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蹂躙せし魔王の異世界譚  作者: 音無蓮
第一章 終焉と再臨
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第18話 継承と甘美と虚実

18話です。よろしくお願いします。

 『魔力色相の儀』――シャトーディーン王国に在住する15歳以下の少年少女が王宮にて王女直伝で受けることとなっている儀式。


 魔導の適正値を調べると共に、人間の体内に残る僅かな魔力を色で区分けし、向いている天職を与えるというものだ――ということを自室の本棚に積むに積まれた文献の数々から学んだ。


「なんで、その儀式を受けてから、じゃないといけないんだよ?」


 咄嗟に口が出る。

 だが、返す言葉は、常套句の面影を見せるようなものだった。


「この儀式で最重要となるのは、ずばり、天職の種類だ。

ロキ、魔力色相の儀で色分けされる職種について知っているか?」

「ああ。確か、赤が鍛冶師、黄が樵、緑が農民、青が漁師、黒が魔導師、そして、白で聖術師だったはずだったか」


 ご名答、というドールグの敬いの言表に、そりゃどうも、と素っ気無く返事を取るロキ。


 因みに、魔導師とは魔導に長けた者が集う、治安維持を生業とする職のことで、聖術士は聖術を得意とするものが参集する、医療職のことである。


「だが、オマエはまだ、完全には儀式で現れる職業について理解していないようだな」

「え? どういうことだ?」


 当然の疑問。齢13にして、部屋に置かれた文献は全て熟読したが故に、見落としがあったとは言い難いところがあった。懐疑心が募る、だが――、


「……恐らく、その特別な職業については、王国内での秘匿事項だったから、書籍に載せることは原則、禁じられているんだな。唯一例外として――とある絵本には、その職の名だけは書き込まれている」

「そして――、15歳になる前に、子供達は『ゼロ式魔導』の真髄について、この儀式で知ることとなるの。今、この場でその職業について説明するのは、できないけど、その職の名だけなら、答えられるし、ロキの場合は、事前に知っておく必要があるかもしれないからね」


 ドールグの説明にミョズが口を挟み、ロキは彼女の方向へと振り返る。


 ――特別な職。王国内にのみ伝わり、生業とする職業。


 それは、一体何か。

 目線だけで、ドールグと身近な遣り取りをし、公言の承認を得る。

 一息吐いて、ミョズは、緩やかな口の動きで答える。


「シャトーディーン王国に代々伝わる職。

 天職の中で、最上位に立つもの。

 その名は――継承者。ゼロ式魔導の継承者のことだよ」



 ゼロ式魔導の継承者――幼き日に反芻した言葉を思い出す。



 ああ。どこで聞いたかと思えば、「かみさまのあたえたもの」の最後のページに書いてあったものだ。昔、読んだときは継承者なんて伝説上の生き物なのだろう、と自己完結させていたのだが。


「――まさか、実在する職だったとは……」

「おいおい、伝説だ、なんて思っていたのかよ、ロキ」


 半ば呆れ顔を見せるドールグ。ロキは、頭髪を掻きながら、自らの痴態を誤魔化そうとした。だが、完璧に隠せるわけではなく、僅かな仕草を観察した後、ドールグの口からやれやれ……、と言わんばかりの盛大な吐息が放たれたのであった。


 ……ゼロ式魔導の継承者について、正直なところ。今日一番――否、13年あった人生の中で1、2を争う驚愕に目が点となるロイであった。因みに、度合いで言えば、シグルーンが女の子だと気付いた時くらいに、である。







第18話 継承と甘美と虚実







 翌日になり、いつものように剣技の研鑽を裏庭で行っていた。


 ドールグは、ギルド稼業が多忙らしく、最近は日夜働いているらしい。


 また、今日は、鍛冶場の仕事が少数だったので、マリアは早朝に手伝いを終わらせて、今はロキと剣を打ち合っている。


 鍔迫り合いに入り、睨みを効かせてロキは猛突進する。イメージはシグルーンとの初対面時。あの躍動はそうそう忘れられるわけではない。体と記憶が鮮明に記憶しているためか、突進の再現は容易だった。


