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第1話 悪魔のつぶやき~気が付けば奴がいた~

『搬送先の病院で死亡が確認されました・・・』

「え…」俺は手を止め、テレビにかじりついた。もう一度確認すると、やはりニュースになっていたのは、友人だった。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


「おいおい、物騒な夢見てんじゃねえよ」

「いや、見ちゃったもんはしょうがないだろ」

「知ってるか、夢っていうのはその人の願望が映し出されるんだぞ」

「へー」

「へーって、お前は俺にそうなってほしいのかよ」

「いやー、そんなわけじゃ…」

「何、ニヤニヤしながら言ってんだよ。まったく」

「アー、トテモカナシイナ」

「ふざけてるだろ」

「別に、ふざけてなんかないよ」

「ま、遅かれ早かれ生き物は死ぬんだから、そんな顔すんなよ」

「そうだな、別に俺が死ぬわけじゃないし」

「おい」


学校の帰り道、俺と友人は一緒に歩いていた。家の方向が同じだからだ。

道路わきには桜が咲いている。

目の前の信号が赤に変わって止まると、向こう岸の横断歩道前で、青い首輪をした一匹のチワワが座っていた。

今すぐにでも渡りたいのか、必死に顔を前に突き出している。

「犬ってさ、信号分かるのかな」と友人がボソッとつぶやいた。

「なんだ、急につぶやいて」

「いや、ほらあのチワワ、必死に渡ろうとしてるじゃん」

「さあ、でも、飼い主がいる限り大丈夫だろ」

信号はまだ赤のままだ。


少ししてから俺の携帯が鳴った。

会話が止まっていた状態の中で鳴ったため、友人は驚いていた。

「誰から?」

友人は何かを期待しているのか目を輝かせている。

俺はその期待には応えられないと、携帯の画面を見せつけた。

「なんだ〝つぶったー〟からか」と友人はつまんなそうに言った。

俺は携帯を操作して〝つぶったー〟の画面を開いた。画面には【拡散希望】という文字と、だらだらと文章が書かれていた。

横から友人が覗いていたが「なんだか騒がしい」と見るのをやめた。

「今さ、俺たちがこうやって、あのチワワを眺めている間に、別の世界だといろんなことが起こっているんだな。ってたまに思うよ」

と、俺が青い首輪をしたチワワを眺めながら言うと、友人は「なんか、お前おかしいな」と笑って言った。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


