第1話 魔王候補の禁忌詠唱
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第1話 魔王候補の禁忌詠唱
魔王城・謁見の間にて。
魔族の王なる魔王が倒された。
その鍛え上げられた肉体がバラバラに砕け散り、霧散していく。
その悲惨な事実を目の当たりにして、魔王候補の少年、ルキフェル=セラフィームはその場に立ち尽くした。彼の眼前で繰り広げられたのは、決して死闘ではない。――勇者による魔王の惨殺に過ぎないものだった。
我が王が殺されたのだ――たった4人の勇者によって。ルキフェルの瞳から正気が失われていく。
現在――魔界暦269年。
魔界フォーヴリッグは、存亡の危機に瀕していた。
剣士、パーシヴァルは、年若き青年。
賢者、エンデュミオンは、凛とした面持ちが特徴の少女。
歌姫、アストライアは、白金のドレスで魔界を駆けた絶世の美女。
護衛、オケアノスは、神童として生まれた絶対的な盾のような大男。
――この4人を総じて勇者と呼ぶ。
人間界の勇者は、凄まじい力を思う存分解き放ち魔界を侵攻した。
――人間の勇者か……強さは絶大だ。さすが、たった4人で魔界を侵攻してきただけある。
ルキフェルは、他愛もない考えを巡らせて、自分の頬に垂れていく一筋の汗、紛れもない冷や汗を感じていた。
勇者の力量は、魔族を圧倒している。
何せ、魔族は20000体もの兵で勇者4人に屈したのだ。
怪物、それは人外が持つ称号ではなく、真に持つのは、人知を越した人間なのかもしれない。
「さて、あと一体だ!」
『応!』
パーシヴァルが掛け声を放つと同時に、その裏に立った他の3人の勇者が身構えた。
オケアノスは、大槌を構え、
アストライアは、後方支援の魔方陣を展開し、
エンデュミオンは、攻撃系魔法を唱え始める。
そして。
パーシヴァルは、幾多の戦いにより血糊で汚れた両手剣を握り、上段に構えた。
目指すは一点、魔王候補のルキフェルへ。
――なぜ、このような事態になったんだろうか?
正直なところ、根本にある答えがルキフェルには分からなかった。
魔族と人間とが争う必要性は、どこにあるのだろうか。
それだけが心に突っかかる。
もともと、勇者が進軍する以前は、魔族なりに『平和』を尽くしてきた。
外界からの影響をシャットアウトし、
鎖国の状態で、多種多様な生物が、種族が仲睦まじく、諍いも少々あったが、それでも平和を尽くしてきた。
なぜ、魔族が平和を尽くすか。
その理由は至って簡単。
過去の過ちを繰り返さないためだ。
魔族は、遠い昔に人間界へ降りて、その世界を征服しようと企んだ。
結局、当時の魔王が暗殺されたことにより征服の計画は白紙に戻ったのだが。
その経験を糧にして、魔界では、こんな決まりができた。
《魔族は、鎖国を実行し、人間界との均衡を図るとともに、魔界での平和に尽くす》
これは、後の『魔界十条』という法となって今もその働きを成している。
いや。
成していた、と言った方が正しい。
現に、こうして人間と魔族が対峙しているのだから。
――もう、ここまで来たら全てが瓦解したようなものだな。
ギリリ、と奥歯を噛みしめて悲痛の表情を浮かべる。
悔しい……堪らなく悔しい。
何も、守れなかった。
魔族の兵士たち。
彼以外の9体の魔王候補。
先程死した現魔王。
そして、魔界。
ルキフェルは、10体存在する魔王候補中、1位の成績を残していた。
全てにおいて完璧才人――魔族世間からそう評されるほどである。