 軽く、つま先で、前方へステップ。

 半歩前進したところで、前への力を左右に分散する。

 右斜め前へ、大股で踏み込む。

ロキはわざと、隙を作り――その隙に、構わずマリアが飛び込む。

 現状の問題で、剣一本で攻守を同時に成り立たせるのは不可能に等しい。

 目前のマリアは、小手先の器用な剣技を使える程達者ではない。


 ……むしろ、剣の振りにムラがある。――コンスタントに無駄無いフォームを形成できていない。


 だからこそ、自分から隙を作ってしまえば、以降の動きは容易なのだ。


「ハァァァァァァ!!」

「……! しまった!!」


 猛る叫びを上げるロキ。焦燥したマリアを一瞥。

 直後、踏み出した右足を軸に左回転。

 左足の先が弦と弧の整然とした半円を描くと同時に、マリアの後方へと躍り出たロキ。

 回転の遠心力で、振るわれる剣閃に、躊躇いは感じられない。

 焦げ茶の木剣がマリアを放逐するべく、唸りを上げる。


 だが、まだだ。


 隙のあったマリアの動きが切り替わる。

 ゆっくりと頭を動かす暇なぞ存在しない。

 故に、反射的にその動きは起こった。

 前を薙ぐために振り払われそうになった自らの木剣の軌道を、自分の裏へと修正。

 急激なブレーキは不要――流れるように力の向きを移動させる。

 前屈みになっていた体を起こさずに、右足の拇指球を支点として、腿を内に入れる。


 体勢を若干斜めに、後ろへと腰を回転させる。腕に、無駄な力を入れず、ただ、襲い来るロキの剣にマリアの剣を衝突させる。届くはずだった剣速が、マリアの真反対へと弾ける。その光景を横目で見て、彼女は小悪魔じみた笑いを見せる。


 勢いを相殺させることで、会心の一撃で喰らわれずに済んだ。

 ロキは、弾かれた反動で、2,3歩後退する。

 既に先程の速さは微塵も感じられない。


「……はは、中々強く、なったな、マリア」

「かはっ……、まだまだ、これからだ、よ!!」


 言い捨て、裏へ振り向くマリア。

 即座、攻守が切り替わる。

 先程とは打って変わって、無駄が少なくなったフォームでの突撃。


 轟音を上げ、マリアの剣閃がロキの頬を掠める。


 僅かな痛みに、歯を食いしばり耐える。

 背中を反った形で、千鳥足を取ると、ロキはバランスを維持した。

 双方、剣の腕の上昇速度は極めて異常なものだった。

 前世で技術を身につけていたということもあるが、何より、今世の身体がどうやら剣を振るうに適したモノだったらしい。


「よし……陽も真上に上がったし今日のところは終いにするか」

「うー、あと少しでお兄ちゃんを倒せるところだったのに……」

「惜しかったぞ、マリア。あともう少しで勝てるぞ」

「その言葉を聞くのは何回目なのかな、お兄ちゃん。さすがにこれまで全敗っていう結果には心が折れそうになるね」

「……人間、継続は力なりだぞ。意味ある負けなら、それは勝利への糧だ」 

 

 その言葉も今まで何度も聞いてきた、とジト目で返すマリアにロキは思わず苦笑してしまう。


 ――確かに、実力は付いているはずだが、抜け目が多いのが玉にきずか。


 マリアの剣技には、ムラがある、というのは戦闘から察することができるが、彼女の問題はそれだけではない。精神面に関してもタフではないし、基礎体力だってアンバランス――俊敏だが持久力は殆ど無い――だ。