桜の花びらは散ることをやめ、梅雨も過ぎたころ、俺は日陰にいるにもかかわらず、汗がだらだらと出続ける。汗は止まることを知らないようだ。

と、俺は文豪気分で考えてみた。

考えているうちに、なんだかおもしろくなって吹き出した。

「何、突然吹き出したのよ」ロングのストレートヘアで、色白のモデル体型の彼女が言ってきた。

「髪色がな、金じゃなくて黒だったらな、俺はもっと好きになるのにな」

と、彼女の髪の毛に触れると

「キモい」

と、一言俺にぶつけてきた。

「え、本気で言ってるの?冗談はよしてよ」

と、俺はまた彼女の髪の毛に触れると

「キモい」

と、一言俺にぶつけず、今度はそういう目つきで俺を見つめた。さすがに、髪の毛から手を放した。

「そうだ、今度さあんたとよく一緒にいる友人に会いたいんだけど、いいよね?」

「え、何で?」

「いいから、会って色々話したいんだよ」

「向こうは彼女がいるぞ。君は俺という彼氏がいるぞ。浮気か?」

「はぁ?いいからさっさと会わせろよ」のような目つきで俺を見つめた。

そんな目つきで俺を倒せるものかと抵抗したが早くも崩れ落ちた俺は「はい、分かりました。今度聞いてみます」となぜか敬語で話してしまった。

彼女は「決まったら予定教えて」と言って、外へ出かけた。

きっと、仕事だろう。


ある日、公園のベンチに座り、噴水で遊ぶ子供を眺めていた。

「今日も暑いな」そう言って、友人は隣に座った。俺は今日、彼女からの任務を実行するつもりだった。

「今度は子供を眺めているのか」友人が俺の顔をのぞいて言った。

「そんな顔をして見てると、犯罪者と間違われるぞ」

「お前のにやけ顔の方が犯罪者だ」と言ったが、友人は答えない。俺の反撃は華麗にスルーされたらしい。

「あのさ、今度俺の彼女と会ってくれない?」

「え、何で?」

「なんか話がしたいって」

「え、何で?」

友人のにやけ顔がすこし曇ってきた。これは荒れそうだ。心の中でつぶやいた。

「な、会ってくれよ。会ってくれないと、俺の首が危ないんだよ」

「なんかヤバいやつなのか?」

「いや別に」

「じゃ、パスで」

友人の清々しい顔に、俺は何も言えない。

「もし、ヤバいやつだったら?」

「パスで」

「ですよね」

彼女からの任務は失敗した。

噴水で遊ぶ子供を二人して眺めていると、少し経ってから友人が聞いてきた。

「お前、まだあの女と付き合ってるのか?」

「あの女って言うな。そうだ一回も別れていないぞ」

友人の顔が曇っている。さっき以上に。

「あれ、俺の彼女と会ったことあるっけ?」

「彼女になる直前の写真を見たことがるよ。あの時…」

「あの時?」

「いや、何でもない」と言った友人は目を伏せた。

「なんか、お前おかしいな」と俺は笑って言った。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


季節の変わり目で体調を崩したのか、これから来る寒さに備えて味噌ラーメンを食べすぎたのか、原因は分からないが、最近身体の調子がおかしい。

なぜかたまに、息苦しくなり、元気も出ない。残念なことに、こんな身体の調子でも下の方は毎日パワフルである。

そのパワフルの原因である人物、いわばパワフルメーカーの彼女が持ってきてくれる風邪薬が唯一の救いだった。

「はい、これ今日の分」

「いつも悪いね。そこに置いといてくれれば自分で飲むんだけど」

俺は居間にあるちゃぶ台を指差したが、彼女はその手を軽く抑えて

「だめよ、誤って飲み過ぎたら、身体もっと悪くなるでしょ」

と、見つめてきた。

こんな身体の調子でなければ、今すぐにでも彼女に飛びついたであろう。しかし、残念ながら下の方しかパワフルにならなかった。

渡された薬を飲んで、布団に入ると、少し身体が楽になった気がする。

彼女は台所で何かを調理し始め、俺は布団に入ったまま天井を眺めて言った。

「なんかさ、最近俺に優しくない?」

「え、そう?」

「そうそう、いつもはさ、こんな目つきで見つめられるときがあったけどさ…」

俺は両手で両目尻を釣り上げた。彼女が俺の方を見ていないと気づき、両手を布団にしまった。

「君からの任務失敗した時なんてもう…なんかいいことあった?」

彼女は台所に立ったまま、病人はいたわるものよと言った。


彼女は仕事に行き、一人になった。風邪を引くと決まって変な夢を見る。

今いる部屋がものすごく広くなり、足元に一粒の小さな石が落ちている。俺はその石を拾い、指でこねくり回すと、その石がだんだんと大きくなる。そんな不思議な世界。

逆に、この夢を見たとき「あ、風邪引いたんだ」と気づく。

これと言ってやることもなく、ただ布団に入ったまま天井を眺めてこの夢を思い出す。

さすがにつまらなすぎる。まだ、大喜利番組の赤い着物を着て、座布団と幸せを運ぶ人の話の方が面白い。

俺は携帯を操作して、つぶったーに繋いだ。とりあえず、つぶやく。


【拡散希望】身体だるおもー


つぶやいた後、なんだか虚しくなった。

少しいて、友人からのコメントが来た。


拡散希望する必要ないだろ!(笑)