だが。
実際のところ、そんな数値に囚われず彼は、誰にも平等に接してきた。
魔族の平和を保つために大きな争い事は減らしたい所存であった。
争いというものは時代の変遷において最も重要な分岐点となる。
故に、今――このようにして人と魔族が対峙している。
それが争いなのだ。
――やめよう。こんな戦争は、なんて台詞は綺麗事だった。
話せばわかるわけではない。
話したところで通じないのだ。
それに、もう既に同志である魔族が大虐殺された。
勇者面々が知る由はなかろうが。
それでも――果敢に戦い命を落とした同志たちは、ルキフェルの心を、体を後押しする。
彼らのために戦わなければならない。
たとえ、我が身がどうなろうとも。
この裁きを勇者は受ける必要がある――。
「……許さない」
カラカラ枯れた声帯を震わして、ルキフェルは吐き出した。
だが、足りない。
渇望している。
戦わなければならない。
全ては、魔族のために。
だから、放つ。
「――魔族の仇ッ! ここで取るッッ!!」
腹の底、肺の奥底から溢れんばかりの怒声。
そう、彼は怒っている。
盛大に激怒した。
直後、空気が震撼する。
「殺してみせろ――このルキフェルがお前たちの相手だ」
直後。
『うおおおおおおおぉぉっっ!!』
4人の勇者が一斉に進軍する。
ルキフェルめがけて、
歌姫の後方支援により強化された、
剣士の剣戟が、
賢者の魔法が、
護衛の大槌が、
迫る、迫る、迫る。
「これこそ、俺の終わり方、なのかもしれないな」
だが、不思議なことにルキフェルには、勇者が襲い掛かってくる情景が、スローモーションで見えた。
動体視力による補正が利いたわけではない。
感覚的な話だ。
何事も一瞬に命が注がれるんだな。
だから、今、こうして危機が迫っているのに落ち着いていられるのだな。
もう既に、役割は決まっていた。
勇者の進軍を止められるただ一つの安全装置。
その役割を背負うのは紛れもないルキフェルだった。
彼は、もう決心した。
迷いなく、自らの身を滅ぼす――その覚悟が整った。
さあ――――――――、ここで終わらせよう。
直後、彼は言葉を紡ぎだす。
「天を仰げ、
地に従え、
織りなす魔術を心に刻め」
それは、魔術を発動するための『詠唱』。
詠唱が始まった瞬間、彼の周囲の気温が急激に低下を始めた。謁見の間を包み込む凍てついた空気。空間に含まれた水分が徐々に凝固していく。
1度目の詠唱――固有名にして【1の柱・ケテル】
それに気が付いたのだろう、勇者たちは一旦、歩みを止めて、距離を置こうとする。
だが。
(もう遅い……!)
こうしている間も、気温の低下は著しい。
空気までも凍る。
空気中の水分が、凝固する。
そして、勇者の足へと纏わりつき、身動きを封じる。
勇者の身体を差し押さえし、足の先から頭の頂点まで、氷結される。
だが――まだ、終わりではない。
「凍てつく魔女よ、
氷山に閉ざせ、
悪の権化を」
2度目の詠唱――固有名【2の柱・コクマー】
鋭く勇者を睨んだルキフェルから放たれたそれは、気温低下をさらに促進した。
勇者の足に絡んだ氷が面積を増していく。
足先から、ふくらはぎ、腿を伝って腰までを固い氷で覆い尽くす。
身動きが取れず、もがき苦しんでいる勇者の姿がそこにあった。
これは、裁きだ。
魔族の平穏を奪った重罪を償ってもらうための。
裁きだ。
「氷山の一角を、
大火で包め、
焦げろ、焦げろ――磔にされて」
