第2話 お前は関わるな~小さな世界の知らない世界~2
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お盆に入り、さすがに友人へお香をあげに行こうかと考えたが、実家の場所もお墓の場所も分からないことに気付いた。
仕方なく俺は、パソコンで友人について調べてみることにした。
パソコンを立ち上げて、ブラウザを開くと後ろから声が聞こえた。
「何やってるの」
不覚にもビクッと体が反応してしまい、心拍数が無意識のうちに上昇しているのが分かる。
「いやらしいサイトでも見ようとしたんでしょ。あー、いやらしい」
彼女の顔が俺の顔のとなりに現れた。違うと分かっていても冷や汗が止まらないのはなぜだろうか。
「違う、違う」
「じゃあ、何よ」
彼女の鋭い視線が俺の頬を刺す。
「いや、ほら、前に友人が死んじゃったじゃん。そのニュースを全然見ないからさ、どうなったのかなと思って…」
「へー」
彼女の視線で頬に穴が開きそうになる。
「だから、検索してみようかと思って…」
「今?」
〝今?〟と聞かれる意味が分からないが頷く。
「なんで突然そう思ったの?」
あれ、なんでだろう。何故俺は今になって調べようと思ったのか。自分でもよく分からない。
「とりあえずさ、調べてみなよ」
と、彼女に肩を叩かれた時、すべての緊張から解放された気分になった。
とりあえず、俺は検索スペースに入力した。
『轟沢一郎』
検索結果で出来たのは政治家であった。一郎は一郎だが轟沢ではない。
今度は検索結果を絞り込もうとスペースを空けて入力してみた。
『轟沢一郎 事件』
今度は推理小説や探偵アニメなどがヒットした。轟沢も一郎もほとんど関係がなくなっている。
『轟沢一郎 死因』
と入力して検索すると、死因の方に検索エンジンが反応したのか、結局得たいものが得られなかった。
『轟沢一郎 死因 薬物』
「え、なんで薬物?」
彼女のこの言葉に気が付いた。無意識のうちになんとなくそう入力していた。
俺は心のどこかで薬で死んだんじゃないかと思っているらしい。
「さあ、なんでだろう?」
検索ボタンを押すが何も得るものはなかった。
「なんも分からないままかー」
俺が伸びをしていると、横にいた彼女がキーボードを占拠した。
何か閃いたものがあったのかと思い、画面を見た。
『日向』
の、検索結果が出ていた。
「俺の名前かよ」
「いいじゃん、別に」
〝いいじゃん〟で検索されるとは思ってもみなかった。
「でも見てよ、戦艦だよ戦艦。かっこいいね」
「あ、本当だ。てっきり、フルーツが出てくると思った」
「それって、日向夏のこと?」
「そうそう」
『日向の日向夏』
「意味が分からないって。ほら、意味が分からないのが出てきたじゃんか」
「ほんとだね」
彼女がアハハと笑っているすきに俺は検索スペースに入力した。
『栗原』
「あ、今度はわたしの名前?どれどれ」
彼女が画面を覗きこむがたいした結果が得られずにしょんぼりした。そんな姿も可愛らしかったのは言うまでもない。
母親が、今夜はカレーよ。と言うように、彼女が、今夜は恐怖映像よ。とディスクを持ってきた。仕事場の先輩に借りたらしい。
「なんか、怖いのって嫌じゃん」
「じゃあ、見なければいいだろ」
「でも、なぜか見たくなっちゃうんだよねー」
「俺はパスするよ」
「怖いものほど見たくなる!」
「俺はパスするよ」
「さあ、見ようか!」
俺の訴えは虚しくも彼女には届かなかった。
俺はしぶしぶと彼女の隣に座って鑑賞することにした。
ホームビデオに写っているのは、女の子のジェニファーと、その家族と、その友人。
内容はジェニファーのお誕生日会である。
「Happy Birthday To You♪ Happy Birthday To You♪」
家族と友人がジェニファーとケーキを囲んで歌っている。異変はこの後から起こる。
「Happy Birt…y T… …ou♪」
カメラのマイクが不調なのか一部切れた。
「ウフフフ」
一瞬、何か聞こえた。
ぴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。プツンッ。
甲高い音がかすかに聞こえた後、ジェニファー宅の電気が切れた。
「(ハッハッハ、停電だよ)」と、ジェニファーの父がブレーカーを上げに部屋を出た。
「キャーーー」突然、ジェニファーの母が叫んだ。
「(何、どうしたの?ママ)」
ジェニファーが尋ねると、母は無言でケーキの方を指差した。
ろうそくが激しく揺れている。
「(ちょっと、いたずらしないでよ)」
ジェニファーは友人にそう言ったが、友人は何もしていないと答える。
ろうそくはまだ激しく揺れている。
父がブレーカーを上げて戻ってきた。
「(電気戻ったぞ。あれ、どうかしたのか?)」
みんなが、父の顔を見ている。
「(あなたこそどうしたの?)」
「(え?)」
父が自分の顔を手で拭った。拭った手を見るとそこには、黒い液体のようなものが付いていた。
父が〝うあー〟とも〝うぉー〟とも聞こえるような声を上げ、洗面台へと駆け込んだ。
「(もう、ヤダよ)」
ジェニファーが泣き出した。
「(そういえばさ…)」
友人が口を開いた。
「(そこにいるの誰?)」
友人が恐る恐るカメラの方に指を向けた。
その場にいるみんながカメラの方を向いた。あなた誰?
「ウフフフ」
ザーーーーーーーーーーー。
急に、映像にノイズが入ったかと思うと、元に戻った。
映像に写っていたみんなの姿が黒くなっている。気のせいだろうかと思った次の瞬間。
映像が天井を向いた。そして、そこに写りこんだのは………。
俺と彼女はテレビから目を逸らしていた。
「ふう。やっぱり怖かったね。見るのやめようか」
彼女はリモコンを操作して、停止ボタンを押した。しかし、いくら押しても映像が止まらなかった。
「あれ、なんで、どうして…」
「ちょっとまてよ。冗談はやめてくれよ」
俺は受け取ったリモコンの電源ボタンを押した。が、反応はない。
「うそ…」
リモコンの裏を叩いてから、ボタンを押すがやはり反応が無かった。
俺の思考回路がすべて停止した。停止ボタンは押していない。パニック状態になっている。
彼女がふと立ち上がり、レコーダーのボタンを直接押した。
「え?」
呆気にとられていると、彼女がポケットから何かを取り出した。
「ウフフ。これが、電池です」
「え?あ、はい。電池です」
「さっき、抜いておいたの。どんな反応するかなーって」
「なんだよ、もー」
「大せいこー」と、彼女がピースをしてきた。満面の笑みで。
これもまた可愛らしかった。知っていたが、改めて思った。
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