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第3話 悪魔に関わるな~はじまり はじまり~

桜の木は堂々とピンク色の花を咲かせている。


「でさ、それまですべてが夢だったんだよ」

轟沢が声を上げて話している。

「友人の考えていること全部丸わかり」

「嘘だあ」

左隣の席に座っている山田が苦笑いをしながら答えている。

「なあ、どう思うよ」

轟沢は山田の前に座っている知的風な女の子に話を振った。

が、無視をされた。

「しかし、あいつは遅いな」と、轟沢は腕を組んでお店の入り口の方を向いた。無視をされたのが恥ずかしかった。


合コン第一次会場のレストランには女性陣三人揃っているのに対して男性陣はまだ二人しか揃っていない。

「ちょっと、そっち遅くなーい」

轟沢の前に座るよく分からないやつが口を尖らせて言った。

「かわいこぶってんじゃねーよ」と、轟沢は腕を組んで心の中でつぶやいた。

「遅れてすまない」

汗だくになりながら登場したのは、男性陣最後の一人、日向だった。

「すまないじゃねーよ。何分遅れたと思ってるんだよ!」

轟沢は指を指して声を上げた。

「え?」日向は時計を確認して「3分くらい?」と答えたが、轟沢は聞かなかった。

「大体なあ、お前は5分前行動とか習わなかったのかよ」

「あ、俺の席ここ?」

日向は山田の左隣の席に座った。

「聞いてるのかよ!」


「とりあえず全員揃ったし、自己紹介でも始めますか。私は、文学部の山田洋介です。よろしく」

拍手をしながら、知的風な女の子が目を輝かせていた。それに気が付いた轟沢は少しムカついた。

「一郎は一郎でも、政治のことは一切知らない一郎!轟沢一郎です。二十一歳、独身です。よろしく!」

轟沢の顔が赤くなる。スベった。日向だけ爆笑した。

「そんなに笑うな!」

轟沢の顔は熟れたリンゴのように真っ赤だ。

「ごめん、ごめん。ウケないのがウケたから」

「いいから、次はお前の番だぞ」

轟沢の顔は未だに赤い。

「はいはい。えっと…」申し訳なさそうに日向は頭を掻いた。

「本当はここにいるの俺じゃないんだ。代理っていうのかな。日向です。日向真和です」

拍手をしながら、日向の前に座っている女の子が目を輝かせていた。それに気が付いた轟沢は少しムカついた。


女性陣の紹介も残すところ一人となった。

「えっとお…。わたしも代理です」

日向の前に座る女の子が頭を下げた。垂れた髪の毛がコップに入りそうになった。

「栗原桃って言います。お願いします」

また頭を下げる。髪の毛が垂れた。コップに入らないかと心配した日向が、コップをどかした。


「乾杯!」「かんぱーい」と共に、みんなでグラスを鳴らした。

それぞれが会話を始める。

「おい、文学山田!席を替われ!チェンジだ!」

酔っているのか、いないのか分からない轟沢が叫ぶ。

「文学山田ってなんだよ」

山田は轟沢の申し出を拒否し、知的風な女の子との会話を続けた。

日向は「あ、俺たち代理は、代理同士仲良くやっているから」と、最初から聞き入れない方針だ。

「ねぇ、この後どうするぅ?」

よく分からないやつが、色っぽい声で轟沢に話しかける。

「抜け駆けしなぁい?」

「うるせぇ。お前は黙れ」と、言うのを堪えた轟沢は柔軟に対応しようと試みた。

「そ…そうだな…。様子を見てからにスルカ」


「わたしは、新人OLみたいな?入社したばかりなんだけどね。日向君は大学3年だよね?」

「ああ、そうだね」

「すごいなー。尊敬しちゃうなー」

「いや、そんなことないよ」

日向は可愛らしい態度の栗原に惚れそうになる。と言うか惚れた。

あとは、この態度が素なのかそうでないのかだ…。少なくとも轟沢の前に座る女の子は素ではないのは分かっている。

「住んでる家ってこの辺?」

日向は栗原に尋ねた。

「今は、会社の寮なんだよ。でもね、半年くらいしたら追い出されるの」

「えっ、追い出される?」

「そう。なんかその辺のシステムがよく分からなくてねぇ。ちょっと、可笑しいよね」

アハハと笑う栗原につられて、日向も笑った。


それなりに時間が経ち、いい具合に酔いが回ったころ。

「じゃあ、そろそろお開きにしましょうか」山田がそう言って立ち上がる。

「会計は男性陣で払いますから」

「え?」

日向は驚いた。

「はあ?ちゃんと言っただろ」と、轟沢は言うが「言っていない」と、日向は答えた。

「じゃあ、ここは間を取って、文学山岡が払うってことで」

轟沢はふざけて言う。

「何の間だよ!山岡って誰だよ!」

山田は轟沢にツッコミを入れた。

このやり取りを見ていた栗原が無邪気に笑っている。のを見ていた日向は可愛いなと思った。

「お、旧千円札。どうしたんだよ、それ」

轟沢は日向の出した千円札に目を光らせる。

「あ、これ?たまたま手に入ったんだよ」

「夏目漱石かあ。懐かしいな」

「へー、夏目漱石か。なあ、夏目漱石の言葉知ってるか?」

二人とも山田の方を見た。山田は人差し指を突き出している。

これから、放たれる言葉が大事なものに感じた。日向の方が。

山田は一つ咳払いをして始める。


『あなたが今蒔く種はやがて、あなたの未来となって現れる』


山田のドヤ顔に目もくれず、体に何かが走る感じがした。日向の方が。少し鳥肌が立っている。

轟沢は本当にそう思っているのか、いい言葉だと手を叩く。

「いいよ。いい言葉だよ、文学鈴木。さすが文学部だ」

「誰だよ!山も何も無いじゃんか!」


会計を済ませた男性陣がお店を出ると、女性陣が横一列に並んでいた。並び順はさっきの席と同じだ。

「この後どうする?」

轟沢はみんなに聞いた。

「俺たちは二人で呑むよ」と、山田と知的風な女の子が言った。

「俺たちは元々代理だし」と、日向と栗原が言った。

残った轟沢とよく分からないやつが、合コン第二次会場のカラオケに行くことになった。らしい。

「いいのかな。途中で抜けちゃった形になったけど…」

栗原は日向に尋ねた。

「大丈夫だよ。気にすることないって」

「そっかあ」

夜道は暗いはずなのに、日向は栗原の周りだけ明るく見えた。

「帰り道はこっちなの?」

「うん。一緒だね」


日向は近くの公園に行こうと、栗原を連れていった。いやらしい目的ではなく、ただ話がしたかっただけだ。栗原も最初は怪しんだが、結局ついていくことにした。

公園の水の出ていない噴水のふちに腰を掛けた。

「少し肌寒いね」と言った栗原の肩に、日向は自分の上着をかける。

「優しいね。ありがとう」

「別に…」

日向は、何故か恥ずかしくて、目を合せられなかった。

話がしたかったのに、たいした会話もなく、ただ時間だけが過ぎていく。

「あのさ…」

決心した日向の口が開いた。栗原と友達から始めたい。

「友達になろうよ」

言ったのは栗原の方だった。

「これから〝まさ〟って呼んでいい?」

「え?ああ、うん」

日向は少し照れた。

今蒔く種は何とやら。日向は山田が教えてくれた言葉を思い出している。

今のこの行動が、近い未来、どんな花を咲かせるのかと…。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


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