 故に――やはりロキは思う。

 マリアを連れて、ユグドラシルに向かう、ということはあまりにも無謀だと。


 間合いを取って、剣を収める構えを取り、一礼。鍛錬の終わりにはいつもこの所作を忘れない。ドールグ曰く、共に戦った相手への敬意を示すらしい。


 その動作を終えて、静寂3秒。そして、彼らが時同じくして吐いた溜息が、鍛錬の緊迫した空気が一瞬にして溶かす。


「さて、飯だ、飯。にしても、腹が減ったな。マリア、今日の昼飯は何?」

「今日は、パン3切れにチーズを乗せた、簡単なチーズパンだよ」

「そのまんま過ぎる……。兎にも角にも、早く食べよう。今日は、俺も手伝うから」

「あれ、お兄ちゃん珍しい。いつもだったら、自分の部屋で(いかがわしい)本を読んでいるのに」

「何がいかがわしいだ。俺は勉強しているんだよ。だが、今日は特別だ。何せ、久々にミョズの鍛冶場が休みを取ったんだ。昼下がりには、中心街にでも出かけよう。

 ……っと、いけない。マリアってあの街を毛嫌いしていたんだよな?」

「ううん、心配ない。お兄ちゃんについていけば怖いものなしだから」

「かくいうお前も、今では充分過ぎる程、強いけどな」


 互いに謙遜ではなく本心で讃え合う。


 灼熱に燃える太陽が、彼らを照らしている。


 季節は初夏――そして、旅立ちは今年の夏の暮れを予定している。シャトーディーンからユグドラシルまで2つ季節を乗り越えるくらいに時間が掛かるとは、文献を参考にしたことだ。


 だから、二国間の距離と自分の進行速度から逆算し、かつ多く見積もった結果、夏の出発が一番適しているという結論が出た。


 ――だが、計画以前の問題がある。そう、マリアに気付かれてはならないのだ。


 子供の様態と化しているロキにとってみたら、自分を守ることで精一杯になる気がしてならない。


 いきなりな話だが、もしも、マリアを連れて行ったところで、何か途轍もない緊急の事態が発生したとしよう。


 ……ロキがその事態で彼女を失うことは、すなわち、前世でローザを守りきれずに消失したルキフェルと同罪ということになる。

家族を失う、ということはもう、こりごりだった。


 だから、彼は孤軍奮闘しなければならない。


 たとえ――ロキ自身が、どれだけ弱かったとしても。

 たとえ――眼前で笑顔を見せる少女がどれだけ強かったとしても。


 1人で戦うしか、道はないはずだ――と、心中で強調する。


 ふと。


「どうしたの? お兄ちゃん。なんだか、顔が青ざめているよ……」


 心配そうに上目遣いでこちらをまじまじと見つめるマリアに、一瞬、心が奪われそうになって、我に返る。旅路中、この少女に癒やしを求めたいのはやまやまだが、そんな自己欲求はただちに抑制する。そして、


「何でもないぞ」


 短く返し、優しく笑ってみせる。不安要素が取り除けた、と察知したのだろう、マリアもつられて微笑を返す。

 

 ――この笑顔は、護るべきものだ。


 だから、ロキ=レイヴァーテインは虚構という名の仮面を被る。


 決して、本心は伝えない。時には、嘘も人を幸せにすることがあるのだ。


 彼は、幸せのために甘い、甘い嘘を吐き続ける。


 決して、甘さの裏にある苦味を体感しようとせず、表層の甘美な理想を求めて虚言を吐く。


 ――――その代償を、払うべく方法を知らぬがまま。






 

 そして、7日が経つ。――魔力色相の儀、当日だ。ロキと、マリアを含めた数百、否、数千の子供達が王宮へと集う日は、案外早く訪れてしまったのだ。

NEXT……3/20 PM11:00(明日は更新できる確率が低いです)

追記 次話は2時間繰り上げ、PM9:00投稿です! よろしくお願いします。

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