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第88話:SYMMETRY



時々、理不尽だと思う時がある。それは勝手に一人で出掛けてしまう時とか、共同の物を別にしたがる時とか。

なんだかこれじゃあ、俺ばかり嫌われてるみたいじゃん。あ、いや、実際に嫌われてるんだろうけど。

べ、別にショックじゃないぞ!? 俺だってアイツのことなんか大嫌……うぅ。


とっとにかく、どこかの金髪女にはブラコン呼ばわりされてるが、俺は断じてそんなことない! ……ことも、ない。

いやいやいや、そんなの今はどうでもいいんだ。要は俺ばかりこんな風に悩むのがムカつく。

だから、お前だって同じ思いを味わえばいいんだ。



「ダム! 俺今日、出掛けるから」


―――と、思ったのに。


「ん、いってらっしゃい」


ソファに座り雑誌から目を離さずに答える双子の弟。俺はそのあまりにあっけらかんとした返事に、つい間抜けな声をあげてしまった。


「え、俺ひとりで出掛けるんだぞ? いいのか?」

「うん、僕も今日用事あったし」


相変わらずこちらを見ないで淡々と答える。

落ち込むとか不機嫌になるのを予想してた俺は、その反応に羞恥と怒りがこみ上げてきて。


「ダムのばかぁぁぁぁ!!」


気が付いたら、家を飛び出していた。





「Greensleeves was my joy♪ Greensleeves was my delight♪」


町に遊びに来ていたわたしは、歩きながら歌を口ずさんでいた。いや、遊び、では語弊があるかもしれない。

お茶会に行くので、何か手土産でも買おうと思い来たのである。……お金は、その、わたしのじゃないけど。


「Greensle「おい!」


気分よく歌っていたというのに、突如背後から腕を強く引かれた。驚いて振り返れば、そこには見慣れた少年が立っていた。

僅かに頬が赤いのは、走っていたのか、怒っているのか、はたまた照れなのか。

なんとなく、後者はない気がする。照れる理由がないし。


「えーと……ディー、だよね?」


確かめるように瞳を覗きこめば、彼はぶっきらぼうにそうだよ、と小さく呟いた。

掴まれた腕とディーの顔を交互に見やる。いったいなに?との意味を込めて。


「あの、さ……」


しばらくして、彼が口を開いたときである。


「ちょっと!」


わたしの腕を掴んでいたディーの腕を、第三者が掴んだ。

わたしとディーは同時に視線を移す。そこには、金に近い茶髪の女の子が不機嫌顔で立っていた。


「? 知り合い?」


尋ねると彼は首を振る。その仕草に、女の子は今度は確実に怒りを露にした。

彼女はディーの腕を強くひき、─その時ディーはわたしの腕から手を離した─視線を合わせる。


「酷いじゃん! 今日わたしと遊ぶ約束してたでしょ!? なのに他の子とデートなんて信じられない……!」


そうまくし立てる女の子に、ディーはまるで訳が分からないといった表情で、はぁ?と間抜けな声を出した。


――っていうか、なに? ディーその子と約束してたの?

そりゃあ怒るだろうな。自分の約束を反故された上、隣に違う女の子がいるんだもん。

これがダムだったら上手いこと言ってなだめるんだろうけど、そこはディー。無神経男にそんな気遣いはない。


「意味わかんねぇ。俺が誰といようが関係ねぇだろ」


まさに火に油を注ぐ言葉である。彼女はうつむいて肩を震わせている。

さすがにまずいと思ったわたしは、フォローに入ろうとしたが、それよりも早くディーは口を開いた。


「っていうか、お前だれ?」


その直後、彼女の張り手が炸裂した。


「ッ最低! なんで今日はこんなに酷いの!」


なんとも痛々しい音の後、女の子の涙声が響き渡る。

叩かれたディーといえば、突然のことに面食らっていて、灰色の目をパチクリさせてる。


わたしもただただ、呆然と立ちつくしていて。いやだって、まさかこんな場面を目の前で見るとは。

女の子は拳をギュッと握りしめ、固まっているディーに向かって叫んだ。


「なによダムのばかぁ!!」



…………はい?



いま、間違いなくわたしとディーの心の声はシンクロしただろう。

だってビンタされたのはディーで、でも今この子はダムって……えーと、え?


