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長期休暇で魔境制覇  作者: 篠原 皐月
第一章 聖騎士の義務
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(3)ディルとしての任務

「それで、お前には俺の挙式と披露宴に出席した後、そのままリスベラントでディルとしての任務を果たして貰う事になった」

「何? その『ディルとしての任務』って?」

 途端にきな臭い物を感じた藍里が警戒しながら問い返すと、界琉が淡々と詳細について語って聞かせる。


「聖騎士位保持者は年に一度、それぞれの騎士位に応じて、公爵から与えられた任務をこなす必要があると、前に説明していた筈だが?」

「……そんな事、言ってたっけ?」

 かなりあやふやな記憶に藍里が渋面になったが、界琉は淡々と話を続けた。


「言ったと思うが? 因みに俺も悠理も、今年分は済ませている。お前の今年分の任務は、リスベラント辺境域での魔獣退治、及び消滅と決定した。公爵閣下の裁可も下りている。そういう事だから、頑張って行って来い」

 寝耳に水な内容に加え、穏やかとは言えない単語を耳にして、藍里は瞬時に顔色を変えた。


「はぁ? 魔獣って何!? それに辺境ってどういう事?」

 しかし界琉は妹の疑問を無視して、驚愕しているルーカスに向かって、彼の動揺を飛躍的に増加させる台詞を口にした。

「ああ因みに、今の件は、殿下の任務にもなっています。二人で協力して、任務達成目指して頑張って下さい」

「何だと!! そんな話は初耳だぞ!?」

 思わずソファーから腰を浮かせて声を荒げたルーカスだったが、界琉は平然と話を続けた。


「私が二人に知らせる役目を承りましたから。そういう訳だから藍里。てこずると夏休み中に任務が完了しない恐れもある。休み明けに長期欠席などにならない様に、気合いを入れて精々頑張れ」

 そんな激励とは言えない兄の台詞を聞いて、藍里はローテーブルを力任せに拳で叩きながら抗議した。


「何とんでもない事、サラッと言ってくれちゃってんのよ!! 私、受験生なのよ、受験生!! 夏期講習だって申し込んでるのに!」

 しかしその叫びを聞いた万里が、思い出した様に口を挟んでくる。

「あ、藍里には言って無かったけど、それは私がキャンセルしておいたわ。夏休みに合わせて任務が来ると思ってたから」

 事後承諾にも程がある話を聞いて、ルーカスは唖然となったが、当事者の藍里は怒りで顔を紅潮させた。


「お母さん!? 本人に無断で、何勝手な事してるのよ!!」

「だってお金が勿体ないじゃない」

「そうじゃなくて、私の意志は!?」

 しかし娘からの激しい抗議にも動じる事なく、万里が真面目くさった表情と口調で言い聞かせる。


「藍里。特権を保持するなら、それに付随する義務を果たすのは当然よ」

「冗談でしょ!? ディルなんか要らないわよ! 叩き返してやるわっ!!」

 それは藍里の本心からの叫びだったのだが、生粋のリスベラント人であるルーカスにしてみれば、とても看過できない内容だった。


「お前! ディル位が不要とでも言う気か!? それを心の底から欲している人間が、リスベラントにはどれだけ居ると」

「要らないってはっきり言ったわよ! 他の人間の意向なんか、知った事じゃ無いわねっ!!」

「貴様!! その不遜な物言いを何とかしろ!!」

「不遜なのはあんたの方でしょっ!!」

 盛大にぎゃいぎゃいいがみ合い始めた二人を見て、彼らの向かい側に座っている界琉は、思わず皮肉めいた呟きを漏らした。


「……相変わらず仲が悪そうで、何よりだな」

 その呟きに、横に座っている万里が息子の耳元に顔を寄せ、二人には分からない程度の小声で囁く。

「そうそう丸め込まれる心配は無さそうだって? 兄としては、別な心配もして欲しいものね。私達は暫く、手出しできない所に居るし」

「大丈夫だ。本当の意味で、我が家で一番強いのは藍里だ。それは俺達を産んだ母さんが、一番分かっている事だろう?」

「…………」

 落ち着き払った表情と声音で語られた内容に、万里は無言で小さく首を振った。それに苦笑しながら、いがみ合っている二人に構わず、界琉が腰を上げる。


「詳細はジーク達から聞いてくれ。本国からの指令を受けて、そろそろ来る頃だろう」

「ちょっと界琉」

 それに藍里が何か言い掛けた時、玄関のドアチャイムが鳴り響いて、来客を知らせてきた。


「ああ、ちょうど来たな。じゃあ俺はアルデインに戻る。二十分後に午後一番で会議があるんだ」

「本当に非常識な台詞よね。本来日本とアルデインって、飛行機を乗り継いで二十時間の距離なのよ?」

 さらりと界琉が口にした内容に藍里も呆れ気味の口調で立ち上がり、兄を見送りながらやって来た人物を出迎える為に、一緒に玄関へと向かった。そして靴を履いた界琉が玄関のドアを開けると、外に立っている人物と真正面から顔を合わせる事になった。


「お邪魔しま……」

「やあ、ジーク。久しぶり。俺は今から帰るから、遠慮しないで話をしてくれて構わないぞ?」

「別に、遠慮という事は」

 一時期、来住家で一緒に暮らしていたという割には、相変わらず微妙な空気を漂わせている二人を見て、藍里は(そういえば、未だにこの変な感じの理由を吐かせて無かったわね)と思い至り、無言で眉根を寄せた。


「じゃあな、藍里。式の時に会おう」

 どこまでも気ままで、相手の事を考えない様に見える兄を、藍里は手を振って追い払う素振りをしながら言葉を返す。

「それまで顔を見たくないわね。最近界瑠が来る時って、ろくな話を持ってこないんだから」

「兄に向かって、何て言い草だ」

 そんな藍里の言葉に傷付くどころか、おかしそうに笑いながら、界琉は庭の片隅の物置から、リスベラント日本支社を経由してアルデインへと戻って行った。

 

「皆さん、取り敢えず上がって下さい」

 溜め息を吐いて藍里が促した為、相も変わらず藍里の護衛兼、ルーカスの世話役として密かに周囲に待機しているジーク、ウィル、セレナの三人は、恐縮気味に挨拶をして、来住家に上がり込んだ。


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