そして、3度目、【3の柱・ビナー】を唱えた。
身動きの取れぬ勇者たちを包むのは、灼熱の業火。
磔刑にされた死刑囚の如く、である。
寒暖差により、瞬時に氷を溶かすも、怯んだ勇者に猛火を制止する手立てはない。
燃え盛る焔の中で足掻き苦しめ。
燻す煙は、黒に染まって勇者の姿を遮った。
たとえ、炎の中で逃げ延びても、煙からは逃げられまい。
ルキフェルは、次の詠唱を唱え始めようとした。
だが、その僅か前に前のめりとなって膝から地面へと転げ落ちた。
鼓動が荒れている。
視界が眩む。
頭痛によって思考が遮られる。
「う……、あ」
思わず吐かれたのは、呻き声。
直後。
盛大にルキフェルの口から溢れるのは、赤黒い血。
詠唱を使い過ぎたのかもしれない。
そもそも、詠唱は略語であり、正式名称は――禁忌詠唱という。
名の通り、禁忌の詠唱なのだ。
その力は絶大であり、かつて魔族が人間界を侵略する際に用いられた禁術でもある。
今では、使用を禁止されているのだが。
だが、その有り余った力には、1つだけ、大きな欠点が見受けられた。
(その弱点が、……使用した者の体細胞を蝕むこと。
そして。
使用限度を超えた場合、使用者は全盲となり死するということか)
額から噴き出る脂汗を右腕で拭いながら、今更な、魔族にとって、常識的な知識を思い出す。
禁忌詠唱を唱えることについての覚悟は、元からあったつもりだ。
しかし、未体験の苦行に歯を食いしばることしか彼にはできなかった。
しょせん、第1位だろうと、他の魔族と大差ない。
解りきっていた事実だ。
禁忌詠唱を3回唱えただけで体の負荷に抗えなくなる。
そんな自分が腹立たしい、1位ならそれなりのことができてよいはずだ。
せめて、守りたいものを懸命に守ろうとすることはできただろう。
そんなこと、誰でもできる――意志だけなら誰でも持つことができる。
だが、ルキフェルには、それができなかった。
10割できなかったとは言えないが、9割は確実に守れなかった。
次期魔王に一番近い位置にある男が情けない――と、内心で酷な自己評価をなすルキフェル。
だが、長々と後悔している暇は無さそうだった。
黒煙が舞い上がる謁見の間。魔王の死体が転がるその広間に煙は充満している。
(恐らく、長期戦は望めない)
憶測をつけたところで、彼は一つの物音を耳にした。
ヒュン、ヒュン。
何かが風を切る音だということは感覚的に理解できた。
恐らく――――剣で振り払う音。
その音は軽く、素早い。
日頃の鍛練での経験が今ある事実を証言する。
つまり、
「まだ、勇者は生きている、のか……?」
あり得ない。
確か、魔族が人間界へと軍を進めたときのことだが。
禁忌詠唱を1回でも唱えれば、人間を殺すことが可能だったらしい。
歴史書に書いてあったれっきとした史実である。
だが、現状は違った。
否――ただ単に『勇者だから、詠唱の3回でも効果が見受けられなかった』のかもしれない。
人知を超えた人間は、人間ではなく、怪物なのだ。
怪物が、禁忌詠唱、たかが口で紡いだ文字列に抗うことなぞ、造作もないように思えてくる。
もう既に勇者――剣の風切り音から察するに、剣士パーシヴァルとの距離は、目と鼻の先だった。
間合いに入っているのかもしれない――それだけは、忌避したい予想だ。
この状況で索敵され攻められたら、太刀打ちできるという確証が持てないのが、ルキフェルの現状である。
(この際、無理をしてでも最高クラスの詠唱を紡ぐべきか……?)