「僕がなに?」


その時、そう言って女の子の肩を叩いたのは。


「……え?」


次は女の子が驚く番だった。

いきなり現れた少年はそんな彼女の肩に触れたまま、彼は頬を赤くさせたディーと呆然としてるわたしを交互に見る。

そう、ディーの双子の弟、ダムが。


「あれ、ディー。出掛けるってアリスとだったんだった。なるほど……ね」


含みのある言い方をして、わたしをチラリと一瞥するダム。……顔は笑ってるのに、何だかものすごく恐いんですけど。

露骨な嫉妬は止めようね。恐いから。いや、真面目に。

黒いオーラから目をそらしつつ、わたしはさりげなくダムから距離をとった。


「えっ、ダム……なんで……!?」


隣のダムと、目の前のディーを何度も見る女の子。なるほど、やっと状況が分かってきた。

まとめると、こうだね。この女の子は、ダムと約束してた。なのにダムとそっくりなディーがわたしといて。彼女はそれをダムと間違えた、で、怒り爆発。ビンタした後、本人登場ってわけだ。

ダムはそれを一瞬で見抜いたのか、混乱してる女の子に言う。


「前に言ったでしょ? 双子の兄がいるって。まぁ、瞳の色しか違わないけどね」

「や、やだ。あまりにそっくりだから、あたしてっきり……」


さっきとは違う意味で、彼女は顔を真っ赤にする。慌てふためく姿はなんだか可愛い……って、違う違う。

――どういう関係なんだろう。……彼女?

隣のディーを見上げると、彼は叩かれた頬に手の甲をあてながら、かなりの不機嫌顔だ。

女の子がおずおずとディーの前に出る。


「あ、あの、ごめんなさい。わたしダムと間違えて…まさかお兄さんとは……」

「なっ、誰がお義兄さんだ! お前に義兄さん呼ばわりされる筋合いはない!」


うわ、ウザイよディー。かなりイラッとくるよディー。

ダムは苦笑してるし、女の子は頬引きつってるし。

それでもやはり悪いという自覚はあるのか、彼女は肩を落として、申し訳なさそうにディーを見上げてる。

それにディーはムスッとしながら、黙り込んでいる。まぁ、あんだけ勢いよくビンタされたんだ、納得いかないだろう。

――でも、ディーの言い方にもちょっと問題があった気がするけど。

もうちょっと優しさというか、思いやりを考慮した方がいい。


「……別に、間違えられるのなんて慣れてる、けど」

「ディー……」

「っ、ダムのばか! この女たらしィィィ!」


町広場のど真ん中で誤解を招く捨て台詞を吐き、ディーは人混みへと走っていった。

周りの視線は走るディーではなく立ちすくむわたし達に向けられ、かなり居心地が悪い。


――これは、追い掛けた方がいいよね。

ダムは今までのことから考えて、優先順位が女の子>ディーだし。

わたしは彼が走り去っていった方向へ足をむける。

追い掛けるね、と言いかけて、わたしは口を噤んだ。


「僕が行くよ」


後ろから、ダムにやんわりと肩を掴まれたから。


「えっ、ちょっとダム!」


女の子が叫ぶと、彼はごめんね、と両手を合わせつつも、すぐに双子の兄を追い掛けていった。

うーん、意外。なんだかんだいって仲良しだなぁ。


「なによぅ……」


隣の女の子は涙まじりの声で言う。慰めようとしたら、女の子は肩を落としながら、フラフラと覚束ない足取りでどこかへ言ってしまった。


――えーと、わたしまた置いてきぼり? 

っていうか今日のわたし、存在が空気じゃない?


「そんなことないよ」

「いやいや、そんなことあるって。だってみんなわたしを……って、ええ!?」


返ってきた声の方にわたしは勢いよく首をぐるりと回した。そこには、さっきディーを追いかけたはずのダムが。

あまりの驚きに口を金魚のようにパクパクと開閉するわたしを、彼はにこやかに見る。


「な、なんで……」

「うん、なんか追いつくの無理そうだったから」


いやいやいや! 諦めるなよ! せっかく感動の兄弟愛だったのに台無しだわ!

心の中でつっこみつつも口に出さないのは、この目の前の少年が恐いからである。

言ったら視線で殺される気がする。うん、本気で。


「ねぇアリス」

「なっ、ななななに!?」

「君、ディーのこと好きなの?」


唐突な質問に、わたしはほぇ?とまぬけな声を漏らしてしまった。

ダムは相変わらずニコニコと笑っているが、それが逆に恐い。


「き、嫌いじゃないけど……。っていうか、男友達?」


どもりながらも答えると、ダムは納得したかのようにそっか、と目を細める。


「なら良いんだ。それじゃ僕、アンディに謝らなきゃだからまたね」


片手をあげ、小走りで彼は人混みに消えていった。



――えーと、アンディって誰?




「…お茶会行こう…」


別にいいよ。放っておかれたって。……寂しくなんかないよバカ!

SYMMETRY…対称

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