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第2話 お前は関わるな~小さな世界の知らない世界~4

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寒い日には暖かいものに限る。じゃあ、暖かいものはなんだ。ラーメンだ。

という流れで、仕事のお昼休みにラーメンを食べに行った。

人気ラーメン店の姉妹店にあたるラーメン店〝ラーメン出楼(でろう)〟。ここに通う人を〝デロリアン〟と言うらしい。くだらない。これはきっと、〝デロリアン〟としたいがために〝ラーメン出楼〟と名付けたのではないかと考えた。

ラーメン出楼もそれなりに人気なお店らしく、行列は無いものの、店内はほぼ満員であった。

たまたま空いた席に座り、しょうゆラーメンを頼んだ。隣に座っていた中年男性がテーブルを拭き、席を立った。その席はすぐ次の客が座った。

「トンコツミソミソ、アブラカタブラ、ネギモリ、ニクマンマ」

その席から何やら呪文らしき言葉が発せられた。よく見ると、その席に座っていたのは俺よりも若く見える青年だった。

俺のところにある、しょうゆラーメンとは比べ物にならないくらいの大きさであるラーメンが、その青年のところに置かれた。

青年と一瞬目が合った。気がしただけだったかもしれない。青年は黙々と食べ始める。

俺よりも後にラーメンが来たにもかかわらず、食べ終えるタイミングはほぼ同時だった。

さっき食べたラーメンはどこにいったのか。と思うくらい華奢な体つきの青年は気が付くと俺の後ろに立っていた。

「少し時間ありますか?」


店を出て、すぐ近くの公園のベンチに座った。

朧月(おぼろづき)事務所の者です」

「朧月事務所?ああ、例の興信所か」

「はい、そうです」

俺よりも若く見える青年が探偵業をやっているのが不思議だった。

「違う話になるけど…君いくつ?」

「え、僕ですか?今年で二十二歳です」

俺よりも五つ違う。探偵業はおじさんとかがやるものだと思っていた。

「この仕事はおじさんとかがやるものだと思っていましたか?」

「え?」

驚いた。この青年は心が読めるらしい。

「別に心を読んでるわけじゃないですよ。心を読むのは占い師がすること。心を整えるのはサッカー選手がすることです」

「え?」

驚いた。この青年は何を言っているのか。

「イメージで勝手に作り上げないで下さいよ。確かに、探偵は警察OBのおじさんとかがやっていますけど、うちは違います。うちの所長なんてまだ三十代ですからね」

「あれ?君が朧月君じゃないの?」

「僕は違いますよ」

「じゃあ、君の名前は?」

「僕のことなんて、いいじゃないですか。本題に入りますよ」

少し腑に落ちない感じがしたが、本題に入ることにした。


「………と、いうことです」

腑に落ちないというのはこういうことだった。

「そんなこと、あるんですか!」

「そんなに、怒らないで下さいよ。これが真実なんです」

怒りとか悲しみといった感情は不思議とない。混乱しているからかもしれない。

「じゃあ、逆に聞きますよ。日向さんはいくつ〝世界〟を知っていますか?」

「その質問の意味が分からない」

この青年は余計に混乱させるつもりなのだろうか。

「それでは質問を変えます。地球上の動物の種類は何種類だと思いますか?」

「百万種くらい?」

「そうです。さらに、いまだに発見されていないものを含めると二百万種は越えます」

「そうなのか」

二百万という数は想像できない。が、ものすごく多いというのは分かる。

「簡単に言ってしまえば、自分の知らない〝人間の世界〟っていうのが、それだけあるんじゃないか、ってことです」

言われてみれば、戦争をしている世界、飢餓で苦しんでいる世界、引きこもりニートの世界、いろいろな世界があった。

あっ。以前、彼女が読んでいた小説を思い出した。

「〝取り立て屋〟とかは?」

「あ、それ近いです。たぶん〝取り立て屋〟は〝そっちの世界〟と〝こっちの世界〟の境目に存在すると思っても、いいと思います」

〝そっちの世界〟と〝こっちの世界〟とはなんだ…。たぶん、戦争とか飢餓とかニートとかとは違う、もっと別の世界なんだろう。

「この、探偵業も境目に存在するものだって、いつも朧月さんが言ってます」

「あ、そう…」

興信所と言えば個人情報の宝箱だ。だからだ。いろんなことが頭をよぎるが、考えないことにした。考えることが怖くなった。

「そうそう、今聞いた話は拡散しちゃダメです。他言無用ですよ。彼女さんにもなるべく」

と言って、青年はポケットから彼女の写真を取り出した。

「こんな可愛い彼女さん大切にしないとダメですよ」

「お…脅し?」

「違いますよ。取引みたいなものです」

幼さ残る笑顔を見せ、青年は帰った。

時間にして二十分くらいだった。が、それよりも長く感じた。

知らなくていいことを知りすぎた気がする。早く家に帰って、ご飯食べて、お風呂に入って、布団に入りたい。

彼女と一緒にいたい。

そんなことを思いながら職場に戻ることにした。


職場に戻りながらあることに気付く。まるで、挙動不審者だ。

道行く人の視線が怖い。路地裏のネコに驚かされる。あんな話を聞いた後だからだろうか。

後ろからやって来る足音に気付いた時、思わず体がビクついた。

「なんで、そんなにビクビクしているんですか」

その声に聞き覚えがあった。数分前まで聞いていた声だった。

「なんだ、君か」

「ごめんなさい。一つだけ渡すの忘れてました。これ、今の桜さんです」

渡されたのは一枚の写真。映っていたのは桜という女性で、髪は長く金髪であり、色白だった。

「こんなの渡されても、俺にはもう関係ないだろ」

「そんなこと言わないでください。この女性に注意してくださいってことです。では」

俺は押し付けられた写真を破き、コンビニのゴミ箱に捨てた。


ある日、道を歩いていると横断歩道の手前で、赤い首輪をした一匹のチワワが座ってる。

飼い主が着せたであろうダウンのジャケットが邪魔そうにも見える。

俺はその隣に並び、信号が変わるのを待った。

もう一度チワワを見ると、チワワも俺の方を見ていた。

このリードを取ってくれ。自由になりたいんだ。とでも言いたそうな目で見てくる。

ごめん、俺にはできない。心の中でつぶやいて前を見た。その時だ。

俺以外のすべての時間が止まったように感じた。俺の見ているもの以外何も視界に入らなかった。

横断歩道を挟んだ向こう岸に見たことのある女性がいた。髪は長く金髪であり、色白の女性。桜だ。桜に違いない。

写真で見たのと同じだ。あの写真を捨てたのは惜しかった。が、間違いない。

信号が青に変わり、犬に引っ張られ飼い主も歩き出した。

続いて俺も歩き出す。

桜とすれ違う。意識はしていないが目が合った。桜から視線を外し、俺は心の中でつぶやいた。


俺はロングヘアの女性は嫌いだ。


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