く席を取れた一行は、それぞれの料理を机上に並べると揃って席に着く。因みに、一行と言うのは、ロキから始まり、マリア、シグルーン、ヴァレオ、最後にクレオネラである。時は過ぎ、現在は昼休みである。昼食を食べるために生徒は学舎内を移動したり、しなかったりする。
「で、朝方の話の続きといきますわ」
その合図と共に、一斉に一同の視線が、ロキと対面しているクレオネラに飛ぶ。だが、表情を崩さず、彼女は本題へと切り出した。
「唐突にですが、わたくしは、次期生徒会長になりたいのですわ。そのために、ロキ様のお力が必要ですの。彼の正義心がわたくしの心内に響き渡りました――そして、直感的に思ったのです。この人をわたくしの生徒会に配属すれば、学院内での差別社会は忽ち崩落するのではないか、と」
「ふむ……、理由に関しては文句無しだと思うな。だが、早計過ぎないか? 確か、1年生なんかじゃ、生徒会長はおろか、生徒会役員立候補もままならないんじゃないか?」
ロキの疑問は在り来りなものだった。校則にこそ特記されていないが、歴代の生徒会長は、5年生が請け負っていた。役員にしても最低で3年生だと今日の授業――オリエンテーションで担任が述べていた。だが、
「――校則には、年齢によって生徒会長になれないという規則は存在しないはずだよ。まあ、腐りかけの伝統が生徒の感情を巧みに操作しているのだろうけれど」
ロキの右に座ったシグルーンが代弁する。その言葉に納得したように、彼は首を縦に振る。
「動機には、俺も同意したい部分がある。差別社会が凄惨だとは両親から聞いていたからな、どうせなら、そんな下らない身分社会を取り壊すのも俺にとっては利益を被るものだ」
煩わしい者共が減ってくれるならいいことだ。
「分かった……引き受けることにする。ただし、俺に重役を任せるのは勘弁してくれ」
「ええ。承諾致しましたわ」
かくして、ロキの近未来での生徒会入りはほぼ確定した。学院の生徒会制度は、重役――生徒会長、副会長、会計、書記以外は重役の指名制となっている。クレオネラの意思が変わらないか、そもそも彼女が生徒会重役の選挙で落選しない限り、その職に就く確率は、ほぼ10割だ。
不意にロキは、左で妙に前かがみの姿勢を取っている。彼女が睨みつけるのは他でもないクレオネラである。どうも、朝の一件が気に食わないらしい。恨み口を叩かれたら、さすがの清楚系女子さんもご立腹するだろうに。仏の顔も三度までだ。回数と度合いを弁えてお怒りになれ、妹よ。
まあ、このままじゃ埒が明かないので。
「……マリア、いい加減にしておけよ?」
「え? あ、ああ。いけない、いけない。あからさまに敵意丸出しにしちゃったよ」
静かな剣幕にマリアは狼狽えている。効果は絶大だった。
「生徒会に入るのは俺が決めたことだ――お前が攻め立てる必要はない」
「……対抗したいところだけど、どうせ聞かないだろうし、わたしは承認するよ。ただし、条件1つ、いいかな?」
「…………条件といいますと?」
目配せするマリアに懇切丁寧、表裏ない女神の微笑を持って応じるクレオネラ。
対し、妹分からの要級はただ1つ。
「わたしも生徒会に入れてくださ」「コイツの要求は破棄してくれブラコンはこうまでしないと黙らないんだてか黙れ馬鹿野郎」
慌てて口を塞ぎ、マリアの提言を無効化。ジト目の上目遣いでロキを睨むマリアだったが、そんなこと当の兄貴分が知る由もなかった。
――そして、第3者。
シグルーンは、何とも言えないように首を傾げ。
ヴァレオは、しどろもどろ尻尾を奇怪に振動させている。
クレオネラに関しては、慈悲の視線でその兄妹を眺めている。
その慈しみは、時に人を傷つける刃に成り得る。時と場に応じて使い分けましょう。
NEXT……4/5 PM10:00
少し時間が開きます。次あたりが連続投稿のラスト。