確かに。

俺は友人からのコメントで少し元気が出た。もちろん下の方ではない。

さっき彼女が作ってくれたご飯でも食べて、明日は学校に行こうか。

そんなことを考えながら布団から這い出る。

ふと、さっき飲んだ薬を思い出す。

そういえば、容器はどこだ。薬はどこにある。薬を飲むタイミングはいつなんだ。今、ご飯食べてもいいのか。

とりあえず、台所に向かった。ご飯を食べよう、そして寝る。

薬のことは気にしないことにした。

だが、いくら探しても、台所には何もなかった。冷蔵庫も何もない。どこにいったんだろうか。

そこは、分かる人に聞いた方が早い。ということで、携帯を操作して、彼女にメールを送った。


さっき、料理していたのは、今どこにあるの?


彼女からの返信はすぐに来た。


私が今持ってるけど


俺もすぐに返信する。


俺の分は?


またすぐに返信が来た。


作ってほしいなんて、言ってないでしょ


確かに。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


結局、体調が良くならないまま年を越した。いつからか忘れてしまったが、彼女は俺に薬を常備することを許してくれた。

体調の変化の波は激しい。が、大概薬を飲めば楽になる。

年を越す前、一度友人が見舞いに来てくれた時がある。彼女がいないときに。

そのとき、この薬を見た友人が、それって麻薬とかじゃないのかと尋ねてきた。

そのことを彼女に話すと、彼女はそんなことあるわけないと、いつもの鋭い目つきで俺を見つめた。

見つめてるんじゃない。睨んでるんだ。前に友人に言われた気がする。

外が寒いからコタツに入る。と同じように、体調が悪いから薬を飲む。それだけのことだ。

体調が良くなれば、飲むことをやめればいい。それでいい。

学校に行かなくなって、単位のことを気にしなくなったのはいつからだろうか。

事務的な扱いはどうなんだろうか。

休学、中退、退学どれだろうか。まだ在籍中なのか。どうなんだ。

今度聞いてみるとしよう。

とりあえず、今日の分の薬を飲み、布団に入って何もない天井を見上げた。

明日が来なければいい。

年を越してから思うようになった。しかし、残念ながら明日は来てしまう。


俺は誰だ。

お前は誰だ。

俺は居るのか。

お前は居るのか。

俺は存在するのか。

お前は存在するのか。

俺は誰だ。

お前は誰だ。


この間、彼女が学校に連絡してくれた。俺の扱いについてだ。

学校側はプライバシーの保護だと言って教えてくれなかった。当然と言えば当然だ。

しかし、俺が聞いたからと言って教えてくれることはないだろう。プライバシーの保護だからだ。

この時あたりからだ、自分の存在を問う夢を見るのは。

彼女がいつもそばに居るようになったのも、薬の量も増えたのもこの時あたりからだった。

きっとこの時から俺の周辺で何かが変わった。もしくは俺自身が変わった。たぶん前者な気がする。俺自身変わったつもりはない。

今日は彼女から渡された薬を飲むことになっていた。いつもとは少し違うらしいが、よく分からない。

俺は薬を取り出して、口の中に入れて、水で流し込んだ。

少ししてからだった。身体中に鳥肌が立つ。

何だこれ?

そう思った途端、口の中に酸味ある液体が、胃の方から上がってきた。我慢できずにそれを吐き出した。

それがきっかけとなって、胃の中のもの全てが口から出てきた。

何だこれ?

そう思うことすらできないほど、激しい頭痛もしてきた。

俺は息が苦しくなり、その場にうずくまる。

目が回っている。立ち上がることができない。


どうしてだ。何でだ。何がいけないのか…。

薬か?薬がいけないのか?

誰が渡した?彼女から渡された。

どういうことだ。

分からない。


頭痛を堪え、考えた。考えたが分からなかった。

朦朧とした意識の中、居間にある携帯に手を伸ばした。

きっとまた、友人に拡散希望する必要ないと言われるだろう。そんなことを思いつつ、携帯を操作した。

根拠はないが、自分が感じたことに自信があったからつぶやいた。


【拡散希望】俺のとなりに悪魔がいた


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