第9話:女王≠姫
わたしアリス16歳は、お城へ滞在することになりました。
「女王様の許可が下りたって白うさぎくんは言ってたけど、わたしまだ、女王様に会ったこと無いのよね……」
用意された部屋のベットの上で、小さくこぼす。
ふかふかな布団、かわいらしい天蓋。わたしなんかにこんな豪華なベット使わせちゃって、いいのかな?
そんなことを思いながら、わたしは枕を抱いて半ば夢心地だった。
ここに来てから、もう3日が経つ。最初は白うさぎくんに色々な所連れてって貰ったんだけど、あの子もそんな暇じゃないみたい。
「なんて言ったって、伯爵だもんね……」
まだ子供なのに、すごいなぁ。町の様子も詳しいみたいだったし。
そういえば、この秘密の国って、わたしの居た世界とあまり変わらないんだよね。普通にお店あるし、遊園地とかプールだってある。
帰れるまで、意外にも退屈しないかも。とか思ったんだけど、それは誰かと行く場合。
わたし一人じゃ、迷子になっちゃう。地図とかないのかな? それならまだ、町に遊びに行けるのに。
「はぁ…ひま……」
お城でも探索しようかな、なんて。でも、全てが高級品で怖いんだ。壊したら、洒落にならない。
白うさぎくん、来てよー。
またどっか連れてってほしい。
わたしがそう考えていると、願いが通じたようにドアを叩くノックの音が響いた。
「白うさぎくん!?」
わたしはガバッと勢いよく起き上がり、扉を開けた。だけどそこにいたのは、うさぎ少年ではなく。
「………え?」
自分と同じか、はたまた少し年下くらいの女の子だった。
モスリンたっぷりピンクのドレス。
真紅の薔薇と純白のレースが、鮮やかに彩って。
フリルを惜しみなく使われたそれは、とても素敵なものだ。
――すごい可愛いけど……誰?
わたしが無意識に凝視すると、その子はムッと口を尖らせて言う。
「白うさぎじゃなくてごめんなさいね」
「……え?」
我ながらマヌケな声がこぼれた。女の子はそんなわたしを一瞥し、部屋のなかへと入ってくる。
彼女が目の前を通った瞬間、ふわりと花の香りがした。ローズ…かな?
「ふーん。白うさぎ、わりといい部屋を選んだわね」
見渡した女の子がそう言った。わたしはいまいち状況が理解できず、棒立ち状態。
「あなた、名前は?」
「あ、アリス。アリス=リデル」
「アリス……。可愛い名前ね」
ふわっと笑う。
――か、かわいい! 君のほうが100倍かわいいよ!
くるくるに巻かれたブロンド。お人形みたいな容姿。ほんのり色付いた頬。背はわたしより一回り小さくて。
抱きしめたい衝動にかられる。
わたしがうずうずしながら見つめていると、女の子はドレスの端をつまんで、ちょこんとお辞儀した。
「はじめましてアリス。あたしはこの国の女王。秘密の国の、最高権威」
そう言って。───って、え?
ええぇぇぇぇぇ!? この子が女王様!?姫の間違いじゃない!?
わたしが戸惑っているのもおかまいなしに、女王と名乗る女の子はくすっと笑った。
「白うさぎが泊めたいって言うから、どんな子か見に来たのよ。……でも、ふふっ」
女王様は、わたしをつま先から頭のてっぺんまで舐めるように見る。
「蜂蜜色の長い髪。サファイアにも負けない青い瞳。そのエプロンドレスも可愛い。気に入ったわ」
そして………え?
ちゅっ
「………!」
ほっぺにキスされた。
いや、別にそのくらいなら挨拶でよくするけど、でもでも、こんな可愛い子にされると心臓が……!
「あなたなら、いつまでも居ていいわよ」
彼女は大人っぽく笑い、部屋から出ていった。
ヤバイ。ドキドキしすぎて死にそうだ……。