第3話 悪魔に関わるな~はじまり はじまり~3
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桜の木は紅葉に負けじと赤色に染まっている。
『そんなことないだろ』
ある学者が声を上げて話している。
『その文明があった証拠はなんだ!』
『証拠はこれですよ。私が宇宙人とメールした内容です』
テレビで放送している番組は、緊迫した空気になったかと思いきや、一転、和やかな雰囲気に包まれた。
「へー、まさ、宇宙人からのメールだって」
栗原はテレビにくぎ付けになっている。
「そんなことないだろ」
日向はさっき聞いた学者の発言を真似した。
「あー、でも、一度は見てみたいな」
「メール?」
「違う違う。未確認生物たち」
「なんで?」
「テレビでやっているのってさ、大体が作り物だったり、誰かがイメージしたCGだったりするじゃん。一度だけでいいから、自分の目で確認したいんだよ」
「怖いものほど見たくなる!」栗原はガッツポーズをして言った。「みたいな?」
「それに、近いな」
日向はそう言ったが、果たしてそうなのか、分からなかった。
ただ、イメージが作られているってことは、きっと、誰かが本物を見たから、そのイメージが作られるようになったんじゃないか。
逆に言うと、イメージがあるってことは本物がいるってことになるのでは。
と言うか、本物を見たからイメージがあるってなると、もう確認済みではないか。
「ねえ、どうしたの?」考え込む日向が心配になったのか、栗原が尋ねた。
「大丈夫?痛いとこでもあるの?」
「ああ、ちょっと頭が…」
日向は考え過ぎて、頭が痛くなっていた。
「痛いの痛いの飛んでけー」
栗原は日向の頭をさすって、どこかに飛ばした。気が付くと、日向の頭痛は消えていた。
ある日、日向と栗原はペットショップの前にいた。
「ねえ、チワワの子供だって。可愛いね」
栗原は目を輝かせている。ケージの中から、チワワは二人を覗いている。
「ああ、そうだね」
ぎこちなく返事をした。チワワも可愛いが、栗原も可愛いからだ。
日向の視線に気が付いた栗原は「どうしたの?」と首をかしげる。
「いや、別に…」
日向は頭を掻きながら返事をした。「君に見惚れていた」なんて、キザっぽい返事はできない。
しかし、栗原はうすうす気づいていた。時折感じる日向の視線。
元々、わたしは積極的な方じゃないから…。でも、まさの前では積極的に行動できる。それは何故か…。
日向真和のことが好きだから。
だけど、栗原もまた一歩を踏み出せないでいた。
「キャン、キャン!」
チワワが吠えた。
「キャン、キャン言ってるー。かわいー」と、栗原がはしゃいだ。
「お前ら、さっさと付き合え!さもなくば、俺を飼え!」
日向はそう言っているように聞こえた。きっと、自分の中の自分も…。
「キャン、キャン!」
チワワが吠えた。
「告白もまだなんだろ!」
「そうだ」
「だったら、今すぐ言え!」
「そうしたいが、今は無理だ」
「この、意気地なし!」
日向はチワワと会話しているつもりだった。実際には、自分の中とのやり取りだ。
「この、意気地なし!」
チワワの鳴き声で、決心するのはいかがなものか。そう思いつつも、日向は一歩踏み出すことにした。一つの勇気が芽生えた。
「一歩先の世界がいいところでありますように」日向は何故か、心の中でそうつぶやいた。
「そろそろ、行こうか」
「うん。どこ行くの?」
「とりあえず、公園の方かな」
二人は公園を目指して歩き出す。
「キャン、キャン!」
チワワが吠えた。
日向には、その鳴き声が「頑張れよ!」とも「俺を置いていくなよ!」とも聞こえた。
数日後の夜。栗原は仕事帰りに、公園で日向の姿を見つけた。ベンチに座りながら日向は空を見上げている。
星でも見ているのか。栗原は気になって、日向の方に近づいた。
「何やってるの?」
後ろからやってきた栗原に、日向は驚いた。
「いや、特に理由はない」
本当は違った。日向がワケあってここにいる。
チワワが言った「この、意気地なし!」が、ずっと、日向の胸に刺さっていた。
胸に刺さった言葉から勇気が芽生えたのはあの時だ。
「本当はわたしを待ってたんでしょ」
「別に…」
なんだか、日向の可愛らしい一面が見れた気がする。滅多にないことなので、栗原は嬉しい気持ちでいっぱいになった。
「ここ、座っていい?」
栗原は日向の隣に座って、一緒になって空を見上げた。
「少し寒いね」
栗原は自分の肩を抱いて言った。
「そうか」
日向は自分の上着を脱いで、栗原の肩にかけた。
「優しいね。ありがとう」
「別に…」
前にも、こうして肩にかけてくれたね。栗原は心の中でつぶやいた。
こういうところが好きなんだよ。と。
栗原は密かに無言の間を楽しんでいた。同時に、日向の上着の匂いも楽しんでいた。
「あのさ」
日向の突然の発言に、栗原は驚いた。
「あの…おれ……僕と…」
日向が言葉につまっている。栗原は何のことかすぐに分かった。心拍数が無意識のうちに上昇している。
「つ…付き合ってくれませんか?」
ずっと、待ちわびていた言葉だった。日向が空を見ながら言ったのは、照れ隠しだということも栗原は分かっていた。
だんだんと、顔が熱くなるのが分かった。上着のせいじゃない。告白のせいだ。
栗原はうつむいて、小さな声で「うん」とうなずいた。
栗原の頬は紅葉に負けじと赤色に染まっている。
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