悩ましい問題である。
禁忌詠唱は、数字が低いものから高いものへ、10段階に分かれている。
【1の柱・ケテル】【2の柱・コクマー】は、氷の属性を、
【3の柱・ビナー】【4の柱・ケセド】は、炎の属性を司る。
【5の柱・ゲプラー】【6の柱・ティファレント】は、草木の属性。
【7の柱・ネツァク】【8の柱・ホド】で、雷の属性。
ここまでで、氷、炎、草木、雷の属性が揃う。
ここまでの8の禁忌詠唱は、最高クラスの属する2つの詠唱、
【9の柱・イエソド】【10の柱・マルクト】を唱えるときの負担を減らしてくれる。
この禁術は、1の柱から順序を踏んで詠唱することによって、体への負担を最小限に抑えることが可能となる。
だが――もし、最初から10の柱を詠唱したらどうなるか。
答えは、単純明快。
詠唱し、効果が表れた瞬間に体細胞が一斉に壊死するのだ。
つまり、自殺行為に過ぎないというわけである。
だが、この際、なりふりは構っていられないだろう。
そこまで思案に明け暮れる。
ふと。
一瞬だけ、広間に鋭い風が吹いた。
業! と猛る風の音を確かに耳にした後、
視界が晴れる。
恐らく、つい今しがたの風圧のよるものだろう。
だが、明瞭になるのは、決して、視界だけではなかった。
ルキフェルが見やる場所にいるのは、無傷の勇者だった。
払われた煙が恨めしい。
なぜ、このように絶望を明瞭にしたのか。
わけもなく無機物に腹立ってしまうルキフェルの姿がそこにあった。
「……ああ、クソ」
彼の口から自然に呟かれたのは、そんな短い言葉だった。
短い言葉だ。
だが、その言葉の裏にあるものは、表層の言葉とは大いに異なる。
勇者への憎しみ。
自分の無力への嘆き。
彼を押し潰さんばかりにのしかかる孤独感。
眼前に立つ勇者という名の怪物への率直な恐怖。
そして何より、悔しい。
魔族としての誇りが今、ルキフェルの手元で崩れようとしていた。
3回の禁忌詠唱の末、
無傷でその場に立っている、
あの4人が恨めしい。
堪らなく、悔しい。
だが。
結局のところ。
感情が、行動に直接影響するわけではない。
だからだろうか。
戦うべきなのに、口は開かない。
詠唱は紡がれない。
そんな窮地の魔王候補へ。
4人の勇者がゆっくりと迫る。
距離にして、残り大股10歩。
剣士パーシヴァルの間合いには既に入っていた。
ここで、下手な動きを取れば、その場でパーシヴァルに斬られて、
おしまいだ。
だが――本当に、このままで良いのだろうか。
震える口。動かない。
もどかしさが増していく。
(これで、いいわけ)
無いだろうが!
心の中、怯えている自分へとルキフェルは喝を入れた。
ここで終わってはならない。
魔界は、この先も永遠に続くべきなのだ。
だったら。
この身を魔族の命運に捧げよう。
だとしたら。
もう。
既に死ぬ用意はできている。
だから。
「魔を統べる王よ、
この身を捧げ、
力を請う」
直後、放ったのは、【9の柱・イエソド】
詠唱の効果は著しく表へ現れる。
ギシリ、という鈍い音とともに展開されたのは、鎖。
勇者の四肢に絡みつき、そして鎖の始点は地面に接着している。
再び、身動きを封じた。――今度は、確実に逃れることはできないという自負がルキファーの中に宿っていた。
それも、先程の氷結による捕縛よりも、数倍強固な鎖で、まるで今のルキフェルの決意を顕現したかのような代物であった。
その決意があるからこそ。
彼は、次の詠唱へと手を出す。
最後の一撃。
ルキフェルという個を生贄とする、
圧倒的な、切り札。
「我が身を捧げ、
その身を粉としよう。
――灰として、
散れ、
反逆者よッッ!」
魂の籠められた叫びで紡がれたのは、
――――――――決意の塊、【10の柱・マルクト】
瞬時に、勇者の四肢に絡ませた鎖から浸食を始める。
叫ぶ間など与えなかった。
悲鳴は無為。終焉は間近に迫っている。
魔王候補による最後の抗いは、一瞬にして決着がついた。
4人の勇者の体は既に浸食が終わり、
10の柱の餌食となったその体は、灰と化し、バサリと一斉に地面へと落下した。
魔王城・謁見の間。
そこにできたのは、4つに別れた灰の塊と、
惨たらしく散った魔王の死体であった。
そして、
魔王城に至るまで。
20000の魔族と、
9体の魔王候補が命を絶った。
これは、惨劇だ。
人間による大罪なのだ――……。
と。
もう限界のようだ。
詠唱を紡ぎ終えたルキフェルは、とうとうその場に崩れ落ちた。
意識が混濁する。
視界が霞んでいくのがわかった。
しかし、そんな状況下で。
彼めがけて走ってくる者がいた。
少女だった。
ルキフェルの見知る人物である。
歳は、彼と同じ。
艶めく紫の髪を結うことなく、腰丈まで伸ばしている。
箱の中で育てられたかと思わせるくらいに汚れない白磁の肌。
口紅を塗ったのだろうか、唇は鮮やかな赤色をしていた。
吸い込まれそうな、大きく、黒に染まった両の瞳からは、溢れんばかりの涙がこぼれて、謁見の間の荒らされた地面を濡らす。
涙がルキフェルの頬に跳ね、ルキフェルの意識が再覚醒する。
「だ、いじょうぶか……ローザ?」
「大丈夫も何も! ルキフェルのほうが心配だよ!」
焦燥しきった口調で涙を流す少女、ローザは明らかに狼狽していた。
ちなみに、ローザという少女は、ルキフェルの愛人である。
それゆえ、の心配なのだろう。
だが、その涙もルキフェルにとっては、守るべきものだった。
魔族を守る。
その中でも特に優先すべきは、愛する者だ。
だから、今。
この時点でその望みは果たされた。
だが。
「ガバッ、ゴボッ!」
「……! 大丈夫!?」
安心とともに彼は咳きこむ。
勢いで、吐血がさらに増す。
もうそろそろ、意識がなくなるかもしれないな。
うすうす、彼は気付き始めていた。
だから、最後に言わねば。
我儘かもしれないが、
言わねばならないことがあった。
それが、ルキフェルの唯一やり残したことだ。
「ローザ……!」
「ど、どうしたの、ルキ」
ルキ、というのは、彼、ルキフェルのあだ名だ。
とはいっても、ローザしかその言葉は使わないのだが。
だが、今日でそう呼ばれる日は最後なのだ、と彼は改めて悟った。
「いきなりだけど、いいか……?」
「――うん、いいよ」
呼吸を整える。
言い残したことを、彼女へと伝える。
「今まで、迷惑掛けてごめんな」
「う……ん」
「そんな俺を支えてくれてありがとう、な、ローザ」
「う、ん……って待ってよ! ルキ! 死なないで!」
少女の声は、明らかな悲痛。
その気持ちは、痛いほど彼の心を締め付けた。
「俺、だっ、て離れたくないさ」
「だったら一緒にいてよ! また、わたしの横で笑って見せてよ!」
泣きじゃくる少女。
その光景を直視するのは苦しい。
「だけど、これが定めなんだ……。禁忌詠唱を唱えた代償をはら、うだけだ」
「払うって……死ぬんでしょ!?」
「――いや。もう一度ローザと巡り合うんだ」
「……え?」
俺らはいずれ再会できるだろう。
死後の世界というものが、幻想の類か否かは知らぬが、愛し合った者達は再び同じ時を刻むべく別の世界で再び顔を合わせるのだろう。
もう、ここまで言えたから、いい。
そろそろ、視界が再び霞んできた。
ローザが遠ざかっていく。
死ぬんだな。
そんなことは目に見えていた。
だから、彼女に伝えるのだ。
今までの――全てを。
「ローザ、ずっとお前を愛していた――――……」
そして、意識の糸は途絶える。
魔王候補、ルキフェル=セラフィームは禁忌詠唱に蝕まれて、その生涯にピリオドを打った。
魔族の危機を救い。
再び平和をもたらした魔王候補は、魔族にとって英雄そのものであった。
しかし、彼の中では、まだ遂げられていないことがあった。
愛人に今までの気持ちを伝えることは、できたが、一つ、彼がその生涯で果たせなかったことがある。
それは、愛人を生涯守り抜くことだった。
死へと近づく彼の想いはただ一つ。
「ローザをあの世界で生涯、幸せにしたかった」
それだけに強い執着を持ったまま、
彼、ルキフェルの命は深い闇へと飲み込まれていった。
……そのはずだった。
1話、読んでいただきありがとうございます。
誤字、脱字、その他質問などなどありましたら、感想欄に書いて頂けると助かります。修正は、迅速に行います。
至らない点が多々あるので、批判してあげてください。喜びます。
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