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蹂躙せし魔王の異世界譚  作者: 音無蓮
第二章 学院騒乱
25/50

第25話 はたらく魔王さま!

25話です。よろしくお願いします。

 新学期2日目の朝は生憎、しとしとと降る春雨だった。


 雨音が目覚ましとなり、ロキは、瞼を持ち上げる。

 今日から本格的な学院生活が始まる。


 そういえば、昨日は――何故だろう、泣いてしまった。

 不意に、昔の、前世の情景が想起されたのだ。

 これは、ローザの意思が俺に直接干渉したからだろうか。


 確かにここ数年、夢に彼女が出てくることが無くなった。

 まさか、術が編めない程に弱体化してしまったのだろうか。

 邪知暴虐の傲慢な人間共に酷い――言葉で言い表せない程惨たらしい仕打ちを受けているのだろうか。


 ――だとしたら、黙っていられない。


 殺さなければならない。

 俺の征く道を邪魔するならば、殴り、蹴り、穿ち、貫き、薙ぎ、放つ。

 ありとあらゆる力を無差別に、行使する。たとえ残虐な殺戮だと非難されようが。


 当然の仕打ちなのだ――頭に血が昇りゆくのを感じ、すぐさま、感情の制止を図る。

 落ち着け、俺。ひたすら、心中で唱え続ける。


 すっかり意識が覚醒したロキは、緩慢とした動きで、半身をベッドから起こそうとする。

 だが、動作を差し押さえする温もりが1つ。


「マリアか……」


 別段、この行為は日常茶飯事なので然程驚かない。

 落ち着いて、絡みつく彼女の華奢な両腕を解き、毛布を取り払おうとする。

 毛布の両端を掴み、ブワサッ、と宙に広げる。


「起きろー、マリ……」


 が、そこで事件が起こった。

 毛布を取り払ったところまでは良かった。

 問題は、直後――勃発する。


「――ァァァァァァァァアアアアア!?」


 刹那の間もなく、ロキの絶叫が木霊する。


 着ていない――そう、着ていないのだ。


 何を、って、つまり、服を、だ。

 ロキの腰にしがみついたまま、生まれたての姿で、


 白磁の艶めいた肌を全方向にさらけ出して、

 成長期の微々たる膨らみを持った双丘を、ロキに押し付けて――ってどこ見てやがる。


「おい! マリア!」


 何してやがる! 動揺を隠せず顔が熱くなるのを感じながら、彼は絶叫を繰り返そうとした。

 ともかく、彼女を起こしたら強めのチョップでもしてやろうか。

 いや、それさえもコイツはご褒美として受け入れてしまいそうで怖い――と、無駄な思案に耽ろうとする。


 が、その思考は即座に遮断された。

 理由がただ1つ。


「うにゃむ……、お兄ちゃ、んは、わたし、が――守って、あげる、か、ら」


 たった1つの寝言だった。

 が、ロキの心には痛く響いた。


 ――俺のことを心配してくれている、そのことはありがたかった。


 それと同時に、悔しかった。

 もっと、強くありたかった。過去を思い出しては辛さから涙を流してしまう――そんな弱さを拭い切れない自分が腹立たしい。


「……ごめんな」


 俯き、ロキは心地良さそうに眠るマリアの髪を優しく撫でた。

 彼女はその腕を自然な動きで、握り返していた。わずかに引っ張られ、ロキは微笑した。

 まるで、シャトーディーン王国を去ったときのシーンを繰り返したようだ。


「マリア、朝だぞ。起きろ」

「うにゅ……、お兄ちゃ、ん。おはよ」

「おはよう。――とりあえず、服を着ようか」

「???」


 首を傾げたマリア、寝ぼけ眼である。

 ロキは、右手で自分の両眼を覆いながら、左手で彼女の身体を指す。

 目線が、身体――何も着ていない裸体へと向けられる。

 きょとんとしたような様相で一度目を擦って、もう一度自分の体に目を向けるマリア。

 その顔が、みるみるうちに紅潮していく。


「え、にゃ、にゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 朝っぱらからの怒涛の叫びが【ペリドット】棟内に響き渡った。

 苦情殺到だったのは言うまでもない。







 かくして、早朝の騒動については一旦終止符が打たれた。

 次に騒動を起こしたら、大家が黙っていないだろう自重します。

 ロキとマリア、そして途中で出会ったシグルーンとともに登校。

 クラスに到着。横開きの古き木造の扉を開けると既に10人以上の同級生が着席している。

 勉学に励む者や、談笑をする者など様々だ。

 種族についても人間は無論、獣人種、エルフ、リザードマンからノームまで揃っている。さすがは、公国の教育機関である。


「何だ、シグルーンも同じクラスだったのか」

「“何だ”って、ひどいなロキ君。リアクション薄いよ」

「だけど、シグルーンくんって剣技上手かったよね。このクラスになることは目に見えてたかも」


 Ⅹクラスは、聖術学院の校舎東棟1階、中央棟からの連絡経路の目の前にある。学院には、5年間通うこととなっている。故に、1から5年生の教室(それぞれ10クラス)が、中央棟、東棟、西棟、南棟に学年ごと集めて置かれている。

 東棟が1年生、西棟が2年生、南棟が3年生と4年生、そして中央棟に5年生の教室が並んでいる。


「で、最初の授業は何だったか……」

「オリエンテーションだね。……全く、しっかりしてくれよ、主席君」

「ああ、分かっているさ、成績3位君」

「主席次点のわたしを忘れてもらっては困るよ、きみ達!」

「「え? 主席次点(笑)」」

「何でわたしの時だけこの反応!? って(笑)って何!? (笑)って!!??」


 ガウガウ吼える子犬マリアさん、今日も忠犬任務(?)お疲れ様です、ロキとシグルーンは揃ってマリアの髪を撫でる。ぐぬぬ……、と如何にも腑に落ちないような感じで唸っていた。

 まあ、百聞は一見に如かずと言うだろう? アレの類だ。


「外見が馬鹿っぽくても、中身は素晴らしいんだよ、マリアさんは」

「うぅ……、シグルーンくん……」

「ただし、外見は馬鹿っぽいけどな!」

「お兄ちゃん、その一言余計だよっ!」


 ビシリバシリ、マリアの平手打ちが炸裂する。微妙に痛い。いや、かなり痛い。爪立てるな! 流血不可避! 流血不可避だから!

 彼女の反撃が終わった時には、ロキの頬が番犬に陵辱されたように蹂躙されていた。そうですね、外見子犬でも中身が獰猛な番犬(もはや野獣)であることだって無きにしもあらずだ。

 まさに、百聞は一見に如かず、である。

 と、駄弁っていたからか時の流れを忘れてしまっていたようだ。

 授業開始30分前を告げる――大聖堂に建てられたパイプオルガンの音色――が、学舎内に響き渡る。徐々に席が生徒で満たされていく。


「だけど、案外1クラスの人数が少ないんだね」

「そうだね、何せ学院側は1クラス20人の少数精鋭って謳い文句にしているほどだからね」

「謳い文句って……宣伝上手な商人じゃあるまいし……」


 だけど、教育商売ってこんな感じだよ、とシグルーンは付け足した。ロキは、苦笑いせずにいられなかった。学び舎もビジネスなのか……。

 クラスが集結してくると、場の空気が徐々に和んできた。

 雑多な会話が点々と始まっていく。

 だが、そんな中でロキは、1つだけ全くの別物を聞き分ける。


「おうおう、子犬クンよォ……、黙ってないで、なんか言ったらどうだァ?」

「…………」


 教室の片隅、窓際である。

 子犬の姿をした獣人族の少年が、リザードマン、大型犬の獣人種、そして人間の厳ついグループに絡まれていたのだ。

 子犬の少年は、全身をブルブル震わせ、涙目でもある。

 後ろからチョコンと飛び出た白い尻尾が一直線に伸びきっている。――警戒の証拠だろう。


「……? どうしたんだい、ロキ君」

「え、ああ。ちょっとあれが気になってな」


 そして、目線だけを教室の片隅に向ける。

 それだけでシグルーンは察したようだ、深く呆れたような溜息を吐いた。


「……この国じゃあ、よくあることだよ」

「差別ってこと、シグルーンくん?」


 ああ、とマリアの問いに即答するシグルーン。

 苦虫を噛み潰したように唇を噛み締めていた。


「――見てていいもんじゃないな。

 さて、騒動を沈めるか」


 周囲を見た感じ、いじめの現場を目撃した者は多い。だが、見て見ぬ振りをしている。

 保身のためには無駄事から目を離す――ありきたりな行動原理だ。

 だが、それは、力がないからだろう?

 精神的に、身体的に、知識的に。


 ――だったら、俺は問題ないな。自然とロキの頬が緩んだ。


 自然と彼の足は、教室の隅へと移動していた。

 いじめる少年共の背後に立った彼は――おおっぴらに、あからさまに周囲の注目になるような大声で。







第25話 はたらく魔王さま!







「おいおい――、見てて苦しいからやめてくれないか、卑下人間君」


 宣戦布告。

 勝率は、推定――五分五分。


 だが、彼の瞳は、獰猛に笑っていた。

 否――嘲笑っていた。





 正直なところ――――――――負ける気が起きないロキだった。

NEXT……4/5 PM8:00

まだまだぁ